最高のストーリーで現役生活18年が完結 町田のJ2優勝が懸かるホーム最終戦を前に、太田宏介が思うこと

大島和人

太田が所属する町田は22日の熊本戦でJ1昇格を決めている 【(C)J.LEAGUE】

 町田から世界に羽ばたいた偉大なサッカー選手が町田に戻り、J1昇格と共にキャリアを終える。現在36歳の太田宏介はFC町田ジュニアユース出身。麻布大学附属渕野辺高(現・麻布大学附属高校)を経て2006年に横浜FCに加入し、合計3カ国・7クラブで18シーズンに及ぶ選手生活を送ってきた。2007年にはU-20日本代表の世界大会8強入りに貢献し、日本代表としても国際Aマッチに7試合出場している。

 太田は2022年の夏にFC町田ゼルビアへ加入。直近では10月14日のブラウブリッツ秋田戦、22日のロアッソ熊本戦では左サイドバックとして先発で起用され、連勝にも貢献している。まだその実力は健在だが、10月3日に今季限りでの引退を表明していた。

 町田は熊本戦でJ1昇格を決め、29日にはホーム町田GIONスタジアムでJ2優勝の懸かるツエーゲン金沢戦を控えている。今回はそんなタイミングで太田選手がインタビューに応じ、自らのキャリアと町田への思い、期待を存分に語ってくれている。

チームを引っ張った「姿勢」と声掛け

7月1日の大宮戦は交代出場で逆転勝利に貢献した 【(C)J.LEAGUE】

――直近の2試合は先発で出場していますし、まだ「お疲れ様」は早いと思いますが、現役生活を振り返って印象深い試合、シーズンはいつでしたか?

太田 試合は結構ありますけど、シーズンとしては2015年のFC東京ですね。(オランダのフィテッセに)海外移籍する前年で、心技体が揃って、すごくいいシーズンを送れました。チームの結果(4位)もいいですし、個人的に13アシストを記録できました。僕のプレースタイルがチームの戦術にもフィットして、クロスを上げれば点が入るような、すべてが上手くいったシーズンでした。

 ゲームを一つ挙げるとすると……。今は町田にいるので、この間の秋田戦(10月14日/1○0)や熊本戦(10月22日/3○0)も嬉しかったですけど、7月の大宮戦(7月1日/3○2)ですね。1-2で負けている状況で(アディショナルタイムを含めて)ラスト20分から出番があって、そこから町田が2点を取って逆転できた。野津田の雰囲気も含めて、印象に残っています。今思えばゼルビアにとってもかなり大きな勝ち点3でした。

――今シーズンは要所で活躍されたとはいえ、なかなか試合に出られず、ベンチにさえ入れない時期もありました。太田選手として、そのような状況をどう受け止めていましたか?

太田 いや、それを理解した上でチームにも入っていました。プレーヤーとしてのピークはとっくに過ぎたと、自分が一番分かっているつもりです。ただその中で、いかにチームに貢献できるかを追求していました。

 もちろんピッチ上で(実力を)示したい思いが一番強いですよ。だけど試合に出られなくても、とにかくひたむきに、謙虚に、不満やネガティブな空気を出さず、若手を引っ張る姿勢も持っていなければいけない。そう考えて、去年の途中から過ごしていました。だから、試合へ絡めないことに対しての不満はなかったです。それにチームも勝ち続けて、特に左サイドで出ている翁長(聖)や奥山(政幸)は、本当に年間通して安定したパフォーマンス見せていましたから。本当にいい選手が揃っているな……という感覚でした。

――試合と別に、後輩の選手から「宏介さんの声掛けで助かった」というコメントを何度か聞きました。

太田 直近なら(9月17日の)藤枝戦の前が印象深いですね。ウオーミングアップが始まる前の、みんなで集まっているときに自分から話をさせてもらいました。あのときはなかなか結果が出ず、群馬に引き分けて栃木に負けて、勝ち点3が欲しい状況でした。でも昇格のプレッシャーも感じながら、若い選手に何か自信のなさそうな感触があったんです。

「首位でいられて、追われている状況、立場をとにかく楽しんでほしい。こうやってJ2でシーズンを送っている中でも、そういう経験できるのって僕たち首位の町田しかいない。まだまだ勝ち点差的に優位なのは間違いないから、一旦リラックスして、(自分たちの戦いを)見つめ直そう。これまで結果が出なかったことにフォーカスするのでなく、ここからチームとして再び上がっていくためのいいイメージを持とう」と。そんな話をさせてもらいました。

太田が見る「今季の町田」とは?

秋田戦、熊本戦はいずれも太田がゲームキャプテンを任された 【(C)J.LEAGUE】

――今シーズンの町田は、昨シーズンから選手もコーチも大幅に入れ替わりました。最大の変化はやはり監督だと思います。太田選手から見て「黒田監督が来てここが一番変わった」というポイントはなんですか?

太田 団結、結束ですね。監督はもう始動日から常に言い続けていました。優勝・昇格という目標を持つ中で、試合に出られる選手、出られない選手が出てくると思うけれど、とにかく自分がいつ出てもいいような準備をすることについては口酸っぱく言っていました。

――とはいえ他クラブより選手数も多いですし、かなり難しいことですよね?

太田 難しいです。口で「まとまろう」と言いつつ、なかなかまとまれないチームも自分は経験してきました。今年は色んな不満やストレスを抱えている選手はおそらくいますけど、結果が出続けているので、そういう選手も「もっと自分がやらなきゃ出られないぞ」となる。結果としてどの選手も高い意識でやれているのはすごく大きいです。

――黒田監督は先発、ベンチのメンバーを細かく入れ替えるタイプの監督です。太田選手の秋田戦先発も、私たちから見ればサプライズでした。

太田 緊張感はありますよ。控え選手も「チャンスが来るかもしれない」と思いながらトレーニングをしています。逆に先発組に入っていても、試合前日に変わることがこれまでたくさんありました。

 遠征メンバーがアウェイにいっている試合当日の練習って、フォーカスされないじゃないですか?ここ(三輪緑山ベース)で朝早くからやるんですけど、試合に出ている選手と同じくらい負荷を、しかも数人でやるから本当にキツいんです。でも「今我慢だぞ」「絶対チャンスが来る」と、若い選手とめっちゃ声をかけまくっています。

――それは素晴らしいことだし、チーム全体を活気づけますね。

太田 自分は今までクセのある選手、不満やネガティブを言葉や姿勢に出す選手も見てきています。それはチームのプラスにならないし、出ていない選手が固まって不満を言うグループになってしまうこともある。だけど町田は出られない選手がみんなで声を掛け合って、励まし合ってやれている。それが今年の長所だと思います。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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