「すんごいパワーでとんでもないところに運ぶ」新戦力が台頭した中部電力 日本選手権で覚醒したのは…

竹田聡一郎

江並杏実(左)と中嶋星奈(右)。江並のラッキーアイテムはトートバッグ。中嶋の愛称は「なかじまんじ」 【(C)JCA/H.IDE】

 札幌市のどうぎんカーリングスタジアムで開催中の第41回全農日本カーリング選手権大会は、予選一次リーグを終え、二次リーグに入った。

 女子Aブロックを通過したのは3勝1敗で並んだフォルティウス、中部電力、SC軽井沢クラブだ。

 フォルティウスは小谷優奈を、中部電力は江並杏実を、SC軽井沢クラブは上野結生を、それぞれ新戦力を加えて今季を迎えたが、ここまでは特に中部電力の戦いぶりが目を引いた。

「あと1センチ」を埋めるための「すんごいパワー」

「あと1センチだけロールしてれば。あと1秒早くスイープしておけば。それで勝敗が変わる。もっと細かく石の動かし方を煮詰めないといけない」

 昨季の終わり、日本選手権決勝でロコ・ソラーレに敗戦した後の北澤育恵の言葉だ。その精度の差を埋めるために、江並をラインアップに盛り込んだ今季は開幕から江並、北澤、鈴木みのり、石郷岡葉純、中嶋星奈の5選手を入れ替えて試行錯誤を繰り返したが、北海道ツアーやカナダ遠征ではなかなか成績が伴わなかった。

 それでも鈴木が「杏実ちゃんが入ってから結果は出なくても、『あとちょっとどうしたらいいんだろう』とみんなで話し合うことができた。負けた試合から学ぶことも多かったと思います」と語っていたが、シーズンに後半に向けて強化を進めた。

 元々、中部電力は技術的には国内だけではなく、世界トップに通用するレベルにある。江並も「技術力が高いチームだなって思っていたので、そこで私ができることを考えるとスイープだった」と自覚を持っていた。

 結果的には江並のスイープを生かすために鈴木みのりをリードバイスに抜擢し、セカンドに江並、サードに中嶋、スキップに北澤という布陣を組むと12月の軽井沢国際で初優勝。「日本選手権への自信になった」とは北澤だ。

 その北澤が「すんごいパワーでとんでもないところまで運んでいく」と評す江並のスイープが最大限に発揮されると同時に、才能を開花させたのが中嶋だ。北澤のラストロックなどでは江並をファーストスイーパーとし、中嶋はその石のスピードや回転を見て素早くジャッジする。「元々、ウェイトジャッジはうまかった」と北澤、「100%の力で履くことができる。とても信頼しています」と江並。前述の軽井沢国際でチーム内MVPについて質問された石郷岡も「中嶋です」と回答した。

「スイープ面でもショットでもバイスをやっていたときの経験が生かされているのか、アイスの状況をしっかり確認した上でプレーしている。(北澤がショットセレクトで)悩んでいるときにハウスに向かって話をしたりと、提案している内容も悪くないし、リスク管理ができている。ショット選択にいい貢献をしていたと思います」

 この経験豊富な石郷岡をコーチボックスに置くことも奏功した。

「自分でプレーしていたときにいいことを伝えてくれるとうれしかったので、意識してポジティブなことをフィードバックするようにしています」と語るチーム最年長はアイスの外からの視点と精神的な安定感をもたらした。

 逆に最年少の鈴木は今季途中からキャリアとしてほぼ初めてのバイスをこなすことになったが、江並が「とても真面目で丁寧な部分があるので、そういうところが育恵ちゃんと相まっていい感じになっているのかなって思います」と、天才肌の感覚で投げるエースとの相性を評した。

二次リーグではいよいよロコ・ソラーレと対戦

 昨年、頂点まで届かなかった「精度」を求め、スイープを強化した中部電力は、江並という新しい矢を中心に進化を遂げた。丁寧で真面目な最年少選手、サポートに回った鋭い視点の最年長選手、才能を開花させたムードメーカー、国内屈指の決定力を持つ看板選手。二次リーグ初戦の北海道銀行は落としてしまったが、それぞれが新しい役割をまっとうすれば、まだまだ挽回は可能だ。5年ぶりの戴冠へ。負けられい戦いは続く。

左から北澤、江並、鈴木、石郷岡、中嶋。軽井沢国際では石郷岡がコーチとしてアイスに降りる場面もあった 【筆者撮影】

中部電力カーリング部

2009年に「世界で戦えるカーリングチーム」を目指して創部。清水絵美(現マネージャー)や市川美余(現解説者)、藤澤五月(現ロコ・ソラーレ)らを擁した2011年には日本選手権で初優勝。そのまま4連覇を達成した。現在のメンバーでは北澤、石郷岡、中嶋が2017年と2019年に優勝を果たしている。ミックスダブルスでは松村千秋が昨季は世界選手権で史上初の銀メダルを獲得した。チームのモットーは「良きカーラーであると同時に良き社会人であること」。
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著者プロフィール

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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