「日替わりヒーロー」でJ1昇格を決めた町田 藤田晋社長が“経営者目線”で称賛する黒田監督の手腕とは?
黒田剛監督は青森山田高校で28年監督を務めたが、Jでは「新米」だった 【(C)J.LEAGUE】
町田は2018年秋に大手IT企業サイバーエージェントの傘下に入って経営力が強化され、21年には町田GIONスタジアムの改修が完了。22年には2面の天然芝ピッチとクラブハウスが完備した「三輪緑山ベース」も完成していた。今季はグループの総帥である藤田晋氏がクラブの社長を兼務する体制となり、さらに黒田剛新監督が就任。ブラジル人ストライカー・エリキ、オーストラリア代表FWデュークといった超J2級の補強もあり、15位からの歴史的な飛躍を成し遂げた。
「定着や安定がチームの成長を妨げる」
エリキは8月の清水エスパルス戦で今季絶望の重傷を負っている。デュークもオーストラリア代表の遠征から戻ったばかりで、熊本戦の先発には入っていなかった。しかし今季の町田は「出番に恵まれていなかった選手」が次々に結果を出している。
黒田監督は熊本戦後の会見でこう説明していた。
「1年間を通じて、定着や安定がチームの成長を妨げると自覚し、常に競争意識を持たせてやってきました。もちろん(出番のない選手は)くすぶっていた時期もあると思うんですけど、(遠征に参加せず)残っているメンバーを見ているコーチ陣から彼らがどういう取り組みをしていたか、常に情報を入れていました。相手のスタイルによって、それに合った特徴のある選手を起用する。そうすると彼らがしっかりと応えてくれて、それが町田のいい循環につながりました」
メンバー外の選手が励まし合う
高橋大悟(左)が6試合ぶりの先発で活躍を見せた 【(C)FCMZ】
高橋はこう口にする。
「この1年間、僕個人としてはすごく苦しいシーズンでしたけど、メンバーに入ってないとき、そこにいる選手たちが手を抜かず、腐らずにやっているのを見ていました。何度も折れそうになったところで、(仲間が)また頑張ろうと感じさせてくれた。傷のなめ合いでなく、お互いが高いレベルで刺激し合えたので、今があるのかなと思います」
52分に生まれた町田の2点目は右サイドから平河悠、バスケス・バイロンがつないで、ゴール正面から高橋が力強く叩き込んだ。
「自分で取ったというより、苦しい思いをしてきた仲間が押し込んでくれたのかなと思います。今までならオシャレに打っているところですけど、気持ち込めてあんなに強いシュートを打つなんて、自分でも思っていなかった。気持ちと、みんなのおかげ……もうそれだけです」(高橋)
「選手みんなが真面目」
彼は今季の町田をこう評する。
「本当に選手みんなが真面目です。J2優勝・J1昇格の目標に向かって、どんな立場でも頑張れる選手が揃っていました。試合に出ているメンバーは出ていない選手の思いも背負ってプレーし、逆に出られない選手は絶対出てやるという思いを練習からぶつけてくれた。その相乗効果で、チームが徐々に大きくなっていったからこその、J1昇格です」
今季の町田のように試合ごとに戦い方、人選を大胆に変える手法にはリスクもある。しかし黒田監督とコーチ陣は目先の結果を確保し、チームの『原理原則』は保ちつつ、少しずつ戦術的な引き出しを増やしていった。さらに選手のモチベーションが落ちないように仕向け、ラージグループから脱落する選手を出さなかった。使える『駒』の枚数を維持し、後半戦に入ると「プランB」「プランC」を成功させた。そこは分かりやすいマネジメントの成功だ。