「MVP級」の活躍だった豪代表FWデューク ハードな日程でもタフにプレーし、J2町田の窮地を救う

大島和人

デューク(中央)は12日の仙台戦で今季10点目を決めてシーズンを締めた 【(C)FCMZ】

 2023年のJ2は、FC町田ゼルビアの優勝で幕を閉じた。黒田剛監督は選手を固定せず戦う指揮官で、シーズン中の補強選手も含めて先発を頻繁に入れ替えていた。荒木駿太はチーム唯一の全42試合出場選手だが、先発は16試合のみにとどまっている。

 替えの効かない「柱」があるとするなら、それはミッチェル・デュークとエリキの外国籍FWコンビだった。

J2制覇の立役者に

 町田の新加入選手は若手が多く、クラブとして「育てながら勝つ」戦略も持っていた。ただJ1昇格を至上命題とする中で、結果に直結するFWは強力な即戦力を揃えた。デュークはオーストラリア代表のエース格で、2022年のワールドカップ(W杯)カタール大会ではチュニジアからゴールも決めている。エリキもブラジル年代別代表歴を持ち、横浜F・マリノス時代にJ1制覇に貢献している大物。デュークとエリキは皆の期待に応えて、J2制覇の立役者になった。

 エリキは期待に応えて、出場30試合で18得点を記録している。ただ8月19日の第31節・清水エスパルス戦で、左膝に全治8カ月の重傷を負ってしまった。屈強で周りを生かせるデューク、俊敏でフィニッシュの質が高いエリキは相性も抜群だったが、そんな最大の攻め手がチームから失われてしまった。

 しかし町田はこの窮地で踏みとどまった。一時的な減速はあったものの、11月12日のベガルタ仙台戦を3-1で制し、5連勝でシーズンを締めた。42試合で積み上げた勝ち点は87で、2位・ジュビロ磐田と12差。『魔境』とも称される近年の混戦J2では珍しい独走優勝だった。

泥臭く、真面目で、ひたむき

プレーへの姿勢で監督や仲間に感銘を与えていた 【(C)FCMZ】

 デュークは仙台戦の55分に町田の2点目、彼にとって今季の10点目を決めた。清水エスパルス、ファジアーノ岡山も含めて来日7シーズン目だが、初の二桁得点だった。

 黒田監督は仙台戦後の会見で、デュークの貢献をこう称えている。

「得点をそんなに取るより、チェイシングで相手に圧力をかけて、チャンスメイクをするタイプというデータがありました。ただやはり、エリキがいなくなってから、個人としての責任感からか、『俺が引っ張っていく』という姿勢が出ました。ゲームキャプテンをやらせたこともあったんですけど、いい言葉を選手たちに投げかけていました。今日も運動量を落とさず、しっかりと帰陣してまたプレスをかけたり、やるべきことを徹底してやってくれて、こういった展開にもなった。すごくチームに大きな貢献をした選手だと改めて思います」

 2点目の起点となるパスをデュークに送った太田宏介もこう述べる。

「あれだけ泥臭く真面目に、ひたむきにやってくれる外国人選手はなかなかいません。(デュークの貢献は)10点以上の価値があると思います」

チームを助けつつ決めた10得点

 二人が口にするように、デュークの真価は『献身性』にあった。186センチ・84キロの体格はアドバンテージだが、そこにプラスして攻守で勤勉に走り、ハイボールが来れば高く跳び、相手を背負えば身体を張るハードワークを見せてくれる。

 32歳の今はヘディングシュートを最大の強みとしている彼だが、プロの試合で頭のゴールを初めて決めたのはAリーグWSWでプレーしていた27歳。清水時代はサイドハーフとして起用されていて、89試合で3得点しか挙げていない。良くも悪くも『生粋の点取り屋』というタイプではない。

 仙台戦の2点目はデュークがこぼれ球を叩き込む形だったが、その直前に太田宏介のパスを受けたデュークが左サイドにヒールで落とし、さらにゴール前へ動き直すお膳立てをしていた。デュークは直接ゴールに絡むだけでなくその1つ前、2つ前、3つ前のプレーに絡めるタイプだ。

 最終戦を終えたデュークは、満足そうな表情でこう口にしていた。

「最終戦を勝利で終えられて本当に良かった。しっかり走って、空中戦で勝って、仲間をしっかりサポートできたことが一番良かった。もちろん得点ができたことも良かったです」

 シーズン全体のパフォーマンスについてはこう述べる。

「開幕前の目標が10得点10アシストでした。実際は10得点6アシストで、アシストは届きませんでしたが、ほぼ目標通りの数字を残せて嬉しいです。1年間チームにしっかり貢献ができたと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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