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三笘の勝てない悔しさ、“違和感”を申し出た冨安の勇気 週末のプレミアリーグを観て思ったこと

森昌利

やるべきことをやればリードを守れたはず

退場者が出て数的不利となったブライトンは、自分たちのサッカーを放棄して守りに入った。三笘(右)も左サイドバックの位置まで下がり、守備に追われて…… 【Photo by Steve Bardens/Getty Images】

 この試合で「どんな役割を求められていたか?」という問いに対し、「1点リードしている状況で、もう1点取りにいくこと」とはっきりと答えた三笘だったが、「でも10人になってから、やっぱり迷いというか、チームとしてもどうすべきかって、たぶん統一できてなかったと思うんです」と話して、退場者が出た後の苦悩を素直に話してくれた。

 ブライトンのサッカーは基本、技術の高い選手たちがしっかりとビルドアップして、ボールを支配することから始まる。しかし完全に守勢に回って、例えば前週に対戦したエヴァートンのように、厳しいマークと強いフィジカルでアンチ・フットボールを展開して、相手の攻撃をつぶしまくるような戦い方は得意としていない。

 10人になってもボールを支配する意識を保持すべきだった。「レッドカードのところはちょっとよくわかんないですけど、見てないんで。でも、その後の、自分たちがやるべきことをやれば、全然守れたと思います」。この三笘の発言も、ダフートが退場した後も普段通りボールを支配するサッカーを展開していれば“1点のリードを守れた”ということを意味していると思う。

 これでブライトンは6戦未勝利。三笘はもどかしい気持ちを抱いたまま日本代表に合流することになった。しかし、「この悪い流れのまま行きたくないというのもありますけど、一旦切り替えてっていうとこもありますし。代表でしっかり結果を残して、いい状態で(またプレミアリーグに)臨みたいと思います」と話して、クラブでの悪い流れを代表戦で勝つことで“断ち切る”と誓った。

 結局、フットボーラーにとって最高の特効薬は勝利なのである。

(編集部注:11月15日に日本サッカー協会から三笘がけがで代表を途中離脱することが発表された)

冨安の対応に見えた断固とした意志

3日前のCLセビージャ戦で自ら交代を申し出た冨安だが、バーンリー戦に右サイドバックでフル出場。そのプレーからは、コンディションに不安を抱えている様子はうかがえなかった 【写真:ロイター/アフロ】

 一方、冨安健洋はこの前日の試合で“まさか”の先発フル出場を果たし、我々の取材に応じていた。

「まさか」と書いたのは、3日前の11月8日に行われた欧州チャンピオンズリーグのセビージャ戦で冨安は、前半の45分間をプレーしただけでベンチに下がっていたからだ。しかも試合後、ミケル・アルテタ監督が「違和感があった」と交代理由を明かして、今季もまた冨安に故障が発生したのかと会見室に緊張が走った。

 だから11日に行われたバーンリー戦に冨安が先発するとは全く考えていなかった。しかし結果は右サイドバックでフル出場。この90分間を見る限り、懸念された故障の影はなかった。

 試合後、冨安に“違和感”について尋ねると、「実際、違和感を感じて交代したっていうのが水曜日にあって。で、チェックして問題なかったんで今日プレーしたって感じです」と答えたが、肝心の違和感を覚えた「箇所はどこなのか?」と尋ねると、今月5日に25歳になったばかりの日本代表DFは「言わないです」と苦笑まじりに言った。

 質問に答えてもらえなかったのに、この対応にはなぜか非常に共感できた。

 前々回のコラムの最後にも書いたが、きらめくような才能と身体能力に恵まれた冨安の最大の課題はケガをしないことである。しかし、超一流クラブのアーセナルでレギュラーを勝ち取るためには、多少の無理も辞さないという思いに駆られるのも仕方がない。

 その思いがデビュー年、そして2年目の昨季も裏目に出た。しかし3シーズン目となった今季、違和感を覚えるとすかさず監督に申し出てピッチを降りることができた。

 アーセナルでつかみかけたレギュラーの座を守るために、過去2シーズン、冨安は自分の限界を注意深く察知することができず、筋肉系のケガを招いて長期の離脱を経験した。

 しかし今季は、違和感をすぐに申告したことでも、同じ轍は踏まないという思いが非常に強いように見える。そして違和感があったが、チェックして問題なかったことでその箇所さえ口にしない。口に出すのを拒否することで、ケガを現実の世界に呼び寄せないとでもいうように断固とした意志が伝わってきた。

 「無事これ名馬」の例えもあるが、3年目になって“まずはケガをしない”という予防処置ができるようになったことは大きい。自分から申し出てピッチを降りるのは勇気がいることだ。これができるようになったのは、やはり過去2シーズンを通じて得た教訓のおかげだろう。

 最後にこれは余談となるが、アーセナル・サポーターは三笘のチャントをフランス代表DFウィリアム・サリバの応援に使っている。これも『ミトマ』と同じく、日本語にしてカタカナ3文字の『サリバ』という名前が「テキーラ!」の箇所にぴったりハマるからだろう。

 けれどもやっぱりこの陽気で、歌うサポーターに幸せを運ぶチャントはディフェンダーより、アタッカーのほうが盛り上がると思った次第である。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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