宇都宮が見せている「リバウンドメンタリティ」 佐々HCの“脱皮”はなぜ起こっているのか?

大島和人

佐々HC(左)と竹内公輔(右)はチームを支える「84年世代」 【(C)B.LEAGUE】

 1月21日、22日の沖縄アリーナでは、昨季のB1王者と一昨季のB1王者が対峙していた。琉球ゴールデンキングスは2022-23シーズンのB1チャンピオンシップ(CS)を制したチーム。沖縄アリーナは男子日本代表のパリオリンピック出場権獲得を支えた心強い「ホーム」だが、そこへ乗り込む側にとっては難しいコートだ。

 宇都宮ブレックスは2021-22シーズンのB1・CS王者だが、昨シーズンは32勝28敗でCS進出を逃した。佐々宜央ヘッドコーチ(HC)は39歳で、英語も堪能な切れ者の指導者だが、HC初挑戦だった琉球は2019年末に志半ばで去っている。アシスタントコーチからHCに昇格した宇都宮でも、初年度(2022-23シーズン)は結果を残せなかった。チームも指揮官も、悔しさを持って2023-24シーズンに足を踏み入れていたはずだ。

 1月21日の初戦は琉球が68-66で勝利していた。さらに宇都宮は翌22日の2戦目で、アイザック・フォトゥの欠場という不測の事態に見舞われてしまう。帰化選手のギャビン・エドワーズも、負傷で11月から実戦に戻れていない。外国出身のビッグマンが二人不在となれば、やりくりは当然厳しいはずだ。

佐々HCが見せた終盤の勝負手

 しかし22日の再戦で、宇都宮は強烈なカムバックを見せた。

 第4クォーターの残り4分24秒のタイムアウト時点で、宇都宮は61-68と7点のビハインドを負っていた。琉球は松脇圭志を中心に相手ハンドラーに激しいプレッシャーをかけ、第4クォーターに入ると相手の24秒バイオレーションやターンオーバー、トラベリングを誘発。流れは明らかに琉球だった。

 だが宇都宮はそこから13得点のラン(連続得点)を挙げて逆転し、74-68の勝利を収めた。佐々HCは試合をこう振り返る。

「ボールが止まって1対1をするみたいな状況が増えてましたが、その中で最後はチームとしてやりたいオフェンスがしっかりできた。あとは特にリバウンド(が勝因)です」

 残り4分24秒のタイムアウトで施した佐々HCの修正が、面白いようにハマった。

「(宇都宮の攻撃は)ショットクロックバイオレーションが多かったじゃないですか? パスはもちろん動かした方がいいけれど、(琉球は)パス回しへのディナイ(腕と手でパスコースを切るディフェンス)を強調しているチームです。逆に(ボールを)動かしすぎていると、ただ時間を食って『プレッシャーをかけている雰囲気』を作られてしまう。この沖縄の会場だから、皆さんも盛り上がります。だからこそ単純に、2対2の状況から縦に突く動きを先に入れて、ズレたところからボールを動かす選択肢を与えました。見え方としたら個人技に見えるところもありますが、それはチームとして作ろうとしていたオフェンスでした」

 22日の観客数は琉球にとってリーグ戦史上最多の8443名。パスコースを消しながら間合いを詰め、煽るように寄せていく琉球の対人守備は相手ハンドラーを苦しめるだけでなく、観客を盛り上げるスイッチになっていた。悪いモメンタムを変える方法として、宇都宮は「まず縦を突く」というオフェンスを取り入れた。この采配が試合の潮目になった。

竹内公輔が勝利の立役者に

竹内は22日の琉球戦で14リバウンドを記録 【(C)B.LEAGUE】

 桶谷大HCは別の視点から敗因を説明する。

「ディフェンス自体は悪いと思わないですし、プランも悪くなかったけれど、ただやはり竹内(公輔)くんのところのリバウンド争いですね。もう少し話をしておかなければいけなかった」

 佐々HCも竹内公輔の働きについて、「インサイドの外国籍選手が1人いない中で、オフェンスリバウンド8本は尋常じゃない」と称賛していた。個人に焦点を当てたとき、彼は間違いなく第2戦の立役者だった。1月29日には39歳を迎える206センチのビッグマンは、32分03秒の出場時間で11得点、14リバウンドを記録している。

 ただ、竹内は21日の試合で悔しい思いをしていた。

「昨日は最後、(アレン・)ダーラムにめちゃくちゃやられて、ラストショットもD.J(・ニュービル)が良いパスをくれたけど決められず負けてしまいました。本当に昨日はすごく悔しくて、だから今日は『やってやる』と思っていました」

 21日から22日、22-23シーズンから23-24シーズンという具合に、竹内公輔のキャリアはベテランとは思えない「右肩上がり」を見せている。昨季の竹内は1試合の平均出場時間が13分39秒で、セカンドユニットが彼の持ち場だった。今季はエドワーズの負傷から主に先発で起用されるようになり、12月と1月の17試合はそのうち14試合で20分以上のプレータイムを得ている。

長時間のプレーにも「慣れてきた」

 宇都宮は22日の琉球戦を終えて24勝7敗で、東地区2位。全体勝率1位のアルバルク東京を「3ゲーム差」で追走している。なお、ここまでまだ一つも連敗がない。昨季の成績と比べてもチームのカムバックは明らかだ。エドワーズ不在でこれだけ結果を残しているのだから、大健闘と言っていい。

 5年前、10年前ならともかく、間もなく39歳の竹内公輔が「これだけやっている」ことも驚きだ。最も彼は自然体で、こうコメントする。

「ギャビン(・エドワーズ)がケガして、長くかかるのではないかとなったとき、最初は少し不安でした。だけど『こうプレーしたらチームは上手く行くな』というものを、最初の横浜BC戦(12月2日/◯86-53)である程度は体感できました。自分でどうこうと言うよりも、チームで決めたことを遂行する気持ちでできています」

 日本代表を長く支えてきた名選手とはいえ、「アラフォー」がインサイドで身体を張り続ければ消耗もする。しかし、彼は厳しいスケジュールの中で自分をうまくコントロールしている。

「川崎(12月9日/◯86-83)戦で延長に行ったときはさすがにしんどかったですけど、慣れてきたかもしれないです。バスケットのことはあんまり考えないで、自分の趣味に没頭すれば、何か疲れが取れます」

 竹内が例に挙げる「自分の趣味」がゴルフ。栃木県内のゴルフ場でラウンドしている2メートル超級の男性ゴルファーがいたら、それは高い確率で彼だろう。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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