キーマンが語る町田のJ2制覇とJ1昇格 強化部・原FDが振り返る移籍戦略とチームマネジメントとは?

大島和人

原靖氏はFC町田ゼルビアのフットボールダイレクターとして今季から強化の陣頭指揮を執っている 【スポーツナビ】

 昨季のJ2は15位に沈んだFC町田ゼルビアが、2023シーズンのJ2を圧倒的な戦績で制した。選手が半分以上入れ替わり、社長と監督も交代したチームが1年で驚異的な成果を出した。サッカーはお金をかけても、才能ある選手を揃えても「それだけ」で勝てる競技ではない。監督だけ、選手だけが頑張っても組織として歯車が噛み合わなければチームは成功しない。町田は会社、強化部、そして現場が連動・連携したからこそ初のJ1昇格を果たすことができた。

 今回の全4回のインタビューシリーズでは町田のJ2制覇、J1昇格を振り返る。1回目は強化のトップだった原靖フットボールダイレクター(FD)に話を聞いている。55歳の原氏は大分トリニータ、清水エスパルス時代にJ1昇格を経験していて、ファジアーノ岡山も含めて過去に3クラブの強化責任者を経験していたこの道のスペシャリスト。町田に移った今季も補強戦略の構築や選手獲得で鮮やかな手腕を発揮した。今回はそんなプロフェッショナルが町田躍進の理由を存分に語っている。

黒田監督の就任をどう受け止めたか?

――原ダイレクターはファジアーノ岡山の強化部長を4シーズン担当して、ほぼリセットされた状態のFC町田ゼルビアに加わりました。

 町田の強化部にいる丸山(竜平)さんとか平本(一樹)くんはよく知っていたんです。話をいただいていて、藤田(晋)社長と直接お会いしたときには「1年で昇格を目指す」「J2でやっている事業的なメリットが薄いんです」と仰られていたことが印象に残っています。

――黒田さんとの接点は過去にあったんですか?

 私は2000年初頭……、確か2001年くらいから黒田さんを存じています。ちょうど大分トリニータのスカウトをやっていたときです。黒田さんもフェスティバルや練習試合で九州まで来られていました。毎回試合会場では会っていましたし、そこでご挨拶をして、年賀状でのご挨拶も毎年していました。

――プロ経験のない、高校サッカーの監督がJに来るのは異例です。私も何人かから「大丈夫?」と心配されました。

 まず黒田さんのやり方、考え方は高校サッカーを見ていて分かっていました。自分は形がどうであっても、チームを良い方向に向かわせる仕事にやりがいを感じます。

「大丈夫?」という話は聞かなかったですけど、巷では言われていたみたいですね。どちらかといえば私は楽観的で、今まで市立船橋の布(啓一郎)先生もいましたけど、吉武先生という方がいてよく知っていましたし。(※吉武博文氏:大分の中学教員、大分トリニータのアカデミーを経て、U-17日本代表の監督や東京ヴェルディのコーチを歴任しているベテラン指導者)

――原さんと吉武先生は大分つながりですね。

 一緒にやっています。大分トリニータのアカデミーで一緒に監督やコーチをしている関係もありました。コーチの個性からも、その方の理論ややり方はあまり変わらないであろうし、変えるべきものでもないと思っています。(黒田監督が高校サッカー出身だからといって)あまり変わったことはやらないだろうという感覚もありました。

補強のポイントは「性格」と「若手」

――今季の町田は開幕前に19名を新たに獲得して、シーズン中にも4名が来ました。クセがない、素直でしっかりしたタイプが多いな……というのが素直な印象です。性格面を重視されていたのではないですか?

 事実ですね。黒田さんも非常に重視していました。私も学生時代にキャプテンとか副キャプテンだとか、組織をまとめたことのある、組織でどう振る舞うべきなのかをわきまえている選手を中心にピックアップしたことは間違いないです。丸山さんとか、強化部みんなで調べました。

――今季の新加入は大卒2年目の荒木駿太、沼田駿也など「第2新卒」的な若手が目立ちました。そこは「育てながら勝つ」意図ですか?

 それもありました。あと近年のJ2の傾向と、黒田さんの目指しているサッカーを踏まえると、若くて走れる選手が必要だろうなと考えていました。特にベテランが少し落ちてくるシーズン後半はそういう傾向が近年ありますね、今季のエスパルスみたいなJ1から落ちてすぐのチームは、選手もそのまま抱えてきています。他にも外国籍選手が当たるかとか、いくつか要素はありますけど、若手のウエイトが大きくなってきています。

超高速補強の背景に準備あり

アデミウソン(右)の加入発表はエリキ負傷の17日後だった 【(C)J.LEAGUE】

――開幕後の補強は「スピード感」が印象的でした。高澤優也が開幕直後に負傷すると藤尾翔太をすぐ獲得して、エリキの離脱後はすぐアデミウソンが来ました。舞台裏はどうだったんですか。

 藤田社長や上田(武蔵)COOと「今チーム内はどういう状況で、黒田さんはどういうことを求めている」と共有しているんです。自分としては得意分野で「この選手が怪我したら、この選手が空いている」「どこに誰がいて、どのぐらいの値段で、試合に出られているかいないか」という情報は、60チームまでとは言わないけど、頭に入っています。各クラブの状況があって、エージェント(代理人)の方もいらっしゃいますけど、そういう情報は日常的にアップデートしています。もちろん黒田さんとも、連絡を密にしていました。丸山さんだとか平本くんも情報をストックしていて、すぐ動けました。スピード感は確かに……いつもよりは急いだ感じがありましたね。

――エリキ負傷後のアデミウソン選手加入は、外国籍選手なので就労ビザの取得も必要な中で、凄まじいスピード感でした。

 そうですね。相手のクラブがあって、エージェントがいて、もちろん本人の意志もある中で、三者が合意しないと決まりません。とんでもないスピードでやらないと、登録期限は間に合いませんでした。

「出ていない選手」の獲得と生かし方

――個人的には鈴木準弥の獲得が印象的で、プレスキックやロングスローからセットプレーのキーマンにもなっていました。

 サイドバックの補強は黒田さんや(ヘッドコーチの金)明輝くんから言われていました。マサ(奥山政幸)くんは守備が強いし、翁長(聖)くんもいい選手で両サイドできるけど、「出口でパスをつなげる選手が欲しい」というリクエストがありました。実は(鈴木)準弥は自分が清水エスパルスにいたときに、ユースにいてトップの練習にも呼んでいたんです。でも当時はセンターバックで、身長が足りずに大学へ行かせたんですよ。

 そんな縁もあったんですが、オフにハンジェくん(李漢宰/強化部強化担当)が選手会主催のイベントか何かで彼と一緒になって、私に「出られてないらしいです」という情報が不意打ち的に入りました。そこからしばらく経っていたんですけど、「ハンジェくん、見に行こうか」となってトレーニングマッチを見に行ったんです。右サイドにもう少し攻撃的な選手がほしいというリクエストもあったし、FC東京さんと少し交渉があったんですけど獲得できました。

――期限付き移籍で町田に加わった選手が総じて戦力になりました。

 荒木くんは全試合に絡みましたし、藤尾くんや藤原(優大)くん、松井蓮之くんもそうですけど、「試合に出ればある程度はいく」いう感覚を持てるかどうかですね。だから、所属クラブで出ていない選手を町田に連れてくるわけですから。藤尾くんの場合はちょっと時間がかかりましたよね。

――フィットしたのは7月に入ったくらいからでした。

 機会を与えれば伸びると思える選手に機会を与えて、「4週くらいでフィットしてくれれば良いな」というようなことも考えますね。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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