F1の大音量サウンドが復活か!? 現行のエンジン音は小さすぎるのか。F1と音の関係を考察する
F1の問題は音だけなのか?
最新技術の塊であるV6ターボハイブリッドパワーユニットは、同時にF1マシンを重くした元凶でもあった 【(C)柴田久仁夫】
去年までの2連覇にホンダ製パワーユニットが大きく貢献したことは十分に認めつつ、「パワーの出方や減速時の感触が、僕らが慣れ親しんだ自然なドライビングとあまりにかけ離れてる」というのだ。マックスの言う「パワーの出方の不自然さ」は、エンジンパワーに電気エネルギーが加わる際に、必ずしも安定した感触を得られないということなのだろう。
減速の際も、そのエネルギーの一部を電気に変換するために自然なブレーキングというわけにはいかない。サーキットによっては1周の間に電気エネルギーが切れてしまい、そのマネージメントに追われる。2015年の導入以来、かなり洗練されたシステムになったとはいえ、自然吸気エンジンのスムーズさには今もってかなわないのだ。
さらにフェルスタッペンは、「今のF1は、あまりに重すぎる」とも言う。現在のF1マシンの最低重量は、798kgである。今どきの市販車は軽乗用車でも1トンを超えることを思えば、それでもかなり軽い。しかしかつてのF1マシンは2000年代初頭までは、500kg台の車重を維持していた。1990年代初めのF1マシンは、V12エンジンを搭載しても500kgちょうど。競走馬1頭ほどの重さしかなかったのだ。
それがハイブリッドが導入された2014年には、一気に691kgに。その後も車体の安全性や信頼性を確保するためにどんどん重くなり、現在の798kgに至る。アイルトン・セナが活躍した1980年代後半〜90年代前半と比べると、重量差は実に300kg近い。
軽やかな運動性能が身上のレーシングカーにとって、重いことはハンデキャップでしかない。何より重くなればなるほど衝突時の破壊力も大きくなる。今年のモナコGPスタート直後の多重クラッシュで、セルジオ・ペレスのマシンは原型を留めないほどに破壊された。重量増による衝突エネルギーの増加と、決して無縁ではないはずだ。
事故の際のドライバーのケガの危険を減らすために、さらなる安全対策を講じる。その結果さらにマシンが重くなるというイタチごっこを、今のF1は繰り返しているのだ。
F1は我が道を行くのか
今のF1マシンではオーバーテイクがほぼ不可能なモナコは、ついにモナコGP自体の廃止論まで出てきた 【(C)柴田久仁夫】
むしろ解決すべきは上述した重さ、そして大きさではないか。現行F1マシンのほとんどは(チーム側は情報開示していないが)、全長は5.5m前後、全幅は規定上限の2mと相当に大きい。2017年以前は全長4.5m、全幅1.8mだったのが、1m長く、0.2m幅広くなった。
タイヤのワイド化、そしてホイールベースを長くした方がダウンフォースが増すことで、車体が一気に大型化したのだった。さらに2年前に18インチのタイヤを導入したことで、コーナリング中のドライバーはいっそう視界を妨げられることになった。
その結果、モナコはいうまでもなく、コース幅の狭いイモラや鈴鹿、フンガロリングなどで、オーバーテイクはさらに難しさを増した。
F1はこれまで、抜きつ抜かれつのレース展開を増やすためにDRSを導入したり、先行するマシンに後続車が近づきやすいように車体規則を何度も変更してきた。しかし最も効果的なのはマシンの小型化、軽量化なのではないか。
ただし現行のハイブリッドパワーユニットを維持する限り、大幅な軽量化、小型化は難しい。軽さ、小ささを求めれば、回生エネルギーシステムを捨てるのが最良の選択肢だ。しかしそれは世界的なEV化の潮流に逆行し、ガラパゴス化する危険も孕む。それでもあくまでF1は、我が道を行くのだろうか。
(了)