連載:欧州サッカー23-24シーズンの論点は?

世界中のサッカーファンが信奉する移籍専門記者 ファブリツィオ・ロマーノはなぜ人気者になったのか

片野道郎
アプリ限定

イタリア・ナポリ生まれのロマーノ(右)は現在30歳。いまや世界で最も影響力のあるサッカージャーナリストだ 【Photo by Bruno de Carvalho/SOPA Images/LightRocket via Getty Images】

 サッカーファンの多くが、ファブリツィオ・ロマーノという名前をご存じだろう。世界中で支持されているイタリア出身の移籍専門記者だ。SNSを駆使して移籍情報を発信し続け、彼が「Here we go!」という決まり文句を打てば、その移籍は決定したとみなされるほど絶大な信頼を得ている。いまやファン、サポーターだけでなく、クラブや選手も彼の影響力の大きさを認めるほど。世界で最も有名なサッカージャーリストとなった30歳は、いかにして現在の地位を築いたのか。

フォロワー数でロマーノを上回るスター選手は4人だけ

「Here we go!」というパワーワードとともに、ファブリツィオ・ロマーノの存在は世界中で認知されるようになった。ツイッターのフォロワー数は1700万人を超える 【ツイッターアカウント@FabrizoRomanoから】

 新シーズン開幕を控えた欧州サッカーの夏は、何よりも移籍マーケットの季節である。サッカーファンなら誰でも、愛するチームや気になるライバル、そして誰もが注目するスター選手たちの動向を気にかけ、移籍関連のニュースを追ってそれに振り回されながら一喜一憂する日々を送っていることだろう。

 その移籍関連のニュースに関して、世界中のサッカーファンから圧倒的な支持と信頼を集めている情報ソースがある。情報ソースと言っても、新聞社でもなければ放送局でもなく、WEB上のニュースサイトですらない、ツイッターやインスタグラムなどのSNS上にある、単なる個人アカウントだ。そのアカウントの主はファブリツィオ・ロマーノ、30歳のイタリア人ジャーナリストである。

 移籍専門記者としてプレミアリーグをはじめ欧州トップレベルの移籍情報を追い続け、1日16時間、17時間にわたってスマートフォンにかじりついて情報収集に明け暮れる傍ら、毎日数十本のニュースをSNSにポストする彼のトレードマークは、移籍の成立を伝える時に使われる「Here we go!」という決まり文句。膨大な数のフェイクニュース、憶測情報やガセネタが飛び交う移籍報道の中で、彼が発信する情報は正確かつ確実、そして何よりも速さという点で他を寄せ付けないレベルにある。ロマーノが「Here we go!」を出せば、それから数時間以内にはほぼ間違いなく移籍が公式に発表されるというのは、もはや世界中のサッカーファンの常識である。

 そのSNSフォロワーは、ツイッターアカウント@FabrizoRomanoが1775万人、インスタグラムアカウントfabrizioromは2206万人という圧倒的な数字だ。ツイッターのフォロワー数でロマーノを上回るスター選手は、クリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシ、ネイマール、モハメド・サラーの4人だけ。クラブの公式アカウントでもレアル・マドリー、バルセロナ、マンUなど10に満たない。サッカーメディアのアカウントで世界的に最もメジャーなESPN FCやGoal英語版ですらフォロワー数は1000万人前後に留まっている――。そう言えば、この数字のスケール感が伝わるだろうか。

 さる7月17日には英国のタブロイド紙『デイリー・スター』が、ロマーノがツイッター・ブルーの広告分配収入で受け取る金額は、月間8万6000ドル(約1200万円)に上るだろうという試算を伝えて話題を呼んだ。

 移籍報道のみならずサッカージャーナリズム全体で、世界的規模でこれだけの知名度、注目度、信頼度を得たメディアや個人は、過去には存在しなかった。では彼はいかにして、現在のポジションを築いたのだろうか。
  • 前へ
  • 1
  • 2
  • 次へ

1/2ページ

著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント