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犯罪的タックルもなんのその! 大勝劇の主役となり、新境地を開いた三笘薫

森昌利

クールな印象の三笘も26歳の純粋な青年

ウェルベックの得点を生んだシュートに続き、後半30分の3点目も三笘のプレーからもたらされた。クロスが敵DFの足に当たってゴールを割ると、力強くガッツポーズ 【Photo by Alex Dodd - CameraSport/Getty Images】

 三笘は反則タックルを食らってから10分間ほど左足の太もも部分を何度かさすって、蹴られた箇所を気にする素振りを見せた。

 けれども前半20分、右サイドからのコーナーキックをファーサイドから主将のルイス・ダンクがゴール前に折り返したボールをファクンド・ブオナノッテが至近距離で左足を合わせて、ブライトンが先制。すると続く同24分、ダニー・ウェルベックが奪った2点目は、三笘が放ったシュートを相手GKがセーブして転がったセカンドボールから生まれた。

 右サイドからパスカル・グロスが放ったクロスに合わせて快足を飛ばし、逆サイドの角度が厳しい位置からではあったが、三笘がダイレクトに左足を当てたフィニッシュを起点としたゴールで2点差がつくと、ブライトンはしばらく安全地帯でボールを回し、試合をマネジメントした。

 前半の44分にシェフィールド・Uがコーナーキックからゴールを奪ったかに見えたが、VARでオフサイドが確認され取り消し。ホームのサポーターの怒号が渦巻くなかで前半が終了した。

 後半もブライトンは、闇雲に食らいつくシェフィールド・Uをいなすかのようにプレーした。すると2点のクッションをもらって、プレッシャーなくボールを悠々とつなぎ続ける上位チームに対し、数的不利のホームチームの足が徐々に止まりはじめた。

 そして後半30分、三笘がグッとギアを上げた。

 試合を通じて左サイドで何度も対峙し、翻弄し続けたシェフールド・UのDFジェイデン・ボーグルにトリッキーなドリブルで迫ると、ゴールライン側にボールを出して、すかさず左足を鋭く振ったトゥキックで高速のクロスボールを放った。

 ニアにウェルベックが走り込んだがタッチの差で届かず。しかしその先に走ってきていた相手DFジャック・ロビンソンが伸ばした右足にボールが当たって、非情にも自軍のゴールネットを揺らすオウンゴールとなった。

 このゴールが決まった瞬間、三笘が両手をグッと天に向かって突き上げ、続いてアウェー・サポーターに向かって力強くガッツポーズをした。

「久々にゴールに絡んだ形ではあったんで(笑)。自分の存在意義を見せないといけないですし。みんな(ブライトン・サポーター)来てくれて嬉しかったので」

 こういう話を聞くと、いつもクールな印象がある三笘だが、やはり26歳の純粋な青年としての気持ちも伝わってくる。

 このゴールの1分後、ロベルト・デ・ゼルビ監督はお役御免とばかりに、三笘をベンチに下げた。ブライトンはこの後も、三笘がクリエイトした3点目の失点で絶望し、さらに疲労困憊(こんぱい)となったシェフィールド・Uからシモン・アディングラが2点を奪って、5-0で勝利を飾った。

サラーに肉薄する魔法のようなシュートを目撃する日も

「練習では入ることもある」という、左の角度のない位置からのシュート。前半24分のチーム2点目のゴールにつながったのも、新境地と言えるそのプレーだった 【写真:REX/アフロ】

「点差がついてからは、前に押し込んでという形を意識してました。後半は相手も落ちたので、こういう結果になるとは思っていました」

 試合後、勝ち点が38に伸びてリーグ7位に浮上し、得失点差が8となりこれも偶然リーグ7位となった大勝劇について尋ねると、いつもの冷静な三笘のコメントが返ってきた。

 また「コンディションは好調時に戻ってきたようだが?」と話を向けると、「いや、まだまだですね。今日は展開的に楽だったので、あれくらいしないと。今日は(ゴールに)絡んでいますけど、数字には出ていないですし、次に頑張りたいと思います」と語って、ゴールまたはアシストがつかなった試合に決して満足することはなかった。

 しかしこの試合、筆者は三笘のプレーに進境を感じる場面があった。それはウェルベックの2点目につながったシュートと、もう1本、後半に放ったシュート。2本とも至近距離からだったが、左サイドの非常にタイトなアングルから放ったシュートだった。

 そこで「狙っているのか?」と素直に尋ねた。すると26歳MFはほんの少しだけ微笑み、「いや、イメージはあるんですけど」と話し出すと、「まだまだ改善しないといけないところもありますけど、ああいうところで打ち切れれば、何かが起こると思いますし。練習では入ったりするんですけどね。試合では入らないです、はい」と語ったではないか。

 これまではカタールW杯のスペイン戦で見せた『三笘の1ミリ』の形。そう、左サイドのタイトアングルからはゴールラインぎりぎりから折り返すショートクロスがトレードマークだったが、どうやら26歳日本代表MFは、あの位置からのシュートを新たなプレーオプションとして開発しているようだ。

 あの位置からはトップスピードのなか、GKの脇をすり抜ける、もしくは股を抜く、球足の速いシュートを針の穴を通すような正確さで蹴ることが要求される。しかし「練習では決まる」というこのフィニッシュが試合でもゴールとなりはじめたら、三笘の脅威はさらに高まる。

 そんなゴールを現在のプレミアリーグで意識的に決められるウインガーは、リバプールのエース、エジプト代表FWモハメド・サラーくらいしか思いつかない。

 今後は三笘が左サイドの厳しい角度からゴールに近づく度に、“どこにシュートコースがあったんだ?”とゴールとなった後に目を見張る、サラーに肉薄する魔法のようなシュートを目撃する楽しみも増えそうだ。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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