“通”たちが語る「奥深きスポーツ漫画の世界」

バレーボール日本代表、柳田将洋の『ハイキュー!!』愛 「現実の世界でも及川徹のようなサーブを」

田中夕子

今シーズンから新天地・東京グレートベアーズでプレーする柳田が、『ハイキュー!!』愛を存分に語ってくれた。現役選手も納得のリアリティが一番の魅力のようだ 【YOJI-GEN】

 国内はもとより、海外にも多くのファンを抱えるバレーボール漫画『ハイキュー!!』。2020年に連載は終了したが、いまだその人気は根強い。リアリティに溢れる描写は、一般の読者のみならず現役のバレーボール選手も魅了。なかでも熱烈なファンとして知られるのが、今シーズンからVリーグの東京グレートベアーズでプレーするバレーボール男子日本代表、柳田将洋だ。今秋の杭州アジア大会で日本に銅メダルをもたらしたキャプテンが、『ハイキュー!!』愛を語る。

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実際の春高と似たシーンが多くて既視感が

──柳田選手は『ハイキュー!!』愛を、これまでも様々なところで語られてきました。読者として、バレーボール選手として、どんなところに魅力を感じていますか?

 単行本で読み始める前から『週刊少年ジャンプ』の読者だったのですが、連載が始まった当初は半信半疑だったんです。そもそもバレーボール漫画もほとんどなかったし、どれくらい続くんだろう、と思っていました。でもいい意味で裏切られて、ここまでリアリティを持って、バレーボールのスキルだけでなくキャラクターのメンタルや人間性、バレーボールならではの関係性が描かれている作品はないので、共感を覚えました。「変人速攻」とか、もちろん漫画らしい技もありますが、それも極端に飛躍しているわけではなく、うまく面白さを伝えてくれているのがすごいな、と思っています。

──柳田選手自身が、特に共感する場面は?

 バレーボールの描写ももちろん好きですが、試合に負けた後や切羽詰まっている場面でのギリギリのせめぎ合い、駆け引き。漫画だからこそ描ける一瞬の描写ですが、確かにそうだな、と共感することが多々あります。

──たとえば?

 稲荷崎高校の宮(侑・治)兄弟の速攻が上がる場面はまさにそうですよね。絶対ここに上がってくる、という描写や、思い切り攻めたプレーが得点につながった場面。それまでのスーパープレーや、大きい舞台だからこそ生まれるもの。それをも上回る烏野高校のビッグプレー。ただ描かれるだけでは響かないと思うんですけど、春高バレー(全日本バレーボール高等学校選手権大会)という舞台を忠実に描くからこそ僕らも没入する。主人公・日向翔陽や主人公のいる烏野側だけの目線ではなく、敗れていく選手の心情が描かれていたり、実際の春高と結構似ているシーンが多いんです。僕自身も既視感があったし、リアルだな、と。

──共感できる分、読んでいても熱くなる?

 そうですね。人間関係の描写はもちろん、バレーボール自体の描き方、たとえばセッターを描く時にも斜め上からの画角なので、ボールも入っていて、セッターがセットする絵がすごく見やすいですよね。アニメ化されたことでより伝わりやすいところもあるでしょうが、そこは言葉が分からない海外の方からも『ハイキュー!!』が支持される理由でもあると思います。伊達工業のブロックを壁に比喩して描いているところなど、バレーボールをやったことのない人からしても、「なるほど、そんなに堅いのか」と分かりやすいですよね。

 ブロッカーに焦点を当てても、バレーボールの競技特性とキャラクターをリンクさせていて、ゲス(ブロック)する選手はこういうタイプだな、システムを忠実に守る選手はこういうイメージだな、というのがそのままに描かれているので、違和感が生じない。むしろハマりすぎていて不思議な感覚すら抱きました。

──このキャラクターは現実のこの選手に似ている、などとイメージすることもありますか?

 具体的にこれは誰々っぽい、と思うことはあまりないですが、性格とプレーはリンクすると思っています。ずる賢いとか、派手好きとか、几帳面とか、そういった性格面とは結構つなげて読んでいるかもしれないですね。

バレーボールの専門書を読むよりも……

東洋高校1年時の春高バレーでベスト8敗退の悔しさをバネに、2度目の挑戦で優勝を果たした柳田(写真左)。敗者の心情もしっかりと描く『ハイキュー!!』に共感する部分は多い 【写真は共同】

──特に好きなシーンは?

 春高予選決勝の烏野高校対白鳥沢学園高校戦で、烏野の月島蛍が白鳥沢のエース牛島若利をブロックして、自分の殻を破るシーンが好きですね。アニメの描写もすごくよかったです。そもそもバレーボールに興味がなかった月島が、システムを大事に、忠実にやってきたんだけれど、それ以上に大切なものを見つける瞬間がきた。その背景にあった合宿での練習シーンとか、負けたシーンとか、いろいろな場面がつながってそこにたどり着くわけで、すごくいいシーンだな、と。

 あそこまで劇的ではないですけど、僕も同じように負けたことが悔しくて、その悔しさを次に勝つためのエネルギーにしたこともあったので、自分もそうだったな、と共感しました。

──柳田選手にとって、それはいつでしたか?

 高校(東洋高校)1年生の春高はベスト8で負けてしまって、その時に「来年またこの舞台に立つために1年頑張ろう」と思ったんです。実際、1年後の春高で優勝することができたのも、その時に味わった悔しさをエネルギーに変えられたからだと思います。

 月島のブロックほど劇的ではないですが、僕も高校に入って身長が伸びてから、やれることが次々に増える楽しさを味わって、バレーボールにどんどんハマっていった。時間差攻撃の入り方を少し変えてみようとか、レフトからクロスに打つスパイクももっとシャープに打てるかもしれない、とか。高校1年生から2年生にかけて、大きく変化した実感がありました。

──好きなキャラクターは?

 稲荷崎の北信介です。『ハイキュー!!』の良さがバレーボールのプレーシーンだけじゃないということを表す、まさに象徴的な存在です。強豪チームのキャプテンで、スタメンではないけれどチームをコントロールするかじ取り役であり、芯もある。そういうところに惹かれるし、一番好きなキャラクターです。

 あと青葉城西高校の及川徹も、セッターとしてかなり面白い。今シーズンから僕が所属している東京グレートベアーズの(深津)旭弘さんみたいな感じ。もちろん見た目は違いますけど(笑)、どうやってスパイカーを活かすかを常に考えてくれているし、常にテンションが高い。セッターがチームを明るくしてくれるという面でも及川と旭弘さんは似ています。

 他にも梟谷学園高校の木兎光太郎とか、魅力あふれるキャラクターがたくさんいるし、バレーボールの専門書を読むよりも『ハイキュー‼』を読んだほうが、戦術や技術も分かりやすいのではないかと思うほどのリアルさ。この漫画を読んでバレーボールを見たいと思った方も多いと思うので、僕たち選手は『ハイキュー‼』を超えるクオリティを実際の試合でお見せしたいですね。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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