J2の控えが「J1首位のエース」に化けた 町田は超大型FWオ・セフンをどう活かしているのか?

大島和人

町田は現在4勝1敗でJ1の首位 【(C)J.LEAGUE】

 日本サッカーの常識を塗り替えるレベルの快進撃を、FC町田ゼルビアが見せている。開幕から5試合を終えて、ここまで4勝1分けと堂々の首位。初昇格とは思えない戦いぶりで、J1に旋風を巻き起こしている。

 3月30日のサガン鳥栖戦は、3-1の快勝だった。前半を1-1で折り返した町田は、後半に入るとFWオ・セフンが54分、57分に連続ゴールを決めて相手を引き離す。PK失敗などでさらなる追加点は逃したものの、相手を寄せ付けない戦いを見せた。

オ・セフンが5試合連続の先発で貢献

 前半に限れば難しい展開だった。町田は開始早々の5分に藤本一輝が先制点を挙げたものの、途中から「間を通される」「嫌なスペースで受けられる」状況が増えていた。しかし34分に1‐1と追いつかれた直後から3バックへの変更などで守備を修正し、後半は足が止まった鳥栖を一方的に攻め立てた。

 黒田剛監督はこう振り返る。

「追い込みながらボールを奪う状況、(ハイプレスに加えて)ミドルプレスでもハメてからのショートカウンターを狙いながらやっていました。ちょうど(34分に)1点を取られたあたりから、前が上手くかわされたとき、どうしてもサイドバックのカバーリングなどがやや遅れていました。数的不利や1対1の状況を迎えてしまい、それが前半に2本くらい見られた。同じメンバーでも3バックに変えて、噛み合わせを良くしていくほうが分かりやすいのではないかというところで、そこから上手く選手たちが機能していきました」

 攻撃をけん引したのが3アシストの平河悠と、2得点のオ・セフンだった。オ・セフンは25歳の韓国人FWで、開幕から5試合連続で先発し、第2節以降は藤尾翔太と2トップを組んでいる。194センチ・93キロと大柄の彼が前線でターゲットとなり、空中戦は高い勝率を記録している。

 町田は同じポジション、同じタイプにオーストラリア代表のミッチェル・デュークがいる。こちらも186センチ・84キロのFWで、昨季は34試合の出場で10得点を挙げた。

 オ・セフンは2022年、23年と清水エスパルスに所属していた。もっとも昨季はJ2だったし、25試合の出場でわずか2得点。同じポジションに2022年のJ1得点王チアゴ・サンタナ(現浦和レッズ)がいたとはいえ、先発は6試合にとどまっている。

 つまりJ2の控えだったFWが、町田で「J1首位のエース」に化けた――。

黒田監督はオ・セフンをどう評価する?

ヘディングの高さはオ・セフンの大きな武器 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 黒田剛監督は言う。

「Jリーグの中でも、なかなか(ヘディングを)上から叩ける選手はいない中で、彼が前線で起点になることは我々にとってすごくありがたい。彼に入ったセカンドボールをいかに拾うかによって、矢印を相手のゴールに向けていくところは我々の狙いでもあります。またターゲットになるだけではなくて、しっかりと前からチェイシングできる、規制ができることも彼の持ち味です。そこは本当に頼もしい選手だなという印象です」

 ただし第4節まで、オ・セフンは無得点だった。鳥栖戦以前の4試合で放ったシュートは14本。その中にはかなりの決定機があったにもかかわらず、すべて決め損ねている。

 もちろんノーゴールだとしても、先発に起用され続けるだけの貢献はしていた。オ・セフンは超大型FWらしからぬ機動力があり、町田のFWに求められる「2度追い・3度追い」ができる。ボールタッチの柔らかさ、配球力もあり、前線で不用意な失い方をしない。空中戦の強さはもちろんだが、町田の戦術を遂行し、周りを助ける働きをしていた。

 その彼がシュートの決め方を覚えれば、J1でも唯一無二の存在となり得る。

 54分の今季初得点は、相手と競りながらではあるが、平河の横パスに合わせて押し込むだけの形だった。しかし57分の2点目は、ニアから浮き球に合わせてコースを巧みに変える高難易度のヘディングシュート。俗に言う「ケチャップの蓋が開いた」印象を受けた、ストライカーらしい一撃だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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