「世界で最も成長している競技」ピックルボール ソフトテニス王者・船水が二刀流で“メジャーリーグ”に挑戦

大島和人

ソフトテニスの元世界王者・船水雄太がピックルボールの「メジャーリーグ」に挑戦する 【大島和人】

 サッカー、ラグビー、ホッケー、クリケット、ゴルフ、テニス、バドミントン、卓球はイギリス発祥だ。バスケットボール、バレーボールはアメリカで開発された。野球、アメリカンフットボールのようにイギリス発の競技がアメリカで「魔改造」された例もある。いずれにせよ、メジャースポーツの多くは英米のどちらかでルールが制定され、そこから世界に広まった成り立ちを持つ。

 ピックルボールもイギリス発のラケット競技を源流にしつつアメリカで開発されたスポーツだ。日本国内の認知度はまだ「メジャー」と言い難いレベルだが、アメリカを中心に根付き始めている競技だ。そんなピックルボールの「メジャーリーグ」入りを目指し、24年1月に日本のプロソフトテニス選手・船水雄太が渡米する。

アメリカでブレイク中の新興競技

ピックルボールのラケット、ボール(パドル) 【AAS Manegement提供】

 ピックルボールがどのようなスポーツか伝えるなら「テニス、卓球、バドミントンをかけあわせたようなもの」と説明するのが早い。コートの大きさはバドミントン、ネットの高さはテニスと共通で、「パドル」と呼ばれる卓球より一回り大きいボールを打ち合う競技だ。

 ラケットはテニスやバドミントンより小さく、卓球よりは大きい。樹脂製のパドルは穴が空いていて、バドミントンのシャトルコックと同様に空気抵抗で減速する構造になっている。テニスボールに比べて跳ねにくいため、体育館の木や、テニス用のハードコートでプレーすることが一般的だ。

 パドルをコントロールしやすい、ラリーが続きやすいといった特徴から「試合をやれるレベル」への到達が容易。怪我のリスクも低く、生涯スポーツとして垣根が広い特性を持っている。

 アメリカでは競技者が急増していて、直近の3年間では何と2.5倍以上の伸びを見せた。2023年3月には「4830万人が過去1年間にピックルボールをプレーした」という調査も公表されている。スポーツ系のレクリエーションとしてはランニング、自転車に次ぐ人数だ。マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツや、俳優レオナルド・ディカプリオのようなセレブもこの競技にハマり、発信に協力しているという。

「メジャーリーグ」に大物も出資

米国では大きな大会も開かれている(写真は2023年11月の全米選手権) 【Photo by Bruce Yeung/Getty Images】

 アメリカには「メジャーリーグピックルボール(MLP)」と称するプロリーグがあり、チームの対抗戦を行っている。男女2名ずつの4選手が1つのチームを構成して「個人」「ダブルス」「ミックス(混合)ダブルス」の3種目で競い合う仕組みだ。1シーズンの賞金総額は500万ドル(約7億円)で、MLP以外のトーナメントも含めて「100万ドル(1億4000万円)以上」の収入を挙げている選手も存在するという。

 ピックルボールは競技の特性上、テニスからの転身者が多い。船水は現役のソフトテニス選手だが、ビジョナル株式会社の南壮一郎社長の勧誘、提案によって今回の挑戦を決めた。

 南社長はアメリカでこの競技を知り、テニス選手の大坂なおみ、NFLの名QBパトリック・マホームズらとともに「マイアミピックルボールクラブ」に出資もしている。

「ピックルボールは世界で最も成長しているスポーツです。まず自分がやってみて、本当にこういう形で新しいスポーツで広がっていくのだと実感しました」(南社長)

ソフトテニスの有力選手がMLPに挑戦

船水はソフトテニス選手として実績を残してきた 【AAS Manegement提供】

 船水は現在30歳。ソフトテニスでは国内のタイトルを総なめにした上、2015年には国別対抗戦で世界選手権の金メダルも獲得している。2020年にはNTT西日本を退社し、「プロ選手」として活動していた。

 キャリアに「迷い」「不安」を感じていた船水に対して、南社長は2023年2月にこんな提案をした。

「アメリカでこんなに急成長している、でも日本で誰も知らないようなスポーツがあって、(ソフトテニスと)近しい要素も多い。(プロに転身するほどの)相当な覚悟があるなら、アメリカでプロピックルボールプレイヤーを目指したらいいのでは?と僕から問いかけました

 その時点ではイエスともノーとも返事をしなかった船水だが、23年の6月に行動を起こす。自ら日本協会にアプローチを取り、プレーを開始。本場アメリカの環境も経験した。そして元世界王者で日本語が堪能なダニエル・ムーア氏と、その父スコット・ムーア氏のサポートを受けつつ「メジャーリーグ」に挑戦する決意を固めた。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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