犯罪的タックルもなんのその! 大勝劇の主役となり、新境地を開いた三笘薫
三笘にとってはプレミア復帰2戦目となったシェフィールド・U戦。ゴール、アシストという目に見える結果こそ残せなかったが、5-0の大勝の立役者となった 【Photo by Chris Brunskill/Fantasista/Getty Images】
肉弾戦でクオリティの格差を埋めようとする
ちなみにバーンリーはこの試合の前日にアーセナルに0-5負けを喫したが、これで得失点差はマイナス30。確かに“どっちもどっち”で、ルートンとともに今季昇格を果たしたこの2チームにはプレミアリーグを戦い抜くクオリティが大きく欠けているのは明白だが、特にシェフィールド・Uの低迷は深刻で、サポーターにとっては失望の日々が続いている。
しかしまだ14試合も残している。こうした希望が降格圏のチームを危険にする。
しかもシェフィールド・Uは昨年12月に今季のプレミアリーグで最初に監督解任を実行し、経営陣との軋轢(あつれき)が伝えられていたクリス・ワイルダーを三顧の礼を尽くして約2年半ぶりに呼び戻していた。
選手としてもシェフィールド・Uでプレーしたワイルダーは、2016年に監督に就任すると、初年度に当時3部にいたチームを優勝させ、チャンピオンシップ(英2部)昇格に導いた。そして監督就任からわずか3年でチームをプレミアリーグへ復帰させて、初年度は一桁順位の9位を確保してイングランド中を驚愕させた。
地元の英雄であるワイルダー監督は、選手にフィジカルな肉弾戦を挑ませ、上位チームとのクオリティの格差を埋めようとするイングリッシュ監督の典型でもある。
さらに言えば、シェフィールド・Uはイングランド北東部の名門クラブ。サポーターの心には古豪のプライドがしっかりと宿っている。
ブーツがもう少し下、ひざを直撃していたら…
前半11分のホルゲートのタックルは明らかに削りにきた悪質なものだった。三笘は左足を押さえて倒れ込んだが、幸いにも大事には至らず、その後はハイパフォーマンスを演じた 【Photo by James Gill - Danehouse/Getty Images】
しかし技術で数段勝るブライトンがしっかりとボールをキープしはじめ、徐々にポゼッションを上げていく。そして試合の流れをがらっと変える“事件”が前半11分に起こった。
この事件が三笘薫の最初の、しかも試合の流れを大きく変える見せ場となった。けれどもこれが“全くありがたくない”見せ場だった。
三笘が左サイドでボールを受けて、ドリブルで縦抜けを図った瞬間だった。日本代表MFのスピードが瞬時に切り替わり、昨年末に負傷した左足首の状態が万全になっていると見えたその時、シェフィールド・UのDFメイソン・ホルゲートが走ってきて、縦を突く三笘の前をふさぐように右足を高く振り上げた。
「ちょっと危なかったですね。僕も“大丈夫かな”と思いました。ぎりぎり……、ちょっと場所が違ったんで良かったですけど……」
試合直後に三笘にホルゲートの反則タックルについて尋ねると、この答えが返ってきた。
トップスピードに乗ったところで、横移動してきたシェフィールド・Uの27歳DFの右足が唐突に現れ、まるでハードルのように三笘の走りを阻んだ。しかもそのブーツの裏が日本代表MFの左足の太ももの内側に入り、スローで見ると三笘の左足がぐにゃりと外を向いて曲がった。
「ちょっと場所が違った」と三笘が言った通り、もしもホルゲートのブーツがもう少し下に入り、ひざを直撃していたらと想像したら、背筋が寒くなった。
当然のことながら、三笘はもんどり打って倒れた。
主審の最初の判定はイエローだった。しかしVARで確認後、なんのためらいもなくカードの色をレッドに変えた。
全くボールに行かず、ただ三笘の突進を止めようとした悪質かつ故意の反則タックルだった。しかしこの犯罪的なタックルも、最下位で喘ぐチームのDFとして、クオリティの不足分を埋める苦肉のプレーだったのだろう。
だからプレミアリーグの下位チームとの戦いは厄介なのだ。
しかし、結果的に三笘の復調を感じさせた危険な走りが11対10の数的有利を呼び込み、ブライトンが完全に試合の流れをつかんだ。