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三笘の勝てない悔しさ、“違和感”を申し出た冨安の勇気 週末のプレミアリーグを観て思ったこと

森昌利

浮かない表情の三笘(左)。チームは降格圏に沈むシェフィールド・U相手にリードを守り切れず。一方、欠場が予想された冨安(右)はバーンリー戦に元気に先発出場して3-1の勝利に貢献した 【写真:REX/アフロ / Photo by David Price/Arsenal FC via Getty Images】

 11月12日、代表ウイークを前に行われたシェフィールド・ユナイテッド戦で、プレミアではここ5試合勝っていないブライトンはまたしても勝ち点3を逃した。1点リードの後半頭から出場した三笘薫は、ゴールを目指して躍動感あふれるプレーを見せたが……。その前日、ホームにバーンリーを迎えたアーセナルは3-1で勝利。3日前のチャンピオンズリーグでコンディション不良により前半でピッチを去った冨安健洋だが、不安を全く感じさせないプレーで90分間フル出場した。

三笘がピッチ脇に現れると盛大なチャントが

 タッタラタラタッタ、タッタラタラタッ、タラララーラ、タラララーラ、タッラタタッタタ、ミト~マ!!

 文字にするとちょっと何だかわからなくなるが、三笘薫のチャントを無理やり書き表してみた。

 1958年にアメリカでリリースされたヒット曲『テキーラ』の節に乗って、このチャントがブライトンの本拠地“ファルマー・スタジアム”に響き渡ると、スタジアム内になんとも言えない多幸感が漂う。元々お茶目でひょうきん、かつ陽気なラテンの曲で、そのメロディを聴くだけでウキウキとした気分になる。その曲のブレーク部分で『テキーラ!』と叫ぶ箇所に『ミトーマ!』と当てはめて叫ぶ。サポーターたちは「タッタラタラタッタ」と歌い出した時から、『ミトーマ!』と叫ぶのが待ちきれないという様子で、この名前を呼ぶ箇所にたどり着いた時の到達感がすごい。

 11月12日、ホームで行われたシェフィールド・ユナイテッド戦。三笘は今季の公式戦で2度目の先発落ちとなり、ベンチからキックオフを眺めていた。相手は今季のプレミア昇格組で、ここまで11戦1勝1分9敗の勝ち点4で19位の、降格圏にどっぷりと沈んだチーム。そこでロベルト・デ・ゼルビ監督は、この試合の3日前にオランダに乗り込んで2-0の勝利を収めたアヤックスとのヨーロッパリーグでフル出場したエースの三笘に、前半の45分間、しばしの休息を与える決断をした。

 そして前半35分、ウォームアップのためにピッチ脇に登場した三笘の姿を見つけたサポーターたちは、“今日は35分間も歌えなかったぞ”とでもいうように、このチャントを盛大に歌い出した。

 不振のシェフィールド・Uを相手に三笘の代役で出場した21歳コートジボワール代表FWのシモン・アディングラが、前半6分の早い時間帯に日本代表MF顔負けの素早い切り返しのトリッキーなドリブルで左サイドから中央に切り込み、ブオナノッテとのワンツーを決めると、最終ラインの裏に抜け出し、GKとの1対1に持ち込んで右足を振って、ブライトンが先制していた。その後もホームチームが完全に主導権を握る危なげない展開だったこともあるが、サポーターが試合そっちのけで三笘のチャントを大声で歌い始めたのである。

 途中出場の準備を始めた日本人選手に対し、サポーターがここまでの関心と敬意を示した光景は、2015-16シーズンの奇跡の優勝の立役者となった岡崎慎司のレスター最終戦、2019年5月12日のチェルシー戦以来か。4年間、本拠地として慣れ親しんだキングパワー・スタジアムのピッチ脇に岡崎が前半34分にウォームアップのためにベンチから飛び出すと、スタンドを埋めたサポーターが全員立ち上がって、どんな試合でも全力を尽くした小さな日本人FWのためにスタンディング・オベーションをした。その時に岡崎が「なんだこれはっ!?」というふうに後ずさりして、たじろいだのを覚えている。

試合後の三笘は硬く厳しい表情で…

サポーターの大声援を背に後半頭からピッチに入った三笘(右)は、チームに追加点をもたらそうと果敢に仕掛け、シュートを打った 【写真:REX/アフロ】

 もちろんブライトン・サポーターの盛大なチャントには、クールな三笘も「ありがとう」という気持ちを込めて、胸の前で両手を叩いて反応した。

 そして前回のサブ出場でブライトン移籍後初の複数得点となる2ゴールを決めたボーンマス戦(9月24日)同様、26歳日本人MFが後半の頭から元気良くピッチに飛び出すと、サポーターが高揚した。チームはこの試合を迎えるまで、デ・ゼルビ監督が就任して初めてリーグ戦5試合で未勝利が続いていたが、カオルがまたやってくれる、今日こそはスカッと快勝するという楽天的な予感がスタンドに充満した。

 ところが試合後、日本人報道陣の前に現れた三笘の表情は硬く厳しいものだった。

「そうっすね。もう、挙げればきりがないほど悔しいところがありますけど。うん、まあ、チームの状況を表していると思います」

 これが日本代表MFの第一声だった。全身全霊をかけて戦った試合直後のフットボーラーの顔は、皮膚と骨の間の肉が完全に削げ落ち、非常に精悍に見えて、少し近寄りがたい雰囲気になる。この時の三笘も「試合を振り返って」と聞かれると、そんな贅肉が全くない、ある種、神々しくも見える顔でそう答えた。

 三笘は45分間の休息をもらったこの試合、久しく決めていないゴール、もしくはアシストを記録しようという意志が匂い立つようなプレーをした。左サイドを縦抜けして折り返しクロスを放ち、角度のない位置からでも積極的にシュートを打った。目の前に壁が立ちふさがっても、構わず右足を振り抜いてゴールを狙った。ところが後半24分、MFマフムド・ダフートが一発レッドで退場してしまう。

 1点をリードしていたブライトンはここで守る選択をした。三笘は左サイドバックの位置まで下がった。すると、2点目を取られる危険度が低くなったシェフィールド・Uは、急速にポゼッションを上げた。

 そして後半29分、押し下げられたブライトンに不運なオウンゴールが生まれた。右サイドからの強烈なクロスにセンターバックのアダム・ウェブスターが滑り込んだが、必死に伸ばした左足に当たったボールが味方のゴールネットを揺らしてしまった。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2023-24で23シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル28年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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