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遠藤航、攻守の切り替えを支配する「6番」へと変貌 “5メートル前方”の新たな景色の中で進化を続ける

森昌利

LASKリンツ戦の遠藤は高い位置でボールを奪って素早く攻撃につなげ、2ゴールに絡む活躍。さらに3日後のフラム戦では値千金の同点弾を決め、目に見える結果も残した 【ロイター/アフロ】

 11月30日(現地時間、以下同)、ヨーロッパリーグのLASKリンツ戦に先発出場した遠藤航は、リバプール仕様の「6番」に変貌したことを強く印象づけた。他の多くのチームのアンカーより前にポジションを取り、鋭い寄せでボールを奪って攻撃の起点となった。そして続く12月3日のプレミアリーグ・フラム戦では、1点ビハインドの試合終盤に出場し、逆転勝利を呼び込む同点ゴール。これだけの大仕事をやってのけたことも、リバプールのナンバー6として着実に進化している証だ。

リバプールの6番特有の高い位置取りから生まれたインターセプト

「リバプールの6番は、もうとにかく(ピッチの)横幅を全部守るくらいの感じでリスクマネジメントをする。それでもより高いポジションを取りながら、ボールを奪いにいかなくてはなりません。そこはかなり、5メートルの差で本当に難しくなります。けれどもそこをいかにチャレンジするかということで、今日の試合でも“奪われた後に奪い返す”というシーンが多くなっていたと思います。

 自分のところで奪い返せば相手はきつくなる。逆に前の味方は楽になってより攻撃的になれる。今日はチャンスが多かったけど、それは(自分の)パフォーマンスが良くなっていることもあったと思う。それで後ろのリスクマネジメントも良くなっている。そういうことが求められていると思います」

 これは11月30日に行われたヨーロッパリーグの試合の後に「リバプールの6番に求められるプレーは?」と聞かれて、遠藤航が語った言葉である。

 この試合で遠藤は2点目と4点目の起点となり、格下のLASKリンツ(オーストリア)が相手だったとはいえ、4-0快勝の主役となった。

 特に2点目に結びついたインターセプトが素晴らしかった。このプレーが生まれたのも、「5メートル前でプレーしなければならない」リバプールの6番特有のポジショニングがあったからだという。

 この時、遠藤が見せたボールへの寄せのスピード、反射神経の鋭さが目を引いた。試合後「あの動きは素晴らしかった」と素直に言うと、「あれはリバプールに来て意識しているところ」と答えて、こう続けた。

「守備から攻撃に切り替わるタイミングで、他のチームなら後ろにいて(前の攻撃的な選手たちに)“行ってこい”という感じで見ているシーンも多いが、うちの監督は自分にも同じスピードで高い位置に押し上げることを望みます。だからより高い位置でディフェンスもやらなくてはならないんです。しかし(自分がその位置に)いることで、高いところでボールが奪い返すことが可能になる。シュツットガルトならあそこまで高いポジションにいなかった。攻撃の選手と一緒に押し上げて、あそこにいたからできたインターセプトでした」

アレクサンダー=アーノルドとは「感覚が似ている」

遠藤がやりやすいチームメイトとして名前を挙げたアレクサンダー=アーノルド。攻撃時にはMFのように振る舞うこの右サイドバックとは、「感覚が似ている」という 【ロイター/アフロ】

 このコラムの初回で、遠藤の苦いプレミア先発デビュー戦について書いた。そこでユルゲン・クロップ監督が望む攻撃的な6番と、日本で「ボランチ」と呼ばれる守備的MFには役割に明らかな違いがあり、意識を変えなければならないということを記述した。

 あれから3か月が過ぎて、遠藤はその“違い”を完全に理解していた。それはまず、他のチームの6番より5メートルも高い位置取りをして、より豊富な運動量とスピード、そして鋭い反射神経をもって、攻撃と守備の水流が激しく入れ替わり、交錯するエリアでのプレーに対応することだ。

 当然ながら、現代のフットボール、特にスピードとフィジカルの強さが売り物のプレミアリーグでは、5メートル前に出ることで遠藤が失うスペースと時間は大きい。より高いインテンシティとボールを奪い返す技術、さらに攻撃の起点となる的確なパスも求められる。

 そんな新たな5メートル前の景色の中で過ごした3か月間で、遠藤はリバプール仕様の強く激しい6番に変貌していた。

 出足のスピードも素晴らしかったが、前に出ていたからこそあのパスをカットできた。そこからすかさず右サイドのモハメド・サラーにスルーパス。この遠藤のプレーを起点にして、コディ・ガクポがリバプールの2点目を奪った。

 守りの場面を一瞬にして攻撃に切り替えたインターセプトには遠藤も満足していた。リバプール6番の高い位置取りを意識した結果生まれたプレーを、「これがリバプールのサッカー、これがこのチームの6番として自分に求められているプレー。それがいい形で出たと思います」と語り、クロップ監督のヘビーメタル・フットボールに順応したシーンを振り返った。

 また面白いと思ったのが、どのチームメイトとの連携がやりやすいかという質問に30歳日本代表主将が答えたものだった。カップ戦で中盤のトリオを形成することが多いハーヴェイ・エリオットやライアン・グラフェンベルフとのプレーは、「一緒に試合をすることで少しずつフィーリングが良くなっている」と話した。そしてその後、待ちきれなかったというように「それからトレント(アレクサンダー=アーノルド)です」と名前を出した。

「それほど話すわけではないですが、ピッチ上で“感覚が似ている”と感じます。常に目を合わせながら、連携し、ポジションを入れ替えている。そこに個人的なやりやすさを感じています。今日も(アレクサンダー=アーノルドが)中に入ってきて、僕とのパス交換があったけど、お互いを見ながらやれていると思いました」

 先々週の土曜日、11月25日に行われたマンチェスター・シティ戦で、後半35分に同点ゴールを奪ったアレクサンダー=アーノルドに対し、この試合の解説を務めていた元マンチェスター・ユナイテッド主将のギャリー・ネヴィルが「ケヴィン・デ・ブライネに匹敵する選手。しかも彼のポジションはライトバックだ」と話して、その天才ぶりを絶賛した。

 このリバプール・ユース出身の25歳イングランド代表DFは、昨季から味方がボールを持つと、中盤にポジションを移す。したがって、遠藤とのダブルボランチという形態にもなりやすく、2人の連携は必然だ。

 アレクサンダー=アーノルドとのプレーが「やりやすい」と遠藤が語ったことは、リバプールにとって朗報である。実際、LASKリンツ戦の4点目も、遠藤からのスルーパスを受けたアレクサンダー=アーノルドがドリブルで持ち上がり、ガクポのゴールをアシストした。

 そして、4-0と快勝したヨーロッパリーグの試合から中2日で行われたリーグ戦。奇しくもこの2人が大ヒーローとなったのである。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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