2度の失敗から学び、川崎戦に生かした町田 黒田監督のチームが「勝負強い」理由とは?

大島和人

開幕戦の失敗を生かす

黒田監督は「数的不利」を想定した準備をしていた 【(C)J.LEAGUE】

 そして71分、町田にこの試合最大のピンチが訪れる。川崎の小林悠がフリーでディフェンス(DF)ラインの背後に抜け出した場面で、GK谷晃生はエリア外まで出足良くカバーに出たものの、ファウルで止めざるを得なかった。「失点と退場」の二択に追い込まれた状態でのプロフェッショナルファウルで、一発退場となる。

 黒田監督のチームは、ここでも失敗を生かした。町田は開幕のガンバ大阪戦で、数的不利の展開を30分間以上経験している。退場者を出してから一気に劣勢となり、リードを守り切れず1-1で試合を終えていた。

 指揮官はこう説明する。

「ガンバ戦のときは、なかなか退場者を出したシチュエーションまでトレーニングできていなかったので、うまく対応できませんでした。その次の節から1人少なくなっても、前からプレスをかけ続ける、またはミドルプレスの中でしっかりと回収して、攻撃に結びつけるトレーニングもいくつかやっていました。放り込まれたら逆に我々の強みが出る、放り込まれる分には問題ないという形で対応できたのがすごく良かったと思います。1人少ない中でも落ち着いて、昌子(源)を中心に対応できました」

 第7節の町田は、準備万端で10人の戦いに臨んでいた。黒田監督は谷の退場後、3枚替えを敢行している。アタッカーを削ってGKを入れるのは定石だが、更にボランチ仙頭に変えてセンターバック(CB)昌子源、右SB鈴木準弥に変えて奥山政幸を投入した。

 町田は[4-4-2]から[5-3-1]に布陣を変え、一見するとやや後ろが重い組織で川崎の総攻撃を受けた。前線から圧を落とさず、剥がされたら2度追いし、さらにDFラインをこまめに上げることで、「本当に危ない場面」を作らせない対応ができていた。

 藤尾は開幕戦との違いをこう説明する。

「帰陣するスピードと、ゴール前にクロスが入ってきたときに弾き返す枚数の多さは改善できていました。そういうところが失点に繋がらなかった理由なのかなと思います」

 谷に変わって起用されたGK福井光輝は述べる。

「(昌子)源くんは経験もありますし、練習でも常に仲間に対してラインアップの声を出します。ガンバ戦は5枚にしたときに引きすぎたけど、今日はそんな引かないで、ボールに出ていけました」

藤尾、平河は「弾み」をつけてU-23代表へ

主将の昌子源は先発から外れたが、勝負所で貢献を見せた 【(C)J.LEAGUE】

 町田は敗戦直後の、退場者も出す難しい展開を1-0で勝ち切った。仮にJ2で連敗をしなかったチームでも、J1になれば話は違う。しかし川崎戦は中3日と修正の時間が限られた中で「自分たちのサッカー」を取り戻した。2024年の残り試合を考えても、大きな自信となる勝ち点3だった。

 藤尾、平河の2人はチームを離れ、U-23代表のパリ五輪最終予選に向かう。藤尾はこう意気込む。

「まだまだ試合は続きますけど、連敗しないのはすごく大事でしたし、次につながる大きい勝ち点3なので良かったです。自分が得点できたことで、いい流れに乗れると思いますし、いいメンタルの状態で代表に行けます」

 平河は言う。

「本当に勝ちたい試合で今日勝ち点3を取れました。置き土産ではないですけど、代表活動に専念できます」

 2人の若武者がチームから離れることは、日本サッカーにとってはプラスでも、町田にとってはマイナスだ。しかし平河こう言い切っていた。

「ベンチ、ベンチ外を含めて、一体感を持ってこのチームはやっていますし、誰が出ても同じパフォーマンスができると思います。違う人は違う人の良さもあります。自分は長期間、チームから抜けてしまう形になりますけど、帰ったときも1位でいてくれると思います。戻ってきたら、またメンバー争いをやっていかないといけません」

町田躍進のシンプルな理由とは?

 初昇格の町田がJ1の首位を走り、チームへの関心は大きく上がっている。ただ取材現場で話を聞いていると「町田は特別なことをしている」という前提で質問をする記者と、選手の答えが時折すれ違っている。

 旋風、躍進の理由は意外とシンプルで「原点を見失わない」「失敗から学ぶ」「どんなときも全員が全力で取り組む」といった『凡事』の徹底がまず大きい。確かに負けてはいけない試合に負けない町田が勝負強いのは事実だ。ただ、それはベンチ外の選手も含めてムラなくやり続けている自然な結果であって、勝負の世界で大切な試合の強さ「だけ」を手に入れる方法はない。

 川崎戦は平河が封じられても、藤本が大きな仕事をした。広島戦で不本意な交代を強いられた昌子が、勝負どころでリーダーシップを発揮した。これまで出番のなかったGK福井が、数的不利の中で安定したプレーを見せた。そういった総力が、このチームにはある。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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