ミドル3人の知られざる絆、自身の会心のプレーは… 小野寺太志が明かすバレー男子激闘の舞台裏

田中夕子

五輪予選の激闘の裏側を語ってくれた小野寺選手 【写真:田中夕子】

 パリ五輪予選で苦しみながらも出場権を勝ち取ったバレーボール男子日本代表。小野寺太志は不動のミドルブロッカーとして、スパイクとブロックだけでなく、サーブやレシーブ、トスまで、持ち前の器用さでチームに大きく貢献した。印象的なプレーが随所に光った小野寺に、大会中のチーム状況や14日に開幕したVリーグへの意気込みなど、詳しく話を聞いた。

――9日間で7試合を戦い抜いた五輪予選(OQT)を振り返って、どんな大会でしたか?

 だいぶ精神をすり減らされながら試合をしていました。試合が終わる時間も遅いので、常にホテルへ戻るのは22~23時頃、そこから食事、治療、その日の試合や翌日の対戦相手の映像を見ると日付が変わる。試合直後で頭が冴えていて、すぐに寝られないんだけれど、次の日はミーティングがある。頭と身体の疲れは常にありました。

――しかも前半の2試合はフルセット。エジプト戦はセットカウント2-0から逆転負けを喫しました。

 まず初戦のフィンランド戦でフルセットになって、あそこがよくなかった、ここが悪かった、という反省がありながらも、エジプト戦に向けて新たにデータを頭に入れないといけない。頭を切り替えられていたか、といえば完全にできていたわけではなかったですね。

 エジプト戦で負けて、条件的にはだいぶ厳しくなったのも事実でした。あれだけたくさんお客さんも入ってくれている中で、見ている方も「まさかエジプトに負けるなんて」と思っていただろうし、実際僕もマイナスなこと、余計なこともずいぶん考えていました。もしもここでとれなかったらどうなるんだ、チュニジア戦も全然ダメだったらどうしよう、と。

――これまでの大会とはプレッシャーが違った?

 そうかもしれません。男子の直前に女子大会もあって、女子(日本代表)がすごくいい試合をした。オリンピック出場権を今回取ることはできなかったけれど、グループ内のランキングも3番目である中、5戦目まで失セットゼロ、しかも世界ランク1位のトルコに対してもいいバレーをして、ブラジルともフルセット。

「次は俺たちの番だ」という気持ちもありましたが、OQTの経験者は(石川)祐希と関田(誠大)さん、山内(晶大)ぐらいしかいない。実際どんな大会かわかっていなかったし、いざ始まるとどの国も死に物狂いでした。すべてが初めてすぎて、どうしてこんなにうまく回らないのか。何でだ、と考えながら試合は進んで行く。前半は苦しかったですね。

――エジプト戦を終えてから切り替えるために、小野寺選手はどのように過ごしていましたか?

 僕は極力バレーに触れないようにしていました。試合の映像も見るけれど、なるべくその時間も短く。それ以外の時間はYouTubeでバレーボールとは全く関係のない動画を見たり、家族と連絡を取ったり、ゲームをしたり。バレーボール、OQTだけにならないようにして、翌日のミーティングでコーチ陣がまとめてくれたデータを見て、試合に向けたスタートをもう1回、改めてつくる。テレビもネットも見ず、あえてバレーボールを切り離すようにしました。

――見ると考えてしまうし、切り替えができなくなる?

 そうです。見ちゃうと耐えられないかもしれない、見たらパンクしそうだと思って。今だからこそ言えますけど、大会前の合宿からヤマ(山内)も足の調子がよくなくて、大会中に肩を痛めた。(髙橋)健太郎も膝、足首のケガをしていたけれど、ミドルは3人しかいない。2人が万全の状態ではなかったので、最低でも僕は何とか残って踏ん張らないと、という思いがありました。もともとどんな状態であろうとこの3人でやってきた、戦ってきた信頼がある。最後まで3人で戦い抜くためにも、自分の頭がパンクしないように本能的に避けていました。

――翌日、選手間でのミーティングがあった。小野寺選手はどんなことを発したのでしょうか?

 まずチームとして祐希の不調がみんなの心配事でもありました。これまで託して、決まっていたところが1か所なくなっていたわけだし、パスも返らなかった。初戦は代わった大塚(達宣)が役割を果たして何とか勝てたけれど、僕はここから総力戦になると思っていたんです。

 だからミーティングでも「今まではメンバーがほとんど変わらない状態だったけれど、これからはどこで誰が出るかわからない。1人1人もしんどい思いをしていると思うけれど、お互いの顔を見てコミュニケーションを取ること。それぞれ『自分が試合を決める』ぐらいの気持ちで戦う必要があるし、負けても誰かのせいじゃないし、勝つのも誰かのおかげじゃなく、みんなで戦って勝つ。そういう気持ちで戦おう」という話をしました。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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