キーマンが語る町田のJ2制覇とJ1昇格 強化部・原FDが振り返る移籍戦略とチームマネジメントとは?

大島和人

予算は2倍近くに

エリキ(左)とデューク(右)の獲得は大きな投資だった 【(C)J.LEAGUE】

――どれだけ情報があっても、当然ながら資金がないとアデミウソンのような選手は獲得できません。予算は「かなり増えたんだろうな」と推測していました。

 最初に19人を変えた時点で、(2022年の)2倍までは行っていないのかな。でも2倍近くは使っていますね。

――特にエリキとミッチェル・デュークは「超J2級」の大物でした。

 まあ、それでガーンと行きますよね。今年すぐ昇格するなら、それくらい必要だろうという判断がありました。どのチームでもオーナーとか、社長から与えられた命題がありますけど、町田は「昇格」「短期間」という目標がありましたから。

 最近J1に上がっているのは、まずJ1から落ちてきた重厚長大型のチームと、もう一方は若手が最後まで走りきるチームです。ただストライカーはもう絶対に必要だなと思いました。

――ストライカーにはしっかり予算をかけつつ、走れる若手もいるハイブリッド型ですね。

 はい、両方獲りました。思ったほどお金を使っているかというと、エリキとデュークにしか使ってないって言ったらおかしいですけど、それに近い感じです。

クラブと選手の双方に必要な「いい別れ」

――獲得も大事ですけど、選手がどんどん増えすぎると練習の効率が落ちるし、出番のない選手が増えて関係性も難しくなります。

 シーズン前に60人くらいのリストを用意して、丸山さんと平本くんに「とにかく当たってくれ」と当たらせたんです。「A契約の枠は25人しかないけど、選手が50人とかになったらどうするのか?」みたいな議論もありました。「来ないから。40人になってもどうにかするから」というやり取りがあって(苦笑)

 現場からは「28〜30名がベスト」と言われます。40人〜45人抱えて、10人くらいレンタルを出しているクラブが多いですけど、試合に出ないとその選手の価値が下がる問題があります。ウチの大事な選手だし、レンタル先でプレーしたらウチに戻る可能性もあるけど、今のままプレーしなかったら別れを告げて下のカテゴリーへ行くことになるかもしれない……。そういう話も選手としていました。

 選手がサブにも入れない状況を避けたいと常に言っていましたね。J3の試合に出れば、スポナビの速報に名前が出て「あの人、何をしているんだろうな」とはならないじゃないですか。

――新たな行き先は、本人・代理人の動きもあると思いますけど、原さんが探すケースもあったわけですよね?

 その方が多いと思います。

――選手のためにもなるし、きちんとアフターケアをすれば代理人サイドからの信頼にもつながりますね。

 それはあると思います。あと昇格したときも (高橋)祥平くんや深津くん、(髙江)麗央にはLINEを送りました。黒川(淳史)にも送りました。途中で出て行ったけど、昇格は彼らのおかげもある。そういうことをやりながら、「おかげさまで」という感じですね。

J1は「甘くない」

原FDはクラブを去る選手に対するケアも欠かさない 【スポーツナビ】

――黒田監督は会社、強化部に対してきっちり要求もする方だと思いますけど、そういう圧はありませんでしたか?

 外国人監督に比べれば、そんなことはないですね。(清水の)ゴトビさんもそうだし、(ペリクレス・)シャムスカもそうだし、彼らの要求はすごかったです。理不尽なものもありました。黒田さんの場合は「何とかしてあげないといけないな」という要求でした(笑)

――熊本戦で昇格が決まった後に藤田社長が「週明けに黒田さん、原さんと来季のことを話す」とコメントされていました。どういう話をしたのか、言える範囲で教えてもらえますか?

 選手の入れ替わりを見ても、町田はシーズン中からアップデートしていたチームです。さらにアップデートしていこうと考えているのは事実です。三者で話したのはまず「J1、甘くないよね」ということです。ずいぶんとやらなければいけないことがあるという認識です。

 今年はダントツでしたけど、このままだとJ1では恐らく大苦戦になる。でもプレーするからには負けて良い試合などないよね……と。

――藤田社長は「もう魔境J2には戻らない」と仰っていました。

 J2も厳しいですけど、とはいえJ1とJ2は大きく違うので、気合を入れないといけないなという認識です。来季のJ1は自動降格で3チーム落ちますし。20分の3と言ったら、結構な割合ですよね。「残留」という話はしていないですけど、J1で安定して戦っていくためにはずいぶんなことをやらないといけない……という認識でした。

――「安定」もかなり高いハードルです。

 湘南さんとか、鳥栖さんとか、そういうところは賢く残るじゃないですか。人件費は例えば10億くらいでやって残った実績がクラブの文化として根付いている。いきなり「若手育成主体で、このくらいの予算でやってください」というのは無理だと思います。アカデミーからすぐ選手が上がってくる、代表選手が出てくるような土壌があれば、そういうチーム作りもできるけど……。

難題は「ホームグロウン選手」の不足

――期限付き移籍の選手の去就はまだ言えないタイミングだと思いますけど、宇野禅斗選手のような有望な若手を育てることはプランとしてあると思います。

 もちろん。ここでプレーして伸びている選手に関しては継続しつつ、それ以外の部分はずいぶんアップデートしていこうと思っています、(宇野)禅斗くんとか、沼田くんとか、何人か(試合に絡んでいる若手が)いますよね。

――サポーターの心配に「ホームグロウン選手」の問題があります。登録人数が定められた人数以下だと、A契約の選手が減らされてしまいます。

 J1は(ホームグロウン選手の登録が)4人以上なので……。そこもアカデミーのことが直結してきますね。外部から獲ってきた場合は、3年所属しないとホームグロウンになりません。そして届かない人数分だけ登録人数が減ります。対象は樋口(堅)くん、三鬼(海)くん、青木(義孝)くん、奈良坂(巧)くんでしょうか。三鬼くん以外は他チームで出ている選手だけど、そういう人材を戻して対応せざるを得ないかもしれない。アカデミーから上げて登録すれば済む話ですけど、その対象がなかなかいなくて少し困っています。そこも藤田社長や黒田監督との話には上がりました。

――ウルトラCがあるわけでなく、与えられた条件の中でやるしかない話ですね。

 はい、そういう感じです。

――最後に2024シーズンの抱負をお願いします。

 やはりJ1は楽しみというのと、チャレンジャー精神で行けることは、すごいアドバンテージだと思っています。皆さんがJ1を楽しめるように、シーズンオフしっかり働いてまいります。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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