連覇達成の組織バレーや輝き放った大エースたち 春高バレーで高校生が見せた進化し続ける姿
「最高の雰囲気、会場で試合ができて幸せだった」と岡谷工、駿台学園の両キャプテン 【写真:田中夕子】
春高バレー連覇・駿台学園と岡谷工の3年生最後の試合
今年度のチームになってからの一年間、岡谷工・大日方崇徳監督が「一番多く練習ゲームをしてもらった相手であり、監督としても学ばせてもらった存在」という駿台学園に打診し、両校共に3年生が出場する最後の試合が実現した。駿台学園の亀岡聖成主将が「岡谷工は基本に忠実で、基本的なパスの精度も上げないと勝てないと教えられる、初心に戻れる相手。とにかく楽しみたいと思って臨み、最高の雰囲気、会場でできて幸せだった」と振り返るように、1780名が詰めかけた会場は満員御礼。2セットマッチを25対15、24対26の1対1で引き分けると、2セット目を逆転で制した岡谷工高の選手たちは抱き合い、大喜び。会場からも大きな拍手が送られ、大日方優将主将は「練習試合でもなかなかセットが取れなかったので、取れて本当に嬉しかった」と満面の笑みを浮かべ、こう言った。
「この1年間、全国に出る、勝つための基準はいつも駿台にありました。駿台を目指して練習してきたことで、全国でも戦うことができたし、最後まで自分たちがやりたいバレーをやりきることができた。駿台のおかげです」
振り返れば、駿台学園の連覇で幕を閉じた今年の春高では、多くのチームが駿台学園のスタイルに倣い、ブロックが揃った状況では無理に打たずリバウンドをとって切り返す。レシーブが崩されてからのハイセットも、リバウンドを取りやすくするためにネットの近くに寄せ、得意なコースへ打ち込むばかりでなく、ブロックアウトや空いたコースにプッシュで落とすプレーも目立った。
特に岡谷工や、3回戦で駿台学園に敗れた高川学園高(山口)はその筆頭で、互いが互いに相手の嫌なことを巧みにやってのける。その結果、長いラリーが見られたのも特徴的で、何より1本1本の選択に明確な意図が感じられる大会でもあった。
だが、だからこそ、と言うべきか。駿台学園の梅川大介監督は連覇を決めた決勝後の取材でこう言った。
「来年は今年のうちがやってきたようなスタイルで戦うチームが増えるかもしれない。それも、1つの方向性としては間違っていないと思いますが、それが日本バレー界のためになるか、といえばイコールではない。むしろしっかり叩けるエースを育てられるチームのほうが僕はすごいことだと思うし、自分にはできません。自分たちがやっているバレーは180センチ台の選手がやるバレーであって、大型選手には大型選手の戦い方で突き抜けてほしい、とも思うんです」
鎮西のエース・井坂は3年連続センターコートに立つ
万全な状態でない中、井坂はチームをセンターコートまで押し上げた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
熊本、九州の強豪校であり、数多くの優勝経験を誇るだけでなく、宮浦健人(日本代表/パリ・バレー)や水町泰杜(早稲田大4年)、舛本颯真(中央大1年)など記録だけでなく記憶に残る、多くのエースを輩出してきた。
野球におけるエースナンバーとも言うべき、鎮西を象徴する選手が背負う番号が「3」。今年、鎮西でエースナンバーを背負ったのが、主将の井坂太郎だ。1年時から出場し、春高でセンターコートに立つのは3年連続。それだけでも快挙なのだが、昨年10月、ブロック時に右肩を負傷し、最後の春高を万全な状態で迎えることはできなかった。連戦が続く春高、初戦の市立尼崎高(兵庫)戦はベンチスタートとなったが、第1セットを失い、第2セットからコートへ。逆転勝ちにつなげる起爆剤となり、3回戦、準々決勝も勝利し、準決勝進出を決めた。
昨年の春高では決勝で2対0とリードしてから、駿台学園に逆転で敗れた。チームのエースとして多くの打数を担ったのは舛本だったが、舛本も膝の状態が万全ではなく、それでも逃げずに勝負する背中を間近で見てきた。
「歴代の3番をつけている人たちは、自分とは比べ物にならないぐらいすごい人たちばかり。自分がキャプテンになって、3番を重く感じたこともあったし、勝つことがすごく難しくて、苦しい時間がたくさんありました」
エースにより多くの打数が偏れば“エース頼み”と揶揄されるが、エースに打たせるために1本1本のプレーを疎かにしない。インターハイ、国体でも思うような結果が残せなかった今季は、より多彩な攻撃ができるように、と速さや種類のバリエーションを増やし、守備練習にも時間を割いて来た。準決勝は福井工大福井高に敗れたが、その成果はいかんなく発揮した。高い打点で、高い位置からボールを叩く。ラリーを制するバックアタックで何度も見せ場をつくる。最後の1本は井坂のバックアタックが福井工大福井の3枚ブロックに阻まれたが、託された1本を打ち抜こうと攻める姿は、まさに鎮西のエース、そのものだった。