「日替わりヒーロー」でJ1昇格を決めた町田 藤田晋社長が“経営者目線”で称賛する黒田監督の手腕とは?

大島和人

黒田剛監督は青森山田高校で28年監督を務めたが、Jでは「新米」だった 【(C)J.LEAGUE】

 FC町田ゼルビアは10月22日、ロアッソ熊本を3-0で下してJ2の2位以上、つまりJ1昇格を決めた。3試合を残した現時点の戦績は23勝9分け7敗で勝ち点78。過去の昇格チームに比べてもかなりのハイペースで勝ち点を重ね、クラブ初のJ1入りを叶えた。1993年のJリーグ誕生時は「東京都リーグ3部」にいたクラブが紆余曲折を経て、日本サッカーの最上層にたどり着いた。

 町田は2018年秋に大手IT企業サイバーエージェントの傘下に入って経営力が強化され、21年には町田GIONスタジアムの改修が完了。22年には2面の天然芝ピッチとクラブハウスが完備した「三輪緑山ベース」も完成していた。今季はグループの総帥である藤田晋氏がクラブの社長を兼務する体制となり、さらに黒田剛新監督が就任。ブラジル人ストライカー・エリキ、オーストラリア代表FWデュークといった超J2級の補強もあり、15位からの歴史的な飛躍を成し遂げた。

「定着や安定がチームの成長を妨げる」

 熊本戦は日替わりヒーローという「黒田ゼルビアらしさ」が出た試合だった。今季の町田は特に夏場を過ぎてから、試合ごとに大きく違うシステムや試合運びを見せている。8日のヴァンフォーレ甲府戦は[3-1-4-2]で、14日のブラウブリッツ秋田戦は[3-5-1-1]だった布陣が、熊本戦は[4-4-2]に変わっていた。町田は甲府戦で5試合ぶり先発のMF宇野禅斗が2得点を挙げ、秋田戦も先発を8名入れ替えて勝ち点3を得ている。この熊本戦は9月9日の栃木SC戦から5試合続けてメンバー外で、6試合ぶりの出場だった高橋大悟がFWで先発し、得点も決めて快勝の立役者になった。

 エリキは8月の清水エスパルス戦で今季絶望の重傷を負っている。デュークもオーストラリア代表の遠征から戻ったばかりで、熊本戦の先発には入っていなかった。しかし今季の町田は「出番に恵まれていなかった選手」が次々に結果を出している。

 黒田監督は熊本戦後の会見でこう説明していた。

「1年間を通じて、定着や安定がチームの成長を妨げると自覚し、常に競争意識を持たせてやってきました。もちろん(出番のない選手は)くすぶっていた時期もあると思うんですけど、(遠征に参加せず)残っているメンバーを見ているコーチ陣から彼らがどういう取り組みをしていたか、常に情報を入れていました。相手のスタイルによって、それに合った特徴のある選手を起用する。そうすると彼らがしっかりと応えてくれて、それが町田のいい循環につながりました」

メンバー外の選手が励まし合う

高橋大悟(左)が6試合ぶりの先発で活躍を見せた 【(C)FCMZ】

 熊本は最終ラインから丁寧にビルドアップするスタイルで、守備目線で見ると前線からのチェイシングやパスコースの限定が重要になる。ただ攻撃では中央のエリアで前向きにボールを持てるスペースが空きやすい傾向もあった。高橋は164センチの技巧派で、ボールが頭上を飛び交う試合では活きない。しかし地上戦が見込まれた熊本戦で、彼はチョイスされた。

 高橋はこう口にする。

「この1年間、僕個人としてはすごく苦しいシーズンでしたけど、メンバーに入ってないとき、そこにいる選手たちが手を抜かず、腐らずにやっているのを見ていました。何度も折れそうになったところで、(仲間が)また頑張ろうと感じさせてくれた。傷のなめ合いでなく、お互いが高いレベルで刺激し合えたので、今があるのかなと思います」

 52分に生まれた町田の2点目は右サイドから平河悠、バスケス・バイロンがつないで、ゴール正面から高橋が力強く叩き込んだ。

「自分で取ったというより、苦しい思いをしてきた仲間が押し込んでくれたのかなと思います。今までならオシャレに打っているところですけど、気持ち込めてあんなに強いシュートを打つなんて、自分でも思っていなかった。気持ちと、みんなのおかげ……もうそれだけです」(高橋)

「選手みんなが真面目」

 奥山政幸は30歳で、2017年に町田へ加入して7シーズン目。チームが硬い人工芝で練習し、公共施設の狭いシャワーで汗を流し、練習後は一般客とともに「木曽食堂」で食事をしていた時代を知っている。今季は選手も含めて大きな変化があり、自らも先発を外れる時期がある中、実直なキャプテンとしてチームを支えてきた。

 彼は今季の町田をこう評する。

「本当に選手みんなが真面目です。J2優勝・J1昇格の目標に向かって、どんな立場でも頑張れる選手が揃っていました。試合に出ているメンバーは出ていない選手の思いも背負ってプレーし、逆に出られない選手は絶対出てやるという思いを練習からぶつけてくれた。その相乗効果で、チームが徐々に大きくなっていったからこその、J1昇格です」

 今季の町田のように試合ごとに戦い方、人選を大胆に変える手法にはリスクもある。しかし黒田監督とコーチ陣は目先の結果を確保し、チームの『原理原則』は保ちつつ、少しずつ戦術的な引き出しを増やしていった。さらに選手のモチベーションが落ちないように仕向け、ラージグループから脱落する選手を出さなかった。使える『駒』の枚数を維持し、後半戦に入ると「プランB」「プランC」を成功させた。そこは分かりやすいマネジメントの成功だ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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