J1月間MVP 鹿島・樋口雄太が明かす岩政監督との意見交換 「あの日の会話で自分の中に火がついた」

舩木渉

鳥栖から加入2年目、今や欠かせぬ存在となった樋口。攻守両面において岩政・鹿島のキーマンだ 【(C)J.LEAGUE】

 8月度の「2023明治安田生命Jリーグ KONAMI 月間MVP(J1)」に、鹿島アントラーズのMF樋口雄太が選出された。8月のJ1リーグでは古巣のサガン鳥栖戦でのゴールを含め、2得点2アシストの活躍。その好パフォーマンスの背景にあったマインドの変化とは?

前に進む要因の1つとなった岩政監督との対話

――8月度の明治安田生命J1リーグKONAMI月間MVP受賞、おめでとうございます。まずは初受賞の感想をお聞かせください。

 ありがとうございます。こういった賞を特別に意識したことはなくて、まさか自分がいただけるとは思っていなかったので、すごく嬉しいです。自分だけで獲った賞ではないので、チームメイトやコーチングスタッフ、そしてファン・サポーターの皆さんにも感謝したいと思います。

――8月で印象に残っている試合やプレーはありますか?

 ホームのサガン鳥栖戦(8月19日の第24節/◯2-1)は、記憶に残る試合になりました。古巣でもある鳥栖との試合でゴールを決めて、自分の成長した姿を見せることができたのではないかと思います。

――26分に利き足ではない左足で見事なミドルシュートでゴールを決めましたね。

(ディエゴ・)ピトゥカからうまくボールをもらって、シュートを打つことしか考えていなかったので、「もう打っちゃえ!」という感じでした。なかなか左足でゴールを決めることがないので、自分でも「まさか決まっちゃうとは!」とびっくりしましたね。左右関係なくシュートの練習をしてきた成果でもあるので、これからプレーの幅がもっと広がっていくのではないかと思います。

――8月は鳥栖戦のゴールも含めて2得点2アシストを記録しました。4試合全てに先発出場しながら、いい状態をキープできていたように見えましたが、ご自身でもうまくいっている感覚はありましたか?

 今シーズンはもともとすごくコンディションがいいなと感じていました。そのうえで8月は特にコンディションだけでなく、パフォーマンスも上がっている実感がありました。サッカーを楽しむことをもう一度思い出そうという気持ちで取り組めたことで、2得点2アシストという結果にもつながったのではないかと思います。

――何が「サッカーを楽しむこと」を思い出そうと考えるきっかけになったのでしょうか?

 7月のリーグ中断期間にいろいろ考えていたら、自分が一番忘れかけていたのが「サッカーを楽しむこと」だったと気づいたんです。そこで大事なものを思い出して、マインドを変えると、本当にサッカーが楽しくなるんだと感じられたのが8月でした。僕にとってすごく成長できた1ヶ月間だったと思います。

――Jリーグが中断期間に入る直前、ヴァンフォーレ甲府と対戦した天皇杯3回戦で2度PKを外してしまいました。そこで鹿島の敗退に大きく関わってしまったことも変化のきっかけになったのでは?

 あの試合でタイトル獲得のチャンスを1つ逃してしまって、大きな責任を感じていました。同時に「失敗を挽回するくらいの気持ちでやらないと成長できない」という想いが湧き出てきて、その強い気持ちを抱き続けられたことがFC東京戦以降のパフォーマンスにつながっていると思います。

――天皇杯敗退のあと、再び前を向くにあたって岩政大樹監督の存在が大きかったとも聞きました。

 練習後にグラウンドに残っていたら、たまたま大樹さんが寄ってきて「PKを2度外すのはなかなかできない経験だよ」と冗談混じりに言ってくださったんです。それがきっかけで僕が思っていることや大樹さんが思っていることについて意見交換できたのは、前に進むための要因の1つになりました。あの日の会話で自分の中に火がついた感覚があったのをよく覚えていますし、もう一度前を向いてチームのために貢献しなければいけないという気持ちも芽生えたので、大樹さんにはとても感謝しています。

 もちろん監督という立場で選手と親密な関係になってしまうと周りからの見られ方が変わってくる可能性もありますけど、それでも大樹さんは選手1人ひとりにしっかり向き合ってくれます。タイミングを見て、選手の気持ちを汲み取りながらコミュニケーションを取ってくれる監督だと思います。

走行距離が11kmを下回っていても…

的確なポジショニングや効率的なランニングなど、サッカーIQの高さも樋口の魅力だ 【YOJI-GEN】

――樋口選手は鹿島に加入した昨シーズンから岩政監督の指導を受けていますが、その中でチームとしての成長をどう捉えていますか?

 大樹さんは型にハメたサッカーが嫌いな監督で、プレーしていると自分のアイディアがどんどん増えていくのを感じます。すごく選手のことを考えて、価値を高めてくれる。自分自身も大きな成長を感じています。

 チームとしても選手個々の特徴を発揮しやすい配置や戦術になっていますし、それが今の好調の要因になっていると思います。それぞれが自分の持っているものを出せば、自然といい結果につながってくる実感があるので、その流れを継続して向上させるための作業をしているところです。

――7月中旬からは右サイドでのプレーが増えています。ただ、樋口選手は典型的なウインガーではありません。比較的自由に動き回って、サイドからFWの作ったスペースに走り込んだり、ビルドアップに絡みながら内側から相手サイドバックの背後を狙ったり、いわゆるウイングとは違ったプレーが目立っています。今の戦術におけるご自身の役割をどのように消化しながらプレーしていますか?

 やはり僕はサイドに張ってプレーするタイプではなく、中央で特長が生きる選手だと思っています。それでも大樹さんは「自分が感じるようにやってくれればいい。それがいいものになるから」と言ってくれています。

 その中で意識しているのはボールに関わり続けることです。中に入ったり、ビルドアップに参加したり、裏に抜けたり、自分からアクションを起こし続けられている。チーム全体がそうなっていると思いますが、特に僕と逆サイドの仲間隼斗選手、サイドハーフが積極的にボールに関われていることがうまくいっている要因ではないでしょうか。いいサイクルに入っていると思います。

――試合を見ていると「どれだけ走れるんだろう?」と感じる反面、スタッツを参照するとフル出場していながら走行距離が11kmを下回っている試合も珍しくありません。これは効果的に走れていることの証明なのではないでしょうか。

 おっしゃる通りで、ここで走れば味方が使ってくれる、ボールに関われる可能性が高くなるといった「走りのタイミング」を理解できるようになってきたと感じています。もちろん無駄走りもありますし、まだまだ向上の余地はありますけど、どこでより大きなパワーを出すかを自分の中で整理したうえでプレーできる場面が増えてきた感覚があります。

――1試合あたりのチーム走行距離の平均をリーグ全体で見ても、鹿島は12位です。それでも攻撃のスイッチを入れてゴールに向かっていく勢いは凄まじく、崩しの形も洗練されていて、なおかつ全体のプレー強度が高い印象です。樋口選手が持っているような「走りのタイミング」をチーム全体で共有できているのではないでしょうか。

 みんなが「絶対にシュートで終わる」という共通意識を持って攻撃できています。さらにどこで思い切って攻撃に出るかの判断基準がチームに浸透してきて、迷いがなくなったのが一番大きいと思います。僕たちはボールを奪われたら全員で取り返しますし、その後に全員で攻撃していきます。そうやってみんなが攻守両面に関わり続けるシーンを増やしていけば、もっと強いチームになれると思います。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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