「危機感」が高まるパリ五輪最終予選  “国内組”の平河と荒木がU-23代表を救う新星に

大島和人

平河はマリ戦の先制点など印象的な活躍を見せた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 2024年7月26日のパリオリンピック開会式まで、4カ月を切った。女子サッカーなど既に出場、組み合わせが決まっている団体球技が相次ぐ中で、男子サッカーは出場の可否がまだ決まっていない。

 大前提として五輪の男子サッカー競技には年齢制限がある。本大会は23歳以上の「オーバーエイジ」も3名まで加わるが、予選を戦うのは2001年1月1日以降生まれに出場資格があるU-23世代だ。

 パリ五輪のアジア最終予選を兼ねた「AFC U23アジアカップ カタール2024」は4月16日の開幕だ。アジアの出場枠は「3.5」と、ワールドカップ(次回2026年大会は「8.5」枠に拡大する)に比べて狭き門で、ベスト4入りが出場の絶対条件だ。仮に3位決定戦で敗れるとアフリカ4位ギニアとの「AFC・CAFプレーオフ」に進むことになる。

 U-23日本代表は3月下旬に2つの強化試合を戦った。22日(金)にサンガスタジアム by KYOCERAで開催されたマリ戦は1-3の完敗だった。25日(月)に北九州スタジアムで開催されたウクライナ戦は2-0の快勝と持ち直している。

 既にパリ五輪出場を決めた国との貴重な強化試合であり、26名の候補からU23アジアカップに参加する23名に絞る競争の場にもなっていた。

 日本は1996年のアトランタ大会から、男子サッカーの五輪予選を6大会連続で突破している(※東京大会は予選免除)。アジアの中では図抜けた存在と言っていい。

 また近年の日本はヨーロッパの主要リーグに人材を送り出す「サッカー輸出国」ともなった。もっとも、これが五輪出場をより困難にしている。U23アジアカップはA代表の試合と違い協会の拘束権がなく、個別の調整が必要となるからだ。

 チーム関係者、メディアには強い危機感が漂っている。

町田の平河悠が台頭

 そんな中でも山本理仁、藤田譲瑠チマのシントトロイデン組など計5名の海外組が3月の強化試合には参加していた。一方で鈴木唯人(ブレンビー)、斉藤光毅(スパルタ)など過去にチームの中心だった人材が参加していない。また久保建英(レアル・ソシエダ)、鈴木彩艶(シントトロイデン)はこの世代だが、日本代表の主力で、U-23は卒業した立場だ。

 Jリーグを見れば、目覚ましい台頭を見せているU-23世代の選手がいることも事実。今回の2試合は結果や内容に加えて「新戦力の台頭」も一つの焦点だった。マリ戦とウクライナ戦では、特に2人のアタッカーがインパクトを残していた。

 平河悠は2023年6月のヨーロッパ遠征で初招集を受けたが、U-22も含めてこの世代の出場がわずか3試合だった新顔。マリ戦は左ウイングで先発して開始2分に先制ゴールを決め、ウクライナ戦も後半開始と同時に右ウイングで起用された。この2試合でチーム内の序列を上げた一人と言っていいだろう。

 彼は人生初のJ1を経験中だ。第4節を終えて暫定首位に立つ町田の中心的な存在として、目覚ましい活躍も見せている。彼のスピード、左右両足のキック、運動量と言った強みがU-23代表でも通用することは間違いない。

 もっともU-23代表チームは町田と違う[4-3-3]の布陣で、最終ラインからのビルドアップを志向するチーム。となればボールの動き、立ち位置にまつわる原則も変わってくる。問われたのは戦術や連携への適応だった。

 25日のマリ戦を終えて、彼はこう口にしていた。

「自分の特徴はある程度出せましたけど、チームへのアジャスト、細かいポジショニングはもう少し修正できる点がありました。自分的には1本2本ゴールに迫るシーンがあったので、そこで取れればなお良かったと思います」

「町田と違うサッカー」にどう向き合ったのか?

サイドでの突破は平河の強みだが、U-23では別の役割も求められる 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 「町田の平河」は攻撃時に外で張って、サイドバック(SB)からの縦パスを半身で受けるシンプルな状況が多い。そこから縦突破、中へのカットイン、SBを絡めた2対2といった選択肢を高レベルで繰り出せるのが平河だ。

 ただしU-23代表チームでは「一つ内側で受ける」プレーも求められる。平河はこう説明する。

「町田は自分の特徴、スピードを生かすサッカーになっているし、そこまで『相手どうこう』を考えることはありません。だけど代表になると相手の立ち位置を見てポジションを取ること、インサイドハーフやSBとの関係が大事になってくる。かなり頭を使う必要があるし、トラップで神経を使う場面が増えた印象もあります」

 また町田ではセンターフォワードのオ・セフン、デュークが「最初のターゲット」となることが多い。そうなると平河はセカンドボールから攻撃に関わる形になる。

 U-23代表では、スピードに恵まれた平河が最初の受け手となる状況が増える。特にマリ戦はスルーパスやサイドチェンジからの裏抜けを求められる場面が度々あった。

 平河はマリ戦、ウクライナ戦を踏まえてこう説明する。

「(山本)理仁は奥まで見てくれていますし、インサイドハーフの顔が上がっていれば(ボールが出てくる可能性は高い)。自分も動き出すのは得意なので、そこは前の試合(マリ戦)で出ていました。今日(ウクライナ戦)はロングボールというよりショートパスで崩すシーンが増えたので、それはそれで良かったと思います」

 守備の原則も違う。町田では相手のセンターバックまで踏み込む前線プレス、相手のSBに自陣エリア内までついていくカバーリングを見せている平河だが、U-23代表チームでそこまでの深追いはNGだ。逆サイドにボールがあるときのポジショニングなど、彼自身も多少の課題感は口にしていた。

 それでも攻守の違いに、短期間で適応しつつある様子はある。23歳のサイドアタッカーは「代表は代表での守備のやり方がありますけど、今回の活動で分かったのは収穫です」と胸を張っていた。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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