【月1連載】久保建英とラ・レアルの冒険(毎月第1木曜日更新)

久保建英やウーデゴールの成功例に続けるか? スペイン3部で岐路に立つ中井卓大の今

高橋智行

過程は異なるとはいえ、ともにカスティージャに籍を置いた久保(左)と中井(右)。レンタルを繰り返した後、ソシエダで成功を掴んだ久保だが、はたして中井の選択は? 【Getty Images】

 2022年夏のレアル・ソシエダ加入をきっかけに、ワールドクラスへの階段を上り始めた22歳の若武者を、現地在住の日本人ライターが密着レポートする月1回の連載コラム、『久保建英とラ・レアルの冒険』。第7回目のテーマは、レアル・マドリーのBチーム、レアル・マドリー・カスティージャに一度は身を置いた選手の、その後の進路選択の難しさだ。久保の場合はレンタルを繰り返し、ソシエダという安息の地を見つけたが、誰もが正しい決断を下せるわけではない。“ピピ”こと中井卓大も、キャリアの岐路に立たされている。

久保がカスティージャを離れた理由

 ラ・リーガのピッチに立つ久保建英を見るのは、もはや日常だ。3月の代表戦からレアル・ソシエダに復帰後、フィジカル面の問題が指摘されていた久保だったが、イマノル・アルグアシル監督にとって代えが利かない絶対的なレギュラーは、休むことなく3月31日のラ・リーガ第30節のアラベス戦に先発出場。この試合の前半終了間際に右足ハムストリングに違和感を覚えて自らベンチに退いたものの、幸い大事には至らず、次戦4月14日のアルメリア戦には間に合うとの見立てもあるようだ。

 いずれにしても、チャンピオンズリーグに出場するレベルのスペインの強豪クラブで、ここまでチームに必要とされた日本人選手はかつて存在しなかった。今さらながら思うのは、5年前の夏に訪れた大きなターニングポイントで、彼が下した決断が正しかったということだ。

 2019年6月に久保が電撃加入したレアル・マドリー・カスティージャは、名門レアル・マドリーのBチームだ。“20世紀最高のクラブ”の称号を授けられたマドリーは、欧州屈指の育成機関としてもその名を世界に轟かせる。そして、工場を意味する“ラ・ファブリカ”の愛称で知られる下部組織17チームの頂点に位置するのがカスティージャであり、チームは現在プリメーラ・ディビシオンRFEF(3部)のグループ2に属している。

 今季の欧州5大リーグでは、マドリーの下部組織出身者が44人プレーしているが(欧州クラブとして最多)、その事実からも“ラ・ファブリカ”の優秀性は疑いようがないだろう。

 18歳の誕生日(6月4日生まれ)を迎えたタイミングでマドリーと契約を結んだ久保は、プレシーズンにトップチームの北米ツアーとドイツ遠征に帯同した後、クラブのレジェンドであるラウール・ゴンサレスが監督を務めるカスティージャで、今やブラジル代表の10番を背負うロドリゴとともにプレシーズンマッチデビューを果たした。

 当時の取材メモを見返すと、「トップチームでのプレーと比べると、特に連係面で物足りなさが感じられたが、ベンチに下がる久保に観衆から大きな拍手が起こった」と記してあった。パフォーマンス自体はそれほど良くなかったものの、この日送られた温かい拍手は、目の肥えたマドリー・サポーターの大きな期待の表れだったように思う。

 プレシーズン中、さらに2試合を戦った久保だが、しかし最終的にはこの19-20シーズンの始まりの場所として、カスティージャを選択しなかった。彼がマドリーの大看板をいったん脇に置き、7シーズンぶりにプリメーラ(1部)昇格を果たしたマジョルカへのレンタル移籍を決断したのは、日本を出てまだ2カ月ほどしか過ぎていない頃だった。

 間違いなく迷いもあったはずだ。「このままカスティージャに残ったほうが、トップチーム昇格の道は近いのかもしれない。いや、EU圏外枠がネックとなってトップには上がれず、逆に長い間カスティージャに留まることになるのだろうか」と──。

 後日、久保はカスティージャを離れた理由をこのように語っている。

「最初はカスティージャに残るつもりだった。けれどプレシーズンを終えて、他のプリメーラのチームでもやっていけるかもしれないと思ったんだ。なかでもマジョルカはどこよりも僕に注目してくれたし、どれだけ僕が欲しいかについても話してくれた」

復帰から半年で退団直訴のウーデゴール

今やアーセナルで不動の地位を築くウーデゴール。レンタル生活を経て21歳でマドリーのトップチームに加わったが、半年後、出場機会を求めてプレミアリーグへ 【写真:ロイター/アフロ】

 近年は久保のように、マドリーと契約した上でカスティージャ所属となる選手が増えている。しかし、そこからトップチームに昇格できる者は一握りだ。高額の移籍金でやって来たヴィニシウス・ジュニオールやロドリゴもカスティージャからプレーを始めているが、彼らの場合はトップチームに入ることが大前提としてあり、久保とはスタートラインが異なっていた。

 一方、久保と似た経歴の持ち主で、最終的に国外のメガクラブでプレーする道を切り拓いた成功例が、ノルウェー代表MFマルティン・ウーデゴールだ。16歳だった15年1月に移籍金280万ユーロ(約4億4800万円)でマドリーに加入し、主にカスティージャで2年間プレー。その間にはクラブ史上最年少でラ・リーガデビュー(16歳157日)を飾るなど大器と騒がれたが、結局トップ昇格には至らず、17年1月から3年半のレンタルの旅に出ることになった。

 そして19-20シーズンに所属したソシエダで7得点・9アシストの華々しい活躍を披露すると、20年の夏にマドリーに復帰。21歳でついにトップチームに加わるのだ。しかし、ルカ・モドリッチやトニ・クロース、カゼミーロ(現マンチェスター・ユナイテッド)らビッグネームがそろう中盤で出場機会を得られなかったウーデゴールは、復帰からわずか半年で退団を直訴する。

「安定を望んだんだ。クラブをトップレベルに戻したいという意欲にあふれた素晴らしい選手たち、そして優れた監督がいるチームに落ち着きたかった」

 そんな想いを抱いてアーセナルにレンタル移籍したウーデゴールは、21年夏に移籍金3500万ユーロ(約56億円)で完全移籍を勝ち取る。マドリーを去るという大きな決断の末に、今や彼はプレミアリーグでも有数のスタープレーヤーとなった。

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著者プロフィール

茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年に渡西。サッカー関連の記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、ラ・リーガを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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