宇都宮が見せている「リバウンドメンタリティ」 佐々HCの“脱皮”はなぜ起こっているのか?

大島和人

ホーバスHCからの学びも糧に

39歳の佐々HCだが指導者のキャリアは学生時代から 【(C)B.LEAGUE】

 佐々HCは竹内と同学年。選手としては大ベテランだが、HCとしてはまだ若い世代だ。7学年上(1977年生まれ)のB1優勝経験を持つコーチ二人と対比しながら、青年指揮官は自らの成長についてこう口にした。

「僕は沖縄でHCをスタートさせてもらって、あのときも必死に頑張ってやっていましたけど5、6年前の自分は本当に甘かったと思います。一応まだ30代で、成長していかなければいけませんが、去年の自分とは違う自覚を持っています。ただ桶さん(桶谷大HC)とか、大野(篤史)さんとか、自分よりもっと素晴らしいコーチもいます。今日は勝ちましたけど彼らへ追いつけるように、僕も若いコーチとして頑張って、これからも成長していきたい」

 佐々HCは琉球から宇都宮、22-23シーズンから23-24シーズンと、一歩一歩階段を登っている。昨夏はあの名将から学びを得た。

「沖縄の地で、幸運にも(アシスタントコーチとして)W杯を経験させてもらいました。オリンピックを決めるようなチームに関わって、トム・ホーバスの下で学んだこともあります。色々ありすぎますけど、組織作りみたい部分は(ホーバスHCの手法を)意識してやっています。単純に言うと一人一人の役割、リーダーシップの重要性をチームに伝えていっています」

苦しいゲームをモノにする宇都宮

 少なくとも今季の佐々HCは「悪い流れを立て直せる指揮官」だ。宇都宮は第4クォーターに9点差を逆転した10月31日の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦(〇70-67)、12点差から追いついてオーバータイムで突き放した12月9日の川崎ブレイブサンダース戦(〇86-83)など、しぶとい勝ち方を何度も見せている。「連敗しない」部分も含めて、今季の彼らにはリバウンドメンタリティが根付いている。

 指揮官はチームの成長についてこう胸を張る。

「7点差ビハインドになったときの選手たちの目の強さと、喋る様子が『この地で勝つぞ』『諦めないぞ』という気持ちが伝わってきて、今年のチームはそこが本当にすごいと感じます。僕らもゲームプランはありますけど、意志を持っている選手たちがいる。それが苦しいゲームでも勝てている一つの要因だと思っています」

 どんなスポーツでも連敗しない、勝負どころで最大値を発揮できるのは「いいチーム」だ。今季の宇都宮にはそのような逞しさ、しぶとさがある。

「『広い心』が身についた」

 琉球の桶谷大HCは佐々HCがお手本とするだけでなく、プライベートでも関係がいい先輩だ。桶谷HCは「後輩」の変化についてこう口にしていた。

「良い奥さんをもらって、子どもができて、何かすごい世界が広がっている感じがします。すごく、優しくなりましたよね。人に優しくなって、一緒に飲んでいても楽しい。チームをまとめるに当たって、そういうのは結構重要なのかなと思っています。相手のコーチに僕が偉そうに言うことじゃないですけど、彼は『広い心』が身についてきました。僕はすごく彼を尊敬していますけど、そういうのが見えてきています」

 今季の宇都宮はD.J・ニュービル、エドワーズといった新加入選手がいたとはいえ、顔ぶれは昨季からそれほど変わっているわけではない。そのような状況下で戦績、試合内容が改善している理由の一つは、間違いなく指揮官の脱皮だろう。出番は少なくともベンチで仲間を盛り上げている田臥勇太や渡邉裕規、チームの苦境を救った竹内公輔といったベテランの存在も大きい。今季の宇都宮は比江島慎を筆頭とした選手たちの「本来の能力」が引き出されているグッドチームだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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