J1月間MVP 鹿島・樋口雄太が明かす岩政監督との意見交換 「あの日の会話で自分の中に火がついた」

舩木渉

鹿島に入るまでは薄かった感覚とは?

ファン・サポーターの想像以上の熱量によって、樋口の中で「勝ちたい」「喜ばせたい」という気持ちが強まったという 【(C)J.LEAGUE】

――現在は好調ですが、3月から4月にかけてリーグ戦4連敗もありました。その苦境から5連勝で抜け出すわけですが、当時はどのようにチームを立て直したのでしょうか。

 あの時期はすごく苦しかったですし、半信半疑で試合に臨んでいた雰囲気もありました。「何が正解なんだろう?」とみんなで模索しながらやっていましたね。何かのきっかけで変わっていきそうな感じはありましたけど、それがなかなか見つけられないという苦しい時間が続いた中で迎えたのがアウェイでのアルビレックス新潟戦でした。

 これ以上負け続けたら本当にヤバいというタイミングで、1人ひとりが危機感を持って臨めた試合でもありました。そこで2-0の完封勝利を収め、特に守備面でチームの戦い方のベースが確立できた。「こうすれば勝てるんだ!」というのをみんなで見出せた新潟戦は、チームにとってすごく大きかったと思います。

――新潟戦から無失点で5連勝を飾り、「鹿島らしい強さが戻ってきたな」と感じていました。樋口選手は鳥栖から鹿島に加入して2年目ですが、外から見ていた「鹿島らしさ」と中に入って解像度が上がった「鹿島らしさ」のギャップを実際にどう捉えていますか?

 加入する前は「常勝軍団だし、1試合1試合に懸ける想いには他のクラブとは違う特別なものがあるんだろう」と思っていましたし、実際に試合で対戦すると1対1の球際で相手を本当に潰すくらいの強さを発揮してくる印象がありました。

 そのうえで鹿島に入ってみると、強度の高さは想像通りでしたけど、元々のイメージと最も違ったのはファン・サポーターの熱量でした。どんな試合にもたくさんの方々がスタジアムに足を運んでくださって、「選手を勝たせなければいけない」という使命感とともに素晴らしい雰囲気を作ってくれます。常に後押ししてくれるファン・サポーターの皆さんのためにも、僕たちは絶対に勝利を届けなければならない。リーグ戦であろうとカップ戦であろうと、目の前の1試合での勝利に対する執着心の強さは、想像の遥か上をいっていました。これが「鹿島らしさ」なのか、と。

――ファン・サポーターの皆さんが選手たちのモチベーションを駆り立ててくれるという側面はありつつ、勝利への執念や意識の強さがプレッシャーとなって作用してしまうことはないですか?

 僕自身は「鹿島は勝つことで評価されるクラブなんだ」と感じていますし、常に勝利への飢えを表現する部分は徐々に身についてきているのではないかと思います。もちろんプレッシャーはありますけど、それよりも本当に勝ちたい。この感覚は鹿島に入るまでの自分には薄かった。プロサッカー選手であることの責任、何よりもファン・サポーターの皆さんに喜んで帰ってもらいたい、といった意識は鹿島でより強く意識するようになりました。

――常に勝利が求められる環境に身を置いて、タイトル獲得への意識はどのように変わってきていますか?

 もともと「タイトル」と口にすることはなかったですけど、鹿島に入ってから自分で言葉に出すことで、タイトル獲得への重圧は感じていますね。でも、シンプルにそれだけを目標に掲げていたらタイトルを獲ることはできない。目の前の1試合に全力を尽くして、コツコツ努力していくことで最後にタイトルが見えてくるんだと、2年目にして実感しているところです。

――勝利にこだわる、そのうえでタイトル獲得につながる戦いをしようという意識で試合に臨むと自分のプレーは変わってきますか?

 本気でそう思えたら、変わってくると思います。というか、変わっていますね。自分がチームを勝たせたい、自分のプレーでチームを勝利に導くんだというマインドに変わりました。今年に関しては特に「自分が勝たせる」という意識で戦っています。

 昨年ももちろんタイトルを獲りたい気持ちはすごく強かったですけど、鳥栖から鹿島に移籍して、新しい環境に身を置いてサッカーをしてきた中で、自分としてはなかなかいいプレーをできていないと感じていました。だからこそ自分のプレーを見直しと、タイトルという目標を持ち続けることの大事さが身に沁みたので、今年はその目標を持ちつつも、自分らしいプレーをし続けることを意識しながらプレーできています。

アシストよりも多くのゴールを決めたい

9月1日に加入し、10日の名古屋戦で途中出場を果たした柴崎。このW杯戦士から、樋口は多くのことを盗むつもりだ 【(C)J.LEAGUE】

――「鹿島らしさ」を深く理解している柴崎岳選手が6年半ぶりに復帰しました。将来的にポジションを争う可能性もありますが、彼からの影響や刺激をどのように活かしていきたいと考えていますか?

 テレビでしか見たことしかない方で、まだ深く話す機会はないですけど、ワールドカップも経験されていますし、どういった選手なのかを肌で感じて、自分のためになるものを盗んでいきたいですね。一緒にプレーすることが何よりも楽しみです。

――柴崎選手も経験してきた日本代表は樋口選手にとってどんなものですか? 近年のパフォーマンスによって、代表入りを期待する声も大きくなってきているように感じます。

 結果でアピールするのが一番早いのではないかな、と。僕は今J1のアシストランキングで1位(11アシスト)にいますけど、やっぱりアシストよりもどれだけ多くのゴールを決められるかが重要になると思っています。アシストも気持ちいいですけど、ゴールはもっと気持ちいいですし。

 それにもし自分が監督だったらどういう選手を使いたいかと俯瞰して考えてみると、やっぱりゴールを決めてチームを勝たせられる選手だろうと。勝つために何が必要とされるのかを自分の中で整理してみたら、その答えはゴールでした。得点数が伸びてくれば自ずと見てもらえる機会も増えるでしょうし、どれだけ多くのゴールを決めて鹿島を勝たせられるかにフォーカスしてやっていけば、少しずつ日本代表に近づけると考えています。

――勝利にこだわりながら、サッカーを楽しんで、最終的には自分がゴールを決めてチームを勝たせる。これまで意識してきた様々な要素が噛み合った状態で前に進めているのではないでしょうか。

 今はシンプルにサッカーが本当に楽しい。自分自身が楽しめていることがいろいろな部分にプラスに働いていると思っています。単純な理由ですけど、それが一番なのかなと。

――シーズンも終盤に差し掛かり、リーグ優勝の可能性が残っています。最後に改めて今シーズンのタイトルに懸ける想いを聞かせてください。

 目の前のことにしっかり目を向けて、1試合1試合を大事に戦い、勝利を1つひとつ積み重ねていけるように。そうすることで最終的にタイトルという結果が見えてくると思っています。今の鹿島は好調ですけど、もっともっと勢いのあるチームにしていくために、僕自身がそのきっかけを作るようなプレーをしたいです。自分自身も、チームとしてもさらに成熟度を上げていけるように、日頃の練習から目標に向かって頑張っていきたいと思います。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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