連覇達成の組織バレーや輝き放った大エースたち 春高バレーで高校生が見せた進化し続ける姿

田中夕子

チームを初の決勝に導いた、福井工大福井のエース

最後まで「真っ向勝負」を貫いた、福井工大福井の堤 【写真は共同】

 そしてその鎮西を準決勝で破り、同校初、福井県勢として初めての決勝進出を果たした福井工大福井の主将、堤鳳惺(おうせ)も大会を盛り上げたエースだ。

 駿台学園がリードしたこの1年、多くのチームが駿台を真似てリバウンドや、リバウンドからの攻撃展開にチャレンジしてきた中、堤はあえて「自分は真っ向勝負でいきたい」と貫いた。

「自分が思うエースは、(鎮西のエースだった)舛本さんのようにどんな時にも打ち切る選手。チームメイトも『ここは打ってほしい』という場面が絶対にあるからこそ、そこは絶対打ち切りたいし、打ち切れる選手でありたいです」

 ノーシードならば5日で6試合、シード校でも4日で5試合というアスリートファーストには程遠い試合日程であることに加え、3回戦と準々決勝はダブルヘッダー。福井工大福井は堤と山本快の2枚エースが得点源であり、多くの打数を担うだけでなく、ラリーが続いた場面や競り合った状況でこそトスが集まる。しかも準決勝と決勝は5セットマッチで行われる。体力の消耗も激しく、本来ならば選手にとって最もベストなパフォーマンスを発揮したい、と願うセンターコートに立つ頃には満身創痍という状況も少なくない。

 しかも決勝の相手は駿台学園だ。攻撃だけでなく、ブロックとレシーブが連動した守備力も随一で、対応力や修正力にも長けている。どれほどの大エースであろうと苦戦は必至な相手であることは承知のうえで、堤は果敢に攻めた。結果こそ、0対3のストレートではあったが、叩きつけたバックアタックの音と、高いトスをしっかり叩き、ストレートやクロスに打ち分ける。敗れた悔しさを滲ませながらも、エースとしての姿は最後まで見せ続けた。

「西田(靖宏)監督から『どんな時もボールを叩いて、打ってくる選手が相手にとっては恐れられる選手だから、そういう選手になれ』と言われて、監督のような選手になりたい、と思ってずっとやってきました。負けたのは悔しいけど、自分の力は出し切れたので悔いはないです。(福井の)歴史を変えられたことも、嬉しく、誇りに思います」

来年の高校バレーをリードするのはどんなバレーになるか

Vリーグの会場でエキシビションマッチを戦った駿台学園と岡谷工の選手たち。来年はどんなバレーが見られるか 【写真:田中夕子】

 連覇を成し遂げた最強軍団、駿台学園に立ち向かった1年間。同じように組織的なスタイルで臨んだチームや、個の力を信じエース勝負で挑んだチーム。それぞれが、長い時間をかけて磨いてきた技や思いのたけを、高校生たちはいかんなく発揮して見せた。

 サイズ的に見れば、井坂も堤も180センチ台で、決して大型選手ではない。だが、それでもエースとして叩きつける、とばかりに自ら信じる戦い方を貫く姿は、何よりカッコよかった。

 春高が終わり、すでに新チームが始動し、新人大会も開催されている。選手が変わり、戦力も変わる中、ここからどんなチームや選手が誕生するのか。駿台のように知恵と技術を磨いた組織的な戦いぶりが主流になるのか、それとも組織をも打ち破る圧倒的な高さやパワーを備えた「個」が出てくるのか。

 勝敗のみならず、技も戦術も、進化し続けている高校生たちの姿を見せつけられた。

 だからこそ、明るい未来へつなげるべく。そして磨いた成果をすべて満足いく状態で発揮しきれるような、アスリートファーストの大会であることを、切に願う。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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