インターハイ準Vチーム敗退の春高バレー京都府予選 U18アジア選手権MVPのエース尾藤が敗戦後に感じたこと

田中夕子

大観衆が見守った「東山vs.洛南」伝統の一戦

春高バレー京都予選は大熱戦の末、洛南が代表校に決定した 【写真:田中夕子】

 11月18日、京都代表決定戦。対するは、長きに渡りライバルとして切磋琢磨してきた洛南だ。決勝で対峙するのは3年ぶり。互いに勝てば全国上位、頂点をも狙える力を擁した両チームの決着を見ようと、会場となった島津アリーナ京都にはVリーグの大会よりも多いのではないかと思えるほど多数の観客が詰めかけ、座る席がなく、立ち見の客もいたほどだ。

 入学時は無観客だった代表決定戦も、大勢の観客が見守り、声出し応援の中で思い切り戦える。洛南の先取点から始まった試合で、自らスパイク、ブロックで連続得点を挙げるとガッツポーズをして跳び上がりながら満面の笑みを浮かべる。尾藤の姿は、最高の場所で戦える喜びに満ち溢れていた。

 その後もサービスエースやバックアタック、好調さを見せつけるように得点をたたき出すも、洛南も2年生エースの中上烈、対角に入る草野叶嶺の2本柱に加え、サウスポーの岸岡脩人が要所でスパイクを決め、18対18と両者一歩も譲らぬまま終盤を迎える中、抜け出したのは洛南だ。尾藤のスパイクがサイドラインを割り、18対19と先行され、中上のサーブから連続バックアタックで18対21、点差を広げた洛南がそのまま第1セットを先取する。

 しかし第2セットは出だしから花村のサーブが走り7対0と先行した東山が奪取。第3セットを洛南が取り、第4セットは東山。まさに白熱した、1点、1本を獲り合う大接戦を繰り広げる。そして迎えた最終セット。3対0と東山が先行したが、洛南は中上にボールを集め、2枚、3枚ブロックももろともせずに打ち抜く。真っ向勝負とばかりに尾藤も同じく2枚、3枚ブロックの中得点を叩き出したが、最後は渾身の力で放ったバックアタックが3枚ブロックに止められ、7対15で洛南が大熱戦を制し、5年ぶりの春高出場を決めた。

 足を攣る選手が多く出た中でもつかみ取った勝利に、全身で喜びを表す洛南の選手たちに対し、両膝に手をつき、顔を覆い、泣き崩れる東山の選手たち。その中で尾藤は、姿勢を崩すことなく、前を向いていた。

「まだ、実感がないんです」

 試合後の取材にも、嫌な顔も涙を見せることもなく冷静に振り返りながら、悔しさを口にした。

「特に最後のセットは『自分に持ってきてほしい』と言いました。チームみんながそれに応えてくれて、集めてもらう中で自分が決めきれなかった。エースとしての役割を果たせず負けてしまったのは申し訳ないし、すごく悔しいです」

 接戦の末に勝利を逃した。しかも高校最後の大会が終わってしまった。悔しさが先行するのは当たり前で、自分へのふがいなさも込み上げる。だが、同じぐらい、尾藤は喜びも感じていた。

「春高の(京都)決勝で洛南と、伝統の一戦ができたのは初めてで、試合前も試合中もずっと高揚していました。応援席を見たら、本当にたくさんの人たちがいて、この3年間を振り返ればいろんな人たちに支えてもらって、勝つことで恩返ししたかったけど、それができないのはすごく悔しいです。だけど、それでも最後、『持ってきて』と言った1本を自分に持ってきてくれて、託してくれたのは嬉しかった。今は心残りしかないですけど、でもあの1本を持ってきてくれたことだけは、少し、自分にとっては喜びでもあって。今までは勝って来たから、勝つ側の立場しかわからなかったけど、ここで負けて、今まで洛南がどれだけ悔しかったかもよくわかりました。この負けから、これからの自分につなげていきたいです」

 世代を代表するエースの3年間が終わった。これからは、託された最後の1本を決められるエースになるための戦いが始まる。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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