夏の補強でスペインのビッグ2はどう変わった? 未来を見据えるマドリー、刹那的なバルサの世代交代
ベンゼマの後釜確保を見送ったツケを……
守護神クルトワとCBミリトンが今シーズンほぼ絶望の怪我を負い、ヴィニシウス(左)も3節に負傷した。才能豊かな若手がそろうマドリーだが、同時に危うさも残る 【Photo by Angel Martinez/Getty Images】
だが、時代は変わり、そうした変化に対するマドリーの回答が、まだ才能を全面開花させていないヤングタレントに、いち早く目をつけるという戦略だったのだ。それがバルサとは異なり、外部から獲得した若手がスタメンの多くを占めるという現在の状況に繋がっている。
世代交代の効果は、シーズン開幕後の試合内容を見れば明らかだ。プレスに奔走し、球際を制し、背後を狙う動きを繰り返しと、これまで以上にアグレッシブさやフィジカルの強さを前面に押し出したサッカーを展開。とりわけベリンガムは、ピッチを自由に動きながら攻守両面において早くも中心的役割を担い、さらには開幕4戦で5ゴールと圧倒的な存在感を示している。
もちろん、1つ歯車が狂えば、ベンゼマの後釜確保を見送ったツケを払わされる可能性はあるだろう。ましてや開幕前後には、守護神ティボー・クルトワと最終ラインの要エデル・ミリトンが、立て続けに今シーズンほぼ絶望の重傷を負っている。確かに才能溢れる若手が揃い、チームとしてのポテンシャルは欧州でも屈指だろう。ただ、同時に危うさも残る。ヴィニシウスの負傷欠場(3節のセルタ戦でハムストリングを痛めて全治約1ヵ月)も響いて苦戦を強いられた4節のヘタフェ戦(2-1で勝利してリーグ戦4連勝)がそうだったように、ルカ・モドリッチやトニ・クロースらベテランの力が必要な場面は、これからまだまだ出てきそうだ。
バルサとマドリーの世代交代の進め方はそれぞれ異なるが、両者に共通して言えるのは、一時の勢いを失い、時代の波に飲み込まれながらも、自分たちのクラブの特性を踏まえて道を模索し、抗い、戦い続けていることだ。
はたして、それは正しい道なのか──。その試金石となるのがチャンピオンズリーグ(CL)だろう。昨シーズンは王座をマンCに譲ったが、史上最多14回の優勝を誇るマドリーの目標は、言うまでもなく欧州の覇権の奪還だ。ベンゼマの後継者獲得を見送ったフロントの判断を「あまりに無謀」と批判する現地メディアは少なくないが、しかし懐疑派も擁護派も、今シーズンのマドリーが成功を収めるためのポイントについては見解が一致している。「若手が引っ張り、ベテランが支える」というチームバランスを構築できるかどうかだ。
生え抜きのレジェンド監督も未来は保証されず
刹那的なバルサの補強は即効性重視。そんななかで世代交代の大きな拠り所となっているのが、カンテラの若手たちだ。今シーズンは開幕から16歳のヤマルが躍動する 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】
ただ、だからこその即効性を重視した補強でもある。チームを引っ張るのはギュンドアンら実績十分の新戦力であり、マルク=アンドレ・テア・シュテーゲンやフレンキー・デヨングといった新リーダーたちだろう。マドリーとは異なり、こちらのポイントは、若手の活躍をどこまで勝利の起爆剤にできるかだ。
幸いポルト、シャフタール・ドネツク、ロイヤル・アントワープと同居したグループステージは組分けに恵まれた。ここで”欧州コンプレックス”を払拭しながら、試せることはすべて試して、決勝トーナメント以降の強豪との対戦に備えたい。現地のバルサ寄りのメディアも、「夏の補強を経て戦力の拡充が図られた」と一定の評価はしているが、さすがにCLの優勝候補に推す声は少数派だ。まずはグループステージの1位通過を目指して戦い、決勝トーナメントでは一戦必勝を貫くのみだろう。
シャビ監督にとっても、CLは重要な試金石だ。現行の契約はアンチェロッティと同じく今シーズン終了まで。刹那的な結果至上主義がはびこるクラブでは、生え抜きのレジェンドとはいえ、その将来が保証されているわけではない。
監督人事も含めて、しっかりと未来を見据えるマドリーと、中長期スパンを掲げながらも、近視眼的なチーム作りしかできないバルサ。異なる事情を抱えたスペインのビッグ2が、それぞれ異なるやり方で変革に乗り出している。
(企画・編集/YOJI-GEN)