今季は5人がJ内定 地方から13年連続でJリーガーを生む仙台大の育成方針とは?

平野貴也

ベルギー1部に移籍した松尾(右)ら、仙台大は近年Jリーグに多くの選手を輩出する 【Photo by Isosport/MB Media/Getty Images】

 地方からプロサッカー選手を生み出し続けている大学がある。仙台大学は、9月13日にMF與那覇航和(4年)のFC岐阜(J3)来季加入内定を発表した。FW得能草生(J2水戸)、DF石尾陸登(J2仙台)、DF相馬丞(J2山形)、MF玉城大志(J2群馬)に続く、今季5人目のJリーグチーム加入内定者となった。仙台大では同一年に5人は、一昨季の4人を超えて歴代最多。現時点では、来季のJ加入内定者で国内の大学ではトップタイだ。仙台大学の吉井秀邦総監督(大学での肩書きは監督だが、チーム内の役割である総監督と記す)は「私も驚いています。選手の頑張りが一番ですが、多くの方が協力してくれているおかげ。昨年の全日本大学選手権で優勝候補の明治大学さんに勝った際、スカウトの目に留まった選手が多いです」と喜んだ。

 仙台大のJリーガー輩出は、今年で13年連続だ。20年に卒業したMF松尾佑介は、在学中から特別指定選手として横浜FCで出場機会を獲得。浦和レッズを経て、今年1月にベルギー1部のウェステルローへ移籍と飛躍している。プロ選手輩出が続いている背景には、2014年からJリーグが3部(J3)まで拡張したことや、海外進出を含めて移籍が活発化し、Jクラブの若手需要が高まったことも関係しているが、それは他大学も同じ。地方のハンデを抱える仙台大は、いかにして選手育成で評価を得るようになったのか。

選手獲得には、今も苦悩

仙台加入内定のDF石尾は、JFAアカデミー福島U-18出身。周囲の評価を大きく覆してプロ入りを果たした成長株だ 【写真提供:全日本大学サッカー連盟/飯嶋玲子】

 吉井総監督は「声をかけて獲得できる選手のレベルは、今も昔もあまり変わりません」と言う。U-18世代の選手に人気があるのは、関東の強豪大だ。今でも、高校・ユース年代の試合に行くと「まだ進路が決まっていない、面白い選手いませんか。試合に出ていなくてもいいです」と声をかける吉井総監督の姿がある。2010年に監督として着任後、堅守速攻から、ボールを保持しながら攻めるポゼッションにチームスタイルを変更。当時、他大学が探していた身体能力の高い選手ではなく、戦術理解度を重視して選手を獲得した。11年に入学したMF熊谷達也(柏レイソルU-18→仙台大→秋田)は、象徴的な存在だ。ただ、次第に世の中がポゼッション志向に傾くと、他大学との獲得競争に敗れるようになった。選手獲得には、ずっと苦労しているが、それでも、高校時代は獲得競争の対象外だった選手が、プロに進んでいる。

関東に劣る環境を逆利用。加点主義評価で個性を伸ばす

 背景にあるのは、育成の工夫だ。総合力を欠く選手が、技術も判断も必要なポゼッションスタイルでプレーをすると、ミスが目立つ。チーム内では「ミスをするな」「仲間を使え」といった声掛けが多くなったという。吉井総監督は「パスを回すだけの選手が増えた。周りから行くなと言われたら、ほとんどの選手は行けなくなる。トライし続けないと経験が成長に生きない」と指導方針を修正。数年前からスタッフの名刺の裏には「評価は、減点方式ではなく、加点方式で評価する『加点主義』で行います。何もしない失敗しない選手を評価するのではなく、トライする回数と成功率で評価します」と明記している。

 リスクを負ってもトライを評価。それは、強豪ひしめく関東リーグでは、多くのチームが成績との兼ね合いで苦しんでいる部分でもある。強化指定の部活動に成績を求めない学校はない。どれだけリスクを負えるか、さじ加減が難しい。吉井総監督は、関東との比較から個性と特長を考えたという。

「向こうは、ハイレベルでハイテンポのプレーができなければ生き残れない。うちにも必要だが、同じことをやるのは難しい。うちにはトライするための余裕がある。その違いが特長と考えた」(吉井総監督)

 関東に比べれば競争力を欠く東北大学リーグの実情を逆手に取った考えだ。多少のリスクを負っても東北リーグで16年連続優勝。全国大会に出場し続け、伸び伸びと育った選手がチームをけん引し、プロにも進む。育成重視の方針は、地方のハンデをアドバンテージに変える戦略でもあった。

高校世代の指導者が評価、隠れた好素材が続々

水戸に加入内定のFW得能は、青森山田高出身 【写真提供:全日本大学サッカー連盟/飯嶋玲子】

 選手の特長を伸ばす育成は、次第に高校の指導者に知れ渡った。浦和レッズユースからMF松尾が来たのも、大槻毅監督(当時。現、J2群馬監督)の推薦だった。試合を見に行き、途中出場だった松尾のプレーを見た吉井総監督は「その試合では全くボールに触れず、正直、パッとしなかった。他の選手を欲しいと言ったけど、その子は早稲田に決まっていた」と肩を落としたが、大学の練習に参加させると、独特の間合いでボールを奪われないドリブルと、ボールロストを恐れない姿勢が光った。守備に難があったが、実戦で特長を伸ばす方針を貫き、現場にも起用を進言。試合経験を積み、身体強化でスピードも向上すると、守備でも負けん気を見せるようになった。特長の攻撃力を大きく伸ばした姿が、関東の強豪・筑波大との試合で横浜FCの増田功作強化スカウトダイレクター(当時)の目に留まり、後の活躍につながった。

 ほかにも、隠れた逸材を送ってくれる指導者が出て来た。青森山田高校の正木昌宣監督は、仙台大OB。ヘッドコーチ時代から、関東の強豪大で思うような評価を得られない好選手を推薦。その中からMF嵯峨理久(J2いわき)らがプロに進んでいる。GK井岡海都(鳥取)は、市立船橋高校でインターハイ優勝メンバーになっているが、まだ先発に定着せず3番手だった春に、伊藤竜一GKコーチ(現、熊本GKコーチ)から推薦があって獲得した選手だった。少しずつ「育てれば伸びる」選手が来る状況が整いつつある。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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