連載:欧州サッカー23-24シーズンの論点は?

夏の補強でスペインのビッグ2はどう変わった? 未来を見据えるマドリー、刹那的なバルサの世代交代

下村正幸

財政難のバルサが目を付けたのが、フリートランスファーの選手と所属クラブを構想外になった選手。移籍期限最終日に獲得したカンセロ(左)とJ・フェリックス(右)もそれに該当する 【Photo by Alex Caparros/Getty Images】

 中東のオイルマネーに圧倒され、近年はプレミアリーグの隆盛に押されっぱなしのラ・リーガ。欧州戦線をリードした時代はもはや遠い昔で、現地でも凋落の危機が叫ばれている。そんななかで、スペインの盟主とも言えるバルセロナとレアル・マドリーの“ビッグ2”はこの夏の補強を経て、どのような変化を遂げたのだろうか。ビッグネームが相次いで去り、ともに求められているのは世代交代。だが、それぞれ異なる事情を抱え、そのやり方は大きく異なっている。

枯渇することのないカンテラの若い力が拠り所

 ラ・リーガ凋落の危機が、現地スペインでも叫ばれている。それぞれリオネル・メッシ(現インテル・マイアミ)とクリスティアーノ・ロナウド(現アル・ナスル)を擁するバルセロナとレアル・マドリーが欧州でも覇権を争い、引いてはそれがリーグ全体のレベルアップに繋がっていた時代は、すでに過去のものとなった。

 スーパースターが去った後、バルサからはセルヒオ・ブスケッツ(現インテル・マイアミ)、マドリーからはカリム・ベンゼマ(現アル・イテハド)という大黒柱もまた、昨シーズン限りでチームに別れを告げた。こうして否応なく世代交代を迫られているスペインの“ビッグ2”だが、それぞれを取り巻く状況はかなり異なる。

 その背景を考察する際に見過ごせないのが、両クラブの経営状態だ。

 今では遠い昔の出来事のようだが、バルサは今夏、メッシの復帰に向けて動いていた。しかし財政難がそれを許さず、さらにはブスケッツの後釜候補にリストアップしていたマルティン・スビメンディ(レアル・ソシエダ)やヨシュア・キミッヒ(バイエルン・ミュンヘン)の獲得も見送らざるを得なかった。その一方では、ウスマンヌ・デンベレがパリ・サンジェルマンへと去るのを、指をくわえて見守るしかなかったのだ。

 窮地に立たされたバルサが目を付けたのが、フリートランスファーで獲得可能な選手であり、所属クラブで構想外になった選手だった。

 前者については昨夏のアンドレアス・クリステンセンとフランク・ケシエ(現アル・アハリ)に続いて、イルカイ・ギュンドアン(←マンチェスター・シティ)とイニゴ・マルティネス(←アスレティック・ビルバオ)の獲得に成功。バルサ・ブランドがいまだ健在であることの証でもあったが、しかし結果的にブスケッツの後釜として手を打ったオリオル・ロメウ(←ジローナ)も含めて、オーバー30の選手がさらに増えた。

 後者についても、移籍期限最終日にジョアン・カンセロ(←マンC)とジョアン・フェリックス(←アトレティコ・マドリー)のダブル獲りを実現させているが、いずれもレンタルで買取りオプションは付帯されていない。唯一長期契約で獲得した18歳のFWヴィトール・ロッキ(現アトレチコ・パラナエンセ)の加入は、2024-25シーズンからになる予定だ。

 経営を立て直すには勝ち続けるしかない──。刹那的に結果を求める姿勢は、メッシやブスケッツら重鎮たちが去っても変わらない。

 しかし、ときに若い力は、そうした閉塞した状況をぶち壊すエネルギーを持っている。実際、23-24シーズンの開幕以来、チームに新風を吹き込んでいるのは20歳前後の逸材たちだ。

 なかでもカンテラ育ちの16歳、ラミン・ヤマルはその象徴的な存在で、デンベレの退団とラフィーニャの出場停止処分による欠場を追い風に出番を得ると、圧巻のプレーを披露。デンベレと同様に局面打開力に秀でた高い個人能力の持ち主だが、最大の違いは、その若さにして周囲とイメージを共有しながらプレーできる点だ。これからどこまで成長するのか、末恐ろしい。

 ヤマルに比べればすでにベテラン感が漂っているが、先んじて台頭したペドリ(20歳)やガビ(19歳)、アレハンドロ・バルデ(19歳)らももちろん健在だ。新生バルサの旗手になるはずだったアンス・ファティ(20歳/現ブライトン)をはじめ、アブデ・エザルズリ(21歳/現ベティス/昨シーズンはオサスナにレンタル)、ニコ・ゴンサレス(21歳/現ポルト/昨シーズンはバレンシアにレンタル)、エリク・ガルシア(22歳/現ジローナ)などが退団したとはいえ、枯渇することのないカンテラ(下部組織)の若い力が、財政難に苦しみ思うように世代交代を進められないクラブの大きな拠り所となっている。

カゼミーロら過去の成功例が自信の源に

大きなポテンシャルを秘めた若手を国外から集め、ワールドクラスに育てるのがマドリーのやり方だ。ドルトムントから獲得した20歳のベリンガムは開幕4戦で早くも5ゴール 【写真:ロイター/アフロ】

 一方、本拠地サンティアゴ・ベルナベウのリニューアルオープンのメドも立ち、これからチーム強化に思い切って資金を投下できるマドリーは、未来を見据えて今夏、世代交代の流れをさらに加速させた。

 自信の源となっているのは、カゼミーロ(現マンチェスター・ユナイテッド)、フェデリコ・バルベルデ、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴの成功例だ。いずれも若くして加入し、マドリーでトップレベルへと成長した。ポテンシャル豊かな若手を国外からかき集め、あとは現場の監督に才能の開花とアジャストを託す。本来は左サイドに適性のあるロドリゴも、ヴィニシウスに押し出される形だったとはいえ、右サイド、さらにはCFに居場所を見つけ出している。

 資金的な余裕があるから、旬のヤングタレントを獲得することも可能だ。バルベルデ(25歳)をはじめ、エドゥアルド・カマビンガ(20歳)、オーレリアン・チュアメニ(23)と、すでに中盤に良質な若手が揃っているにもかかわらず、この夏は大枚をはたいてジュード・ベリンガム(←ドルトムント/20歳)を一本釣りしている。とくに縦への推進力やダイナミズムといった点で、バルベルデとベリンガムは少なからずキャラクターが被るにもかかわらずだ。

 そうしたなかで、チームを率いるカルロ・アンチェロッティ監督はさすがの調整力を発揮する。中盤が飽和気味になる一方で、補強ターゲットをキリアン・エムバペ(パリSG)に絞った結果、それが空振りに終わって前線が駒不足に陥ったチーム事情を鑑みて、ベリンガムをトップ下に配置する4-3-1-2システムを導入。アスレティック・ビルバオとの開幕戦では、ベリンガムの背後にバルベルデ、チュアメニ、カマビンガを並べる中盤が機能した。

 さらに攻撃的MFでは、争奪戦で優位に立っていると報じられていたバルサから、トルコ代表の18歳のレフティー、アルダ・ギュレル(←フェネルバフチェ)の強奪にも成功している(プレシーズンに右膝半月板を損傷し、復帰は10月の見込み)。そして、ウィークポイントの1つだった右サイドバックこそ手付かずのままだが、同じく人材が不足していた左サイドバックにも、カンテラ育ちのスペイン代表DFフラン・ガルシア(24歳)をラージョ・バジェカーノから完全移籍で復帰させている。

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