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左足の痛みにも負けず120分間戦い抜いた遠藤航 リバプールで不可欠なピースとなった男が初戴冠!

森昌利

遠藤は左足にプロテクターをはめ、松葉杖をついて現れた

後半に左足を負傷した遠藤は、痛みに耐えながら、その影響を全く感じさせないハイパフォーマンスを最後まで見せた 【写真:REX/アフロ】

 試合後、選手全員が必ず通らなければならないウェンブリーのミックスゾーンで遠藤を待った。すると、控え室につながる通路の奥の方に松葉杖をついたTシャツ姿の遠藤が見えた。

 ちらっと横切っただけなので、確信は持てなかったが、あれは確かに日本代表主将だった。見間違いであってくれ! そう心の中で祈った。その一方で、だから試合終了直後にファン・ダイクを中心としたセレブレーションの輪に加われなかったのか? という考えも頭の中に浮かんだ。そんな思考を巡らせているうちに、揃いのトレーニングウェアに着替えた遠藤が記者団の前に松葉杖をついて現れ、その左足にはしっかりとプロテクターがはめられていた。

 とりあえず、「おめでとう」と声をかけたが、すかさず「足は大丈夫?」と聞いていた。

「足、ひねったっす。後半に。まあ大丈夫す」
 
 これが遠藤の第一声だった。

 その足で延長戦を戦ったのかと尋ねると、「まあそうですね。痛かったですけどやるしかないと思って。できないことはなかったので」という答えが返ってきた。

 本当に驚いた。あの激戦をそんな足で戦い続けたのかと。遠藤のパフォーマンスは足を痛めていることを全く感じさせなかった。

 しかしこれからも連戦が続く。しかも今のリバプールは怪我人が続出している。この試合でも中盤のライアン・グラフェンベルフがモイセス・カイセドに足首を踏みつけられ負傷し、前半28分の段階でピッチを降りていた。

 いったい、どの程度の怪我なのか?

「大丈夫だと思います。一応スキャンは受けますが。ただ、水曜日の試合(2月28日のFA杯5回戦)はどうでしょうね。メンバーも入れ替えると思いますし。ただ今はとにかくしっかり休みたいと思います」

 試合後のこの言葉を聞く限りでは、週末のノッティンガム・フォレストとのアウェー戦には出場できそうだ。ひとまず安心した。

 ヨーロッパに来て、クラブ・フットボールで初のトロフィーだった。試合後、喜びが込み上げていたように見えたがと尋ねると、「そうですね。感極まったというか、このチームに来て、タイトルが目標だったし、監督がいなくなるとか、みんながいろいろな思いがあるなかで戦ったと思う。とにかく結果を残したいと思ってやってきて、一つタイトルが獲れた。いいプレーをしていても、結果も求められるチームだと思っていたんで、一つしっかりと結果を残せたというのは自分にとっても大きいと思いました」という言葉が返ってきた。

 常勝が求められるリバプールに来て、しかも過去8年半にわたってクラブをまとめ上げ、サポーターにも絶大な人気を誇るクロップ監督が勇退を発表したばかりだった。そんな状況で、56歳ドイツ人指揮官の有終の美を飾るシーズンにするのだと、チーム全員が“まずこのリーグ杯をどんなことをしても勝ち取ろう”と強い気持ちを持っていたことが分かるコメントだった。

自らの力で這い上がり、つかみ取った優勝

9万人近い大観衆で埋まった聖地ウェンブリー。遠藤は素晴らしい舞台で120分間にわたって素晴らしいプレーを披露し、リバプールに今季最初のタイトルをもたらした 【写真:REX/アフロ】

 この試合の前戦のルートン戦の後、「初めてのウェンブリー、9万人も入るスタジアムでやるのが楽しみ」と語っていたが、実際にピッチに立った印象はどうだったのだろう。

「試合前のセレモニーから盛り上がっていたし、ピッチに入った瞬間の雰囲気といったら、迫力がありました。すごく歴史のあるスタジアムだというのは感じました。まあ最後、優勝セレモニーの間もファンがずっと残って声援を送ってくれた。延長を含めて、素晴らしい雰囲気を作ってくれたと思います」

 実際は8万8868人が詰めかけた。ファン・ダイクの劇的な決勝弾で幕を閉じた後は、記者席から見て右側に陣取っていた4万人以上のチェルシー・サポーターがまるで幻だったかのように、あっという間にスタンドから消え去った。

 しかしリバプール・サポーターは当然のように全員がそのまま左側のスタンドを赤く染め続け、トロフィー授与式を見守り、クロップ監督とファン・ダイクが一緒にカップを掲げた栄光の瞬間をしっかりと目に焼き付けた。

 そして、ゴール裏に一列に勢ぞろいした一軍選手、指導陣とともに『You’ll Never Walk Alone』を歌い上げた。

 後半に左足をひねり、そのままフル出場した遠藤もその中にいた。

 120分間戦い、優勝もして、さらにこれでチームの一員になれたという意識が生まれたのではないかと聞いた。すると、「チームの一員というのは、前からもちろん思っていたことではあるんですが(笑)」と笑顔で言われた。そうだ。そういう自覚は強い男だった。

 しかも、「でも自分がタフに、連戦も含めて、これだけやれるということを証明して、使われ続けていると思う。それに若い選手が多いので、自分は1年目とか関係なしに、経験があるというところも含めると、チームを支えなければならない存在ではあったと思うので。それは後ろのキャプテン、ファン・ダイクとともにできたので、良かったと思います」と続けて、1年目ながらリバプールという強豪チームをリードするんだという心意気まで見せていた。

 リーグ杯では今回の決勝での勝利だけではなく、勝ち上がりにも大きく貢献した。

「一時はカップ戦要員と言われましたけど、このチームでカップ戦に出ること自体、簡単なことじゃありません。そこでしっかり出て、メンバーが変わるなかでも結果を残し続けて、優勝したことは本当に大きかったと思います」

 この言葉を聞いて、思い出したのが2年前の南野だった。勝ち上がりには大貢献した。しかしリーグ杯もFA杯も決勝では起用されなかった。

 あの時はまだサラー、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネの黄金の3トップが健在だった“不運”もあった南野とは対照的に、今季、中盤の選手が総入れ替えとなったなかで、唯一の真性No.6としてチャンスをつかんだ遠藤は、カップ戦を戦うなかで徐々に頭角を現した。そして昨年12月3日に行われたフラム戦(プレミア第14節)の後半42分に劇的な同点弾を決めて、その1分後にアレクサンダー=アーノルドの逆転ゴールを呼び込むと、リーグ戦のレギュラーの座もつかみ、当然のようにリーグ杯の決勝にも出場した。

 しかしそれを南野との比較で“幸運”と言うのは日本代表主将に対して失礼だ。最後のコメントからでも分かるように、遠藤はリーグ戦の先発から外され、若手に混じってカップ戦を戦うなかでも「カップ戦に出ること自体、簡単なことじゃない」という意識を持ち続けて、ここまで這い上がったのだから。

 取材を終えて、ロンドン市内に向かう地下鉄の中で、リバプールのスカーフを巻いた中年女性が「オーマイゴッド!」と叫んだ。そして隣にいた夫と見られる男性に「見て、この写真。ワタルが松葉杖をついているわ!」とまくし立てた。

 すでにSNSでミックスゾーンでの遠藤の写真が出回っていたのだ。

 そこで筆者は思わず、「心配しないでください! 本人が大丈夫と言っていましたから」と声をかけてしまった。

 するとそのカップルは狐につままれたように怪訝な表情になったが、声をかけた筆者が遠藤と同国人であることを察するとそれで納得したのか、「良かった!」と安堵の声を上げた。

 確かに怪我人が続出して、今のリバプールは野戦病院のようだ。けれどもわずか半年足らずでチームの不可欠なピースとなり、カップ戦を戦い続けたことでキッズたちも牛耳った遠藤が中盤の底にこれからも居座り続ければ、クロップ監督が唐突に勇退を決めた最終シーズンにさらなる大輪の花を咲かせることも可能になる。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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