J2の控えが「J1首位のエース」に化けた 町田は超大型FWオ・セフンをどう活かしているのか?

大島和人

練習でつかんだ自信

1点目は低いクロスに反応したボレーシュートだった 【(C)FCMZ】

 オ・セフンは2得点をこう振り返る。

「1点目は僕にとってもチームにとっても、本当に大事なゴールになると認識していた。いい準備をして、しっかり中で待とうと思っていたら、そこでしっかり決めることができた。2点目は監督やコーチングスタッフの指示のもと、クロスに対するポイントへの入り方をしっかりトレーニングで詰めていて、その通りできた。練習ではシュートの感覚も含めて、全てのものが悪くなかった。そこでしっかり自信をつかむことができて、今日の試合につながった」

 黒田監督は言う。

「ここまでの試合では、もっと簡単なシュートをいっぱい外してきましたけど、今日は本当に難しい、3点目の素晴らしいヘディングシュートも決めてくれた。これから先はもっと得点を匂わせながら、波に乗ってくれたらありがたいなと思っています」

 オ・セフンの2点をお膳立てした平河もこう述べる。

「キャンプで一番点を取ったのは彼ですし、セフンもゴールは欲しかったはず。それにつながるアシストができて嬉しく思います。FWの(藤尾)翔太やセフンが点を取れば、チームも勢いに乗れます。FWに仕事をさせるのもサイドハーフの役割なので、そこに貢献できて良かった」

町田で求められているもの

 チームの好調が彼を守った、そして乗せた部分もある。オ・セフン本人はこう語っていた。

「この5試合は2、3本のチャンスが常にあった中で、そこを決め切ることができなかった。そうすると自信を失いがちになるかもしれないですけど、チームが勝てていたので、そこでしっかり自信を保てていた」

 オ・セフンは町田での適応、好調をこう説明する。

「監督をはじめスタッフの方々が自分のできること、できないことを理解した上で、しっかりとトレーニングで落とし込んでくれている。それが自信を深める、連携を高める要因になっています」

 コーチ陣から特に指示されるポイントはこうだ。

「連続性、球際の部分は強く求められています。あとは一瞬でも早く反応する、相手より早く反応することは本当に強調されています」

 韓国語の通訳を介したやり取りだが、「タマギワ」だけは日本語だった。

 オ・セフンは韓国ではU-17、U-20、U-23と各年代の中心だったFWで、能力は元からあったのだろう。町田の強化部は十分に発揮されていなかったポテンシャルをしっかり見極めて獲得をした。そして黒田監督以下コーチングスタッフが、彼の強み「だけ」が出るように、チーム戦術の中で上手く活用している。

 194センチの超大型FWが、周りを助けるプレーに加えて得点という「自分が輝くプレー」を覚えたら、彼も町田も一つ先の次元に進むはずだ。

オ・セフンの活躍が示す町田の強さ

平河悠(右)ら他の攻撃陣との連携も高まってきた 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 オ・セフンに限らず、町田の選手は試合で迷いなく思い切ったプレーができている。さらに結果が自信を引き出し、プレーにより没入できる状態が生まれている。

 今季の町田はJ1昇格に合わせて、様々な選手を補強した。谷晃生や昌子源、コソボ代表のイブラヒム・ドレシェヴィッチなど、相応の個も迎え入れている。しかしJ1ならば町田以上のビッグネームを揃えているクラブはいくつもあるし、そもそもサッカーはビッグネームを揃えれば勝てる競技ではない。しかも町田はエースのエリキ、元韓国代表のナ・サンホ、バスケス・バイロンといった主力を負傷で欠いた中で、J1首位に立っている。

 当たり前のことを当たり前にやった結果として、常識は塗り替えられる。

 チームに合う人材を獲得する。選手の強みを引き出し、迷いなくプレーさせる。それはサッカーに限らない、チームを強くするためのシンプルな方法だ。町田がそこに成功している分かりやすい例が、オ・セフンの活躍だ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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