週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

4シーム被打率「.714→.143」に劇的な改善 山本由伸の好投支える最年長捕手の老獪なリードに迫る

丹羽政善

山本由伸とオースティン・バーンズ 【Photo by Norm Hall/Getty Images】

.714→.143
 山本由伸(ドジャース)の真っすぐが打たれなくなってきた。左の数字は2試合で7失点(自責点6)した4月12日(対パドレス)と4月19日(対メッツ)の右打者に対する被打率。右は無失点だった4月25日(対ナショナルズ)と5月1日(対Dバックス)の被打率である。

4.68 vs. 0.00
 そしてこちらは、前者がウィル・スミスとバッテリーを組んだときの山本の防御率。後者はオースティン・バーンズが先発マスクを被ったときの山本の防御率だ。すでに紹介した被打率のデータとリンクしている。

 フレーミングやブロッキングのデータなどでは2人に極端な差がみられない。しかし、クレイトン・カーショウのパーソナルキャッチャーでもあるバーンズとスミスでは、配球が異なる。

 もちろん、まだサンプルが少なく、攻め方は相手チーム/打者によるので、一概にはこうだと断定できないが、スミスがマスクを被った4月12日、4月19日と、バーンズがスタメン出場した4月25日、5月1日の2試合ずつを比較すると、以下のような結果になった。

ウィル・スミスの配球(左図:対右打者、右図:対左打者)

【参照:Baseball Savant】

【参照:Baseball Savant】

オースティン・バーンズの配球(左図:対右打者、右図:対左打者)

【参照:Baseball Savant】

【参照:Baseball Savant】

 以上の図から、バーンズのほうが4シームを中心に組み立てていることが分かる。右打者にも左打者にも4シームの比率は40%を超え、スプリット、カーブはほぼ同じ比率。一方のスミスは、右打者には真っ直ぐとカーブが35%前後で、スプリットが約28%。左打者には4シームとスプリットが35%前後で、カーブが22%。

 これをカウント別に見ていくと、さらにその違いが分かる。

スミスとバーンズのカウント別配球(左図:スミス、右図:バーンズ)

【参照:Baseball Savant】

 2ストライクと追い込んだら、ともにスプリットを要求する比率が高くなる。ただ、スミスは0-1から50%以上の確率でスプリットのサインを出す。バーンズの場合、そこまで偏りはない。2-2でも似たような傾向だ。

 1-1でも組み立てが異なる。1-1の場合、2-1になるか1-2になるかで、その後の被打率に大きな違いがでる大事なカウントだが、そこでスミスはスプリットが45%程度。カーブが30%程度で、2球種で75%に達する。バーンズの方は3球種がほぼ同じバランス。カッターが少し加わる。

 スミスは山本のスプリットを信頼しているのか。あるいは、4シームを信頼していないのか。おそらく答えは後者。スミスがマスクを被った4月12日と4月19日、山本の4シームの被打率は.429。平均打球初速は97.8マイルで、ほとんどがハードヒットだった。

山本とウィル・スミス 【Photo by Harry How/Getty Images】

 4月19日のメッツ戦では、その傾向が顕著に出た。4シームの平均球速は95.3マイルで、それはシーズン平均と変わらなかったが、平均打球初速は99.6マイル。8スイングのうち、7球が前に飛んで4安打。打球初速は一番遅くても93.8マイル。5回と6回に合わせて24球を投げたが、真っ直ぐは1球だけ。もう、真っすぐのサインを出さなくなっていた。

「とはいえ、ある程度は投げなくては」と、この試合の解説をしていたオーレル・ハーシュハイザー。ドジャースに所属していた1988年に59イニング連続無失点を記録した彼に、2イニングで1球しか真っ直ぐを投げなかったことをどう思うか聞いたところ、最初は「ありえない」と信じなかった。データを見せると、「本当だなぁ」と首をひねった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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