九州王者・熊本国府の強さの秘密は指揮官のトラウマ? 神宮で全国レベルを経験し、満を持して初の甲子園へ

加来慶祐

秋の九州王者となり、初のセンバツ出場をほぼ確実とした熊本国府。手堅いゲーム運びの裏側には、指揮官の苦い経験がある 【写真は共同】

山田監督が甲子園で犯した拭い去れないミス

「じつは僕、やらかしているんですよ」

 と語るのは、2023年秋の九州大会を制し、来春のセンバツ出場を決定的なものにした熊本国府の山田祐揮監督だ。

 熊本工を卒業し、近大でもプレーした30歳の若き指揮官。高校2年時の2009年夏には、背番号17を付けて甲子園の大舞台も経験している。そんな山田監督が“やらかした”のは、三重と対戦した甲子園初戦のことである。

 1回表、熊本工は2点を先制した。この時サードコーチャーとして腕を全力で回しながら、ふたりの走者をホームに生還させたのが当時2年の山田監督だった。ところがその裏、レフトでスタメン出場していた先輩選手がミスを犯したことにより、山田監督は急遽レフトの守備に就くことになった。

 まさか初回から出場するとは思ってもみなかった。そのうえ、言い渡されたのが急すぎたため、キャッチボールもしないまま出ていってしまう。その直後、山田監督は目の前に転がってきた球脚の速いレフト前打をファンブルし、二塁ランナーの生還を許してしまったのだ。

「相手の応援が凄くて、音圧と歓声にやられてしまいました。初めて声で押されている感を味わいましたね。とくに僕がエラーをした直後が一番凄かったですけど(笑)」

 現役時代の山田監督はバッティングが好きで、守備練習はハッキリ言って大嫌いだった。内心“面倒臭ぇな”と思いながら、毎日ノックを受けていたのだという。そんな選手が、いきなり守備から試合に入ることになったのだ。しかもそこは甲子園で、相手のアルプススタンドとは目と鼻の先のレフトの守備位置だ。

「めちゃくちゃ緊張しました。当然ですよね。普段から真面目に練習していないのですから。“飛んでくるなよ”と祈りながら守っていましたが、やはり代わった選手のところに打球は飛んでくるものです。その後も、失点には繋がらないエラーをもうひとつ犯してしまい、試合中盤で交代を告げられました。途中出場のレフトがふたつのエラーを記録するなんて、あまりないことですよね。僕のファンブルのせいで3年生の夏を終わらせてしまったのですから、僕にとっての甲子園はいまだに“悔いを残した場所”でしかないのです」

「一球一球を大切に守る」ことを身上に

山田監督の信念をベースとした、徹底した守備力の強化が秋の九州大会での快進撃につながった 【写真は共同】

 山田監督は近大を卒業後、日南学園(宮崎)でコーチ・寮監を務め、在籍した4年間で夏2回、春1回の甲子園を経験した。その後、熊本国府に転籍し、21年秋に監督となった。その後も日南学園の金川豪一郎監督とは練習試合を盛んに行うなど交流が続き、数々のアドバイスも受けている。

 日南学園を春夏通算5度の甲子園に導いている金川監督に「指導の引き出しを増やしていただいた」と感謝する一方で、やはり現在の熊本国府は、山田監督自身が甲子園で味わった苦い経験がチーム作りの基となっている。

「準備することと、守備への意識。とくに守備に関しては徹底して指導しています」

 学校から車で片道40分と離れた場所にグラウンドがあるため、平日の全体練習は2時間ほどしか確保できない。しかし、山田監督はそのうちの約8割の時間を守備練習に割いているのだ。

「選手の中には“もういいよ”と思っている者がいるかもしれないし、守備が嫌いになった者もいるかもしれません。ただ、それぐらいやっておかないと、本番で“飛んでくるな”と思いながらミスをする選手になってしまうのです」

 秋の九州大会は4試合で失策は3。うちふたつが失点に絡んだが、それ以上に取れるアウトをきっちりひとつずつ積み重ねていく堅実さが目立った。準決勝で神村学園、決勝は明豊と、優勝候補と目された甲子園の常連校を立て続けに撃破。準決勝は変則左腕・植田凰暉(2年)が持ち味を発揮し9回までに16個のゴロを打たせて1失点で完投した。10安打を浴びながらも、27個のアウトを着実に取り切った。決勝も低めを丁寧に突く坂井理人(2年)の投球が、ショートの山田颯太(2年)を筆頭に野手陣のリズムを盛り立て、捕球・送球ともに安定した守備を引き出したのだった。

「一球一球を大切に守ることだけに集中しました。坂井が頑張っていたので、しっかり守ってやろうと思いました」と語ったのは、4番の中嶋真人(2年)だ。準々決勝(大分舞鶴戦)の7回に同点打、準決勝で逆転打など、打線のヒーローとなった中嶋のコメントに、九州王者・熊本国府の強さが集約されていると言っていいだろう。

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著者プロフィール

1976年大分県竹田市生まれ。東京での出版社勤務で雑誌編集などを経験した後、フリーランスライターとして独立。2006年から故郷の大分県竹田市に在住し、九州・沖縄を主なフィールドに取材・執筆を続けているスポーツライター。高校野球やドラフト関連を中心とするアマチュア野球、プロ野球を主分野としており、甲子園大会やWBC日本代表や各年代の侍ジャパン、国体、インターハイなどの取材経験がある。2016年に自著「先駆ける者〜九州・沖縄の高校野球 次代を担う8人の指導者〜」(日刊スポーツ出版社)を出版した。

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