九州王者・熊本国府の強さの秘密は指揮官のトラウマ? 神宮で全国レベルを経験し、満を持して初の甲子園へ

加来慶祐

15年越しのトラウマを払拭した先にあるもの

秋の九州大会決勝は坂井理人の低めを突く投球が、野手の好守を引き出した。 【写真は共同】

 初めて臨んだ明治神宮大会は、東京王者の関東一に2-6で敗れた。初回、無死二塁の場面でショートの山田がゴロの処理を誤ってしまう。その失策の後、無死1・3塁から次打者のショートゴロの間に先制点を許してしまった。

 山田監督は「慣れない人工芝特有の、低く球脚の強いゴロだった」とかばうが、結果的に「初回のミスは失点に絡むことが多い」という定説を実証するプレーとなってしまった。指揮官自身が現役時代に甲子園で犯した、あのプレーのように。

 しかし、山田監督が「それ以上に痛かった」と悔やんだのが、0-1の5回二死2塁から代打・堀江泰祈(2年)の適時三塁打で喫した2点目だった。

「あの回をゼロで凌げば、九州大会のような終盤勝負の展開に持ち込めたはずなんです。やはりすべてにおいて、全国大会はレベルが違いました」

 九州大会では「失点しても、次の1点を与えない野球」を実践し、頂点に立った。準決勝の神村学園戦は押し出しで1点を先制されながら、追加点を許さず9回1失点で快勝している。また、決勝の明豊戦も1点を返された最終回に後続をしっかり打ち取り、波状攻撃を得意とする相手の反撃を凌ぎきったのだった。

 関東一戦も初回にミスが絡んで失点した後、さらに走者を残して高校通算41本塁打の強打者・高橋徹平(2年)を打席に迎えている。一気に試合の流れを持っていかれてもおかしくない状況の中で、先発投手の坂井を中心に熊本国府はなんとか1点で乗り切った。それだけに「5回を0-1のまま折り返せていれば、九州大会と同じような展開に持っていけたはず」という山田監督の言葉に実感がこもる。

 とはいえ、実りの秋を終えた熊本国府に、学校初となる桜満開の春のセンバツが訪れるのはもう間違いない。安定した守備力で九州の頂点に立ち、神宮では全国レベルを肌で感じ取ることができた。この経験を糧にしたナインが勝利の校歌を甲子園に響かせる時、山田監督の「15年越しのトラウマ」も、ようやく払拭されることになる。

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著者プロフィール

1976年大分県竹田市生まれ。東京での出版社勤務で雑誌編集などを経験した後、フリーランスライターとして独立。2006年から故郷の大分県竹田市に在住し、九州・沖縄を主なフィールドに取材・執筆を続けているスポーツライター。高校野球やドラフト関連を中心とするアマチュア野球、プロ野球を主分野としており、甲子園大会やWBC日本代表や各年代の侍ジャパン、国体、インターハイなどの取材経験がある。2016年に自著「先駆ける者〜九州・沖縄の高校野球 次代を担う8人の指導者〜」(日刊スポーツ出版社)を出版した。

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