「一石三鳥」を得た大岩監督の入れ替え戦略 パリ五輪アジア最終予選、準々決勝進出決定
出場組とベンチ組が喜び合う。メンバー変更が生み出すのは「体力温存」だけではない 【AFC】
7人変更というマネジメント
この試合に向け、日本は第1戦から先発11名中7名を入れ替え。前節退場で出場停止のDF西尾隆矢(C大阪)は元より替えるしかないわけだが、それ以外の6名は大岩剛監督が能動的に入れ替えた形である。
試合後、その点について問いかけると、指揮官は「川端さんは(大幅に入れ替えることを)やるだろうと思ってたでしょ」と笑いつつ、こんなふうに説明している。
「信頼できる選手を呼んだつもりですし、スタッフもそのプランにしっかり賛同してくれて、みんなでジャッジをした結果です」
その上で、別の質問に対してこうも語っている。
「コンディションの良い選手、勝つための選手を準備するというのが大前提。この大会を戦っていく上での先発を選びました」
一般的な選手起用のセオリーで言えば、「勝ったらいじるな」ということになる。ただ、今大会は中2日の連戦が続くこともあり、当初から大岩監督はメンバーを入れ替えながら戦うことを示唆していた。過去の同種の大会でも似たような入れ替えをしながら戦ってきており、これは当初からプランしていたことだった。
選手側の受け止め方も冷静を通り越して「そうだと思ってました」といった感覚である。
第1戦で先発しながら、西尾退場に伴って早期の交代を余儀なくされていたMF山本理仁(シントトロイデン)は「7人代わったから不安だったとかは全くない」とした上で、こう語る。
「(入れ替わると)思っていましたし、次の韓国戦もあるし、この先も長いんで。どっかで必ず休まなきゃいけないときが来るから『ここかな』というのは、正直思っていました」
グループステージの第3戦で韓国と決戦になる可能性があり、準々決勝の相手は休養日がB組の日本より1日多いA組のチーム。3位以上で五輪切符が手に入るため、その次の準決勝は最大の決戦で、そこで敗れるようだと3位決定戦が強烈なサバイバルマッチとなる流れだ。しかもその試合が中2日でやってくる。ほぼ休みはない中で同じメンバーで戦い続けるのは現実的ではなく、体力的なマネジメントを考えると、メンバーの入れ替えは必須だった。
もちろん、控えメンバーの質が大きく下がるのであればこの構想は絵に描いた餅だが、「全員を信頼して選んでいる」と言う大岩監督の言葉はよくある社交辞令ではない。実際、主力と控えの実力差が小さいことは日本チームが持つ大きな強みなのだ。その強みを活かすためにも、メンバーを入れ替えながら戦っていく狙いがある。
ただし、こうした入れ替え策は、単に体力面を考慮しているだけでもない。
チームスピリットを養い、一体感を増した勝利
ゴールを決める木村(左から4番目)。練習を重ねてきたセットプレーからの先制弾となった 【写真は共同】
中2日の連戦を消化していく日程の場合に一般的になっている調整法ではあるのだが、一歩間違うと「主力組」と「控え組」の温度感に差が生まれていくことにもなるやり方だ。このため、こうした調整方式を嫌がる監督も少なくない。
ただ、それが「控え組」ではなく「次の試合に出る可能性のある組」として機能するなら話は別だ。
練習後、MF佐藤恵允(ブレーメン)が「みんなギラギラしてた」と笑ったように、第1戦に先発していた選手たちが不在ながら活気のあるトレーニングを実施できたのは、こうした空気を選手たちが察していたからだ。
初先発で殊勲のゴールを決めたMF川崎颯太は試合後、「一昨日から、出ていない選手が『次は俺がやってやる』という気持ちがあって、僕を含めて初戦の鬱憤(うっぷん)や『やってやるぞ』というのを全員で出せていた」と胸を張った。
得点後には、「前日からサブ組が対戦相手役をやってくれていたし、初戦で出たのにサブにいて悔しい思いをしている選手も多いと思うので、全員で喜びたいと思った」と控え組の選手たちと抱擁を交わしていたのも印象的だった。
また、1、2戦ともに先発出場となったDF関根大輝(柏)はそうしたチームの雰囲気について問われて「めちゃくちゃいいです!」と笑いつつ、こう語る。
「試合中に(ベンチに座った)譲瑠くん(藤田)が叫んでいるのも、貴史くん(内野)の声もメチャクチャ聞こえていました。出ていない選手が盛り上げてくれるのは1戦目も同じでした。逆に今日は1試合目で盛り上げてくれた選手が試合に出て勝ったので、本当にチームとして雰囲気がいい」
メンバーを入れ替えての勝利は、単に体力面の温存だけでなく、チームスピリットを養い、一体感を増すという効用もある。それがチームスポーツにとってどれだけ大きな効果を生むかは、あらためて説明するまでもないだろう。