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左足の痛みにも負けず120分間戦い抜いた遠藤航 リバプールで不可欠なピースとなった男が初戴冠!

森昌利

延長戦に及んだリーグ杯決勝でフル出場し、リバプールの優勝に大きく貢献した遠藤。自身にとって欧州での初タイトルを手にした 【写真:REX/アフロ】

 リバプールの遠藤航が、現地時間2月25日に聖地ウェンブリーで行われたリーグ杯決勝でスタメン出場。後半に左足を負傷しながら、延長戦を含めた120分間を戦い抜いてチームの優勝に貢献した。熾烈な優勝争いを繰り広げるプレミアリーグをはじめ、今季の戦いはまだまだ続くが、怪我人続出の厳しい状況下、主力の1人としてタイトルをもたらしたことは掛け値なしに素晴らしい。

歓喜の輪には加わらずピッチに仰向けに倒れ込んで…

 試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、GKクィーンビーン・ケレハーを皮切りに、ジョー・ゴメス、コーディー・ガクポ、ハーヴェイ・エリオットとリバプールの選手が次々と、決勝弾を決めた主将フィルジル・ファン・ダイクに飛びかかるように抱きついていった。

 咆哮(ほうこう)を上げながら抱きついてくる若い選手たちに囲まれると、強靭な体躯(たいく)をしたオランダ人DFが右手で両目を隠すようにして顔を拭った。

 この歓喜の輪に遠藤航は加わらなかった。その“ありがたくない”訳はのちに判明するのだが――日本代表主将は、120分間の激闘が終わった瞬間、イングランド・フットボールの聖地ウェンブリー・スタジアムのピッチに仰向けに倒れ込むと、大の字になって空を見上げた。そしてしばらくして立ち上がった31歳MFの顔が一瞬ぐにゃりと歪んで、こちらも感極まった男泣きの表情を見せた。

 もちろん感激屋のユルゲン・クロップ監督にも、両手で顔を押さえた瞬間があった。その大きな二つの手のひらの下には感涙に濡れた泣き顔が隠れていたに違いない。

 信じられないような勝利だった。延長戦に入った瞬間、筆者は隣に座っていた『Liverpool.com』の記者に「ここ数年、延長戦で決まった決勝を見たことがない」と独り言を漏らすように語りかけた。

 チェルシーとは南野拓実の最終シーズンとなった2021-22シーズンにリーグ杯決勝、そしてFA杯決勝でも当たったが、どちらとも0-0のまま延長戦も終えて、PK戦で決着をつけなければならなかった。

 あの年は両方の決勝でリバプールがPK戦を制して国内カップ戦2冠を達成した。しかし今回はどうだろう? ピッチの上には不動のペナルティ・テーカーであるエースのモハメド・サラーをはじめ、ディオゴ・ジョッタ、ダルウィン・ヌニェス、ドミニク・ソボスライ、チアゴ・アルカンタラ、トレント・アレクサンダー=アーノルドといった“頼りになる歴戦の勇者”が怪我で不在だった。

 さらに延長戦突入直前にアレクシス・マック・アリスター、そしてガクポも交代した。その代わりにピッチ上には、18歳のジェイデン・ダンズと19歳のジェームス・マコーネル、さらに彼らより前に投入された19歳のボビー・クラークという、普段のリーグ戦では馴染みがない背番号40以上の10代選手が3人も立っていた。

 PK戦になったら、いったいクロップ監督はどうするのだろうか!?

 そんなことを延長戦突入と同時に考えた自分が恥ずかしくなるような結末だった。

強烈なオーラでキッズたちをまとめ、120分間戦い抜いた

リバプールが0-0の均衡を破ったのは、PK戦突入が色濃くなっていた延長後半13分。右コーナーキックから、主将のファン・ダイクがヘディングでゴールをこじ開けた 【写真:REX/アフロ】

 試合後、遠藤は言った。「難しい試合になりましたけど、とにかくみんなで戦った。若い選手を含めて、本当にみんないいプレーを見せたと思います」と。

 クロップ監督は「この国には“キッズと一緒にトロフィーは勝ち取れない”ということわざがあるらしいが、それを書き換えたと思う」と言った。

 その通りだった。サブで登場したクラーク、マコーネル、ダンズの10代3選手のパフォーマンスには目を見張った。重圧もへったくれもなかった。純粋にボールを追って、走って、争い、相手とぶつかり合い、蹴った。

 この3人以外にも20歳のコナー・ブラッドリーがアレクサンダー=アーノルドの代役で先発し、25歳の控えGKケレハーが守護神アリソンの代わりに120分間リバプール・ゴールを守りに守り、疲労困憊したイブラヒマ・コナテの代わりに21歳のジャレル・クアンサーが延長戦の最後の15分間、ファン・ダイクのパートナーを務めた。

 そして最後の最後まで、リバプールの恐れ知らずのスーパーなキッズたちが攻めて押し上げてコーナーキックを奪い、延長戦後半13分、118分もの間、難攻不落を思わせたチェルシーのゴールをついに割ったのだ。

「監督となって20年以上のキャリアがあるが、この優勝こそまさに最も特別なものになった。よく『どの勝利を誇らしいと思うか?』と聞かれるが、それは本当にトリッキーな質問で、自分にもよく分からない。もっと頻繁に誇りに思うことができればいいと思う。しかし今回は心から誇りに思える勝利だった。素晴らしすぎて、まさに“ここでいったい何が起こっているのだ!”という、本当に信じられない感覚だよ。今日ここにいた全ての人たちを誇りに思う。無論、我々を後押ししてくれたサポーターたちもだ」

 怪我人が続出するなか、主力を欠いてこのような大試合に勝利する。それがどれほど困難なことか。負けてもいい言い訳が全て揃っていた。しかしそんな言い訳を拒絶し、PK戦の心配をするジャーナリストを尻目に、延長戦が終わるギリギリまで、時間なんていくらでもあるさとでもいうように、キッズたちが嬉々としてプレーして、リバプールが栄冠を勝ち取った。

 しかし忘れてはならないのは、そんな若く未熟な選手団を強烈なオーラでまとめ、120分間戦い抜いた5人の戦士がいたことである。主将ファン・ダイク、GKケレハー、右と左のFWのエリオットとルイス・ディアス、そして我らの代表主将・遠藤航が、フル出場を果たしていた。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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