Vリーグ・大河バイスチェアマンが語るバレーの可能性 「あっという間に2倍、3倍」にする方法とは?

大島和人

バレーボール界は24年のSVリーグ誕生に向けた改革の渦中にある 【VLAP-2023-002 ©JVL】

 スポーツファンの皆さんがバレーボールをイメージするとき、最初に思い浮かぶのは日本代表チームだろう。代表チームは地上波の中継も多く、コアなファンでなくても目にする機会が多い。観客の盛り上がりも華やかで、「メジャー感」が強いエンターテインメントだ。

 ただどんなチームスポーツも所属チーム、日常のリーグ戦は代表チームを支える大切なホームコートだ。バレーボールのVリーグは男女とも有力企業の支援もあり、前身も含めれば長い伝統を持っている。しかし観客数、事業規模といった部分は野球、サッカーはもちろんバスケットボールにも大きく遅れを取っている。

 この競技を支える、文化をつなぐ人が増えれば、選手にとって間違いなくプラスになる。直接的に言えばトップ選手の収入が増え、バレー少年・少女が「夢」を追える状況も生まれる。バレーボール界はそんな未来を生み出すため、2024年に現行のVリーグを刷新・発展させたS-V.LEAGUE(以下SVリーグ)を発足させる。制度設計、事業のキーマンとして加わったのが、びわこ成蹊スポーツ大学の学長を務める大河正明氏。エリート銀行員からスポーツ界に転じて、Jリーグの役員やBリーグ開幕時のチェアマンを歴任し、プロスポーツの深奥を知る人材だ。ただしバレーボール界においては「外部人材」で、当然ながら競技の専門家でもない。

 インタビュー前編はその大河氏に代表の盛り上がり、リーグの現状、彼の観察したバレーボール界といった視点で語ってもらった。

1時間前から8割埋まった客席に驚く

――大河さんの肩書が「業務執行理事(バイスチェアマン)」に変わりました。チェアマン、バイスチェアマンは通称ですが変更はどういう理由ですか?

 Vリーグは元々トップを「会長」と呼んでいたのですが、日本バレーボール協会(JVA)も同じ「会長」ですよね。だから会長だと、國分裕之会長(Vリーグ)と川合俊一会長(JVA)の区別がつきにくいんです。サッカーは協会が「会長」で、リーグは「チェアマン」なので、バレーもリーグは「会長」をやめようと提案しました。プレジデントとか、コミッショナーは少し違うねとなって、それで「チェアマン」になりました。

 法人の性格上は代表理事、業務執行理事という言い方になっています。私は「業務執行理事」として広報・プロモーション、事業・マーケティングとクラブライセンスを担当しています。

――9月から男女のワールドカップ(W杯)が日本で開かれて盛り上がりました。男子はパリ五輪の出場権も獲得しています。10月にはVリーグも開幕しましたが、現場は行かれましたか?

 W杯は男女を1試合ずつ見ました。リーグはサントリーサンバーズと、ウルフドッグス名古屋のホームゲームに行っています。

――バレーボールの盛り上がり、カルチャーについては率直にどういう印象ですか?

 代表は「この選手を見たい」という熱烈な追っかけ文化がありますね。サッカーだとコアなサポーター以外は選手紹介をするくらいの時間に揃うけれど、バレーボールの代表戦は1時間前から全員が座っている感じです。練習のときからずっとコートを見ています。バスケットでも1時間前から8割埋まっている試合なんて経験がないから驚きましたね。

――多分どんな競技も「若い女性のお客」は一番呼び込みたい層だと思いますが、バレーは既にそこがコア層ですね。

 Bリーグも女性と若者をターゲットにしていましたけど、最初はそうでもなかったんです。それに比べると、これだけ熱心な女性のファンがついているのは驚きです。あとはファミリーやバレーボールを経験した人たちに来てほしい。

――ただ、もしかしたら「一見さん」にとって代表戦は入りにくい空気かも知れません。

 同調性、ある種の同調圧力はあるかもしれません。バレーも自然に湧き上がるような応援文化ができればいいと思います。

代表の盛り上がりはまだリーグに反映せず

久光スプリングス(写真)は開幕戦に7千人以上の観客を集めたが…… 【VLAP-2023-002 ©JVL】

――リーグは良くも悪くも代表と違う現状があると思います。

 男子はパリ五輪に出場が決まったのに思うようには入場者数が増えていません。女子は久光スプリングスがSAGAアリーナで開幕戦をやって7千人以上を入れたし、男子も東京グレートベアーズが代々木第二を満員にしました。個別の盛り上がりはありますけど、全般的に見ると残念ながら大きくは変わっていません。

――入場者数が大きく増えたチームはどういう背景があるんですか?

 久光はチームの運営が独立して法人化しています。要はプロ化をしている。選手は久光スプリングスという運営法人の契約社員で、社会保険料などは会社が処理をしてあげているけど、事実上のプロ契約です。

 東京グレートベアーズはネイチャーラボさんがFC東京のバレーボールチームを買って、事業としてコンテンツ力を上げていく意気込みを感じます。この2つと、あとヴォレアス北海道という旭川のチームはもうプロです。

 こういったチームは背水の陣でとにかく入場者を増やして、知名度を上げて、スポンサーを増やす……、つまりJリーグやBリーグのチームと同じ発想です。企業系でそれをやれているのが久光とパナソニックと、あとはウルフドッグス名古屋でしょうか。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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