2度の失敗から学び、川崎戦に生かした町田 黒田監督のチームが「勝負強い」理由とは?

大島和人

藤尾翔太が前半に得点し、町田は1‐0で川崎を下した 【(C)J.LEAGUE】

「勝って驕(おご)らず、負けて腐らず」という勝負の金言がある。フットボールの世界ならば、特に「負けた後」が難しい。クラブがひとたび負のサイクルに陥ると、サポーターを含めて不穏な空気が漂い、監督や選手のキャリアも損なわれる。平常心が失われると、チームは自壊する。

 今のFC町田ゼルビアは、そういう難しいシチュエーションに強い。黒田剛監督のマネジメント力が鮮やかに発揮されるのは、敗戦後の立て直しだ。昨季の町田はJ2で7敗しているが、連敗が一度もなかった。今季のJ1でも勢いは止まらず、現在5勝1分け1敗で首位に立っている。

 しかし4月3日のサンフレッチェ広島戦は完敗で、チームが自信を失いかねない内容だった。それでも6日の川崎フロンターレとのアウェー戦は1-0で勝ち切った。71分に退場者を出し、数的不利に陥る展開を乗り越えた末につかんだ勝ち点3だった。

敗戦後も「自分たちのサッカー」は揺らがず

 町田は2つの失敗から学び、川崎戦に生かした。1つはもちろん、3日の広島戦(1●2)だ。試合後の黒田監督はこう振り返っていた。

「前節の敗戦から様々なことを学ばせてもらい、そして気づかせてもらいました。しっかりと改善をさせて、今日のゲームに臨みたいと思っていました。前節は立ち上がりから出足が遅く、ルーズボールの回収率も広島さんに上回られていました。今日は前線からの規制をかけ、バイタルエリアまでボールを運ばせない徹底した守備を続けました。そして守からの攻のトランジションを、彼らが見せてくれました」

 指揮官の選択は「変えずに徹底させる」ことだった。選手への声かけは自信を奪わず、チームを原点に戻す内容だった。

 藤本一輝は言う。

「町田が(広島に敗れても)首位と再確認したときに、自分はすごく自信が湧きました。負けはしたけどまだ首位というモチベーションで臨めたことが、今日の勝ちにつながったと思います。前回上手くいかなかったのは、自分たちのサッカーを出せなかったというのもありました。でも自分たちのやり方であれば、やっていける自信はあります」

 平河悠は言う。

「広島戦は相手の出足の方が早くて、負けるべくして負けた試合でした。もう1回立ち上がりは相手より反応を早くして、ポジショニングを早く取ってというのを、みんなが意識して入れました」

 もちろん川崎のビルドアップのルートや、奪われた後の緩さが町田の狙いとハマった部分はある。だとしても町田は開始直後から前線守備の規制が機能し、一方的に試合を支配していた。

前半は左サイドからの攻撃が機能

藤本一輝が左サイドからいい仕掛けを繰り返した 【(C)J.LEAGUE】

 町田は2つ、3つと決定機を逃したものの、32分に待望の先制点を得る。チームとして狙っていた形だった。

 左サイドバック(SB)の林幸多郎が、定位置でボールを受ける。すると仙頭啓矢は大外のスペースに動き出して林のフィードを引き出し、1タッチで縦に流し込んだ。藤本がエリアの脇に走り込んで左足クロスを送り、最後は藤尾翔太が合わせた。

 川崎は[4-3-3]の布陣で、アンカー(中盤の底)の脇がどうしても空く。そのスペースに仙頭が走り込んでパスを引き出す動きを、立ち上がりから繰り返していた。しかも川崎は反対サイドのU-23代表・平河を警戒していて、左サイドの守備が手薄だった。

 平河は振り返る。

「相手は(攻撃のときに)家長選手がこちらのサイドに来て、逆に自分たちの攻撃のときには反対のサイドが空いていました。左サイドに任せるわけではないですけど、自分は中に入ったり、警戒される分オトリになったりして、次の人を生かせればいいと考えていました」

 林はこう説明する。

「得点シーンもそうですが川崎の選手より切り替えを早くして、縦にボールを動かして背後を取りに行くのは上手くやれたところです。先手を取って、相手の角を取りに行くことで、僕たちのロングスローやCKも増えてくる。そうすれば自分たちの時間になるのかなと思っていました」

 ただ川崎は後半に入るとボランチを1枚から2枚に増やした。町田が前半に「堪能」していた美味しいスペースは消えた。50分には藤尾がヘッドを押し込んでネットを揺らしたが、その直前のプレーでオフサイドがあり、認められなかった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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