【月1連載】久保建英とラ・レアルの冒険(毎月第1木曜日更新)

来季のR・マドリーの陣容から予測 久保建英、古巣復帰のリアルな可能性

高橋智行

今年2月に2029年までソシエダとの契約を延長している久保だが、ここにきて再び身辺が騒がしくなってきた。はたして今夏の移籍はあるのか 【Photo by Ion Alcoba Beitia/Getty Images】

 22年夏のレアル・ソシエダ加入をきっかけに、ワールドクラスへの階段を上り始めた22歳の若武者を、現地在住の日本人ライターが密着レポートする月1回の連載コラム、『久保建英とラ・レアルの冒険』。第8回目のテーマは、今夏の去就予測だ。ここにきてリバプールなどが来季の新天地候補として噂に上っているが、古巣レアル・マドリーへの復帰も可能性はゼロではない。キリアン・エムバベの加入が濃厚と言われる来季の豪華ラインナップに、はたして久保が入り込む余地はあるのか、あらためて検証する。

「運が悪かった」では割り切れない

「僕が唯一言えるのは、ボールを失った選手(オーレリアン・チュアメニ)が寝てしまった、ということ。チャンピオンズリーグ(CL)なら、あのプレーで笛が吹かれることはないと思う」

 4月26日(現地時間)のラ・リーガ第33節レアル・マドリー戦。試合後、スペイン国内で物議を醸したのは、VARによって取り消された自身の“幻の同点ゴール”に対する久保建英の発言だった。

 久保にとっては、どうしても決めたかったゴールに違いない。

 過密日程による疲労の蓄積で、日本代表として戦ったアジアカップを境にパフォーマンスが著しく低下。しかも3月末のアラベス戦(30節)で右足ハムストリングを負傷し、その後の2試合がベンチスタートとなった間に、代わって右ウイングで先発起用されたシェラルド・ベッカーが1得点・2アシストと目に見える結果を残していた。ラ・リーガで首位を走る古巣マドリーからゴールを奪えば、こうした苦しい現状を打破する大きなきっかけになったかもしれない。久保の発言に、悔しさが滲み出ていた。

 このマドリー戦までの公式戦11試合は、1得点・0アシスト。新たなライバルの出現もあってスタメン落ちが危惧(きぐ)されたが、しかしここに至るまで十分な実績を残してきた久保への信頼が、イマノル・アルグアシル監督の中で揺らぐことはなかった。大粒の雨が降りしきる中、3試合ぶりに先発復帰した久保は、古巣相手に気合十分。立ち上がりからエンジン全開で積極的にボールに絡んでいった。

 問題のシーンは、アルダ・ギュレルのゴールでマドリーが先制した直後の前半33分だった。敵陣でアンデル・バレネチェアがチュアメニからボールを奪うと、これを拾ったミケル・オヤルサバルのシュートは相手DFにブロックされるが、こぼれ球に素早く反応した久保が立ちはだかるエデル・ミリトンを華麗にかわし、右足でシュート──。

 しかし、ホームスタジアムに訪れた歓喜も束の間、久保の8試合ぶりのゴールは、直前にチュアメニに対するバレネチェアのファウルがあったとして、オンフィールドレビューによって取り消されてしまう。マドリー贔屓の判定を揶揄する「Así, así, así gana el Madrid!(マドリーはこうやって勝つ!)」のチャントが、スタジアムに響き渡った。

 またしても、だった。きっとラ・レアルのサポーターの誰もが、半年ほど前に見た光景を思い出していただろう。

 昨年9月の同カード、久保は11分に右サイドからカットインしてゴール左下隅に鮮やかなシュートを叩き込み、敵地サンティアゴ・ベルナベウの観衆を沈黙させた。しかし、このゴールもまた、オフサイドポジションにいたオヤルサバルの背中をボールがわずかにかすめたとして、ノーゴール判定とされていた。

 VTRを見る限り、どちらも妥当な判定だったと思う。とはいえ、久保にとってはマドリー相手に2度もゴールネットを揺らしたにもかかわらず、自分とは関係のないプレーが原因でいずれも取り消しとなったこと、そしてその2試合とも1点差で敗れたことを考えれば、「運が悪かった」という言葉では割り切れなかったに違いない。

 久保の発言は波紋を呼び、試合後の会見ではアルグアシル監督にも判定に関する質問が飛んだが、「タケに同意する。そのことについては話したくない」と、指揮官もまた不満を示唆するコメントを残している。

 一方で、久保に名指しされた形となったチュアメニは試合後、自身のX(エックス)に左眉を上げた怪訝な表情の絵文字をポストし、暗に不快感を示している。

可能性がゼロとは言い切れない根拠

33節のマドリー戦でホームのサポーターを歓喜させた同点ゴールはVARによって幻に。それでも古巣相手にハイパフォーマンスを披露し、復調をアピールした 【Photo by Juan Manuel Serrano Arce/Getty Images】

 ただ、試合には0−1で敗れたものの、フル出場した久保は現地メディアから高い評価を受けた。こうしてマドリーを相手に復調の兆しを見せたことで、今夏の去就に再び注目が集まりそうな気配も漂っている。仮にレアル・ソシエダが来季のヨーロッパリーグ出場権(6位以内/33節終了時で7位ベティスと勝ち点2差の6位)を逃せば、久保の移籍がより現実味を帯びるかもしれない。

 英国系メディアを中心に、現在リバプール移籍の噂が取り沙汰されている。スペイン国内で、これまでソシエダ退団の可能性を報じていたのは、信ぴょう性の低いウェブメディアばかりだったが、最近になってスペイン大手紙『ムンド・デポルティボ』が、リバプールの他に、マンチェスター・ユナイテッド、ユベントス、ナポリ、そしてクリスティアーノ・ロナウドが所属するサウジアラビアのアル・ナスルからの関心を伝えている。とはいえ同紙も、「久保本人の意向はソシエダ残留の一択だろう」と、慎重な見方を崩していない。

 マドリー戦後、久保のリバプール移籍、および今夏の退団の可能性について質問を受けたアルグアシル監督も、「タケはレアル・ソシエダの選手であり、ここでプレーを続けたがっている。私が言えるのはそれだけだ。リバプールの興味に関しては分からない」と答えるに留まった。

 実際、記者仲間に話を聞いても、「ソシエダ残留濃厚」という見解でほぼ一致しているが、ただし国外移籍はともかく、マドリー復帰の可能性がゼロとは言い切れない。その根拠は、マドリーがソシエダに久保を売却した際に盛り込んだ2つの条項が、まだ有効だからだ。

 1つは今夏まで有効期限が残る先買権(将来的に他クラブからオファーが届いた場合、その提示額と同じ金額でマドリーが優先的に久保を買い戻せる権利)の存在。そしてもう1つが、将来ソシエダが他クラブに久保を売却した際に、キャピタルゲイン(購入価格と売却価格の差による収益)の50パーセントをマドリーが受け取る権利。これはマドリーが獲得する場合にも適用され、久保がソシエダと契約を結んでいる期間はずっと有効なのだ。

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著者プロフィール

茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年に渡西。サッカー関連の記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、ラ・リーガを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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