姫野和樹『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』

心身を消耗するラグビー日本代表での活動 姫野和樹を奮い立たせたリーチマイケルの「言葉」と大切な「芯」

姫野和樹

【Photo by Cameron Spencer/Getty Images】

 「意識する」「受け入れる」「行動する」「率いる」「フォーカスする」「整える」――。
 ラグビー日本代表〝最強の男〟が初めて明かした〝最高の準備〟のためのシンプルな思考習慣。

 選手として、チームのキャプテンとして、これまでのラグビー人生の中で学んできた、考え方や意識作り、自分との向き合い方、「弱さ」の受け入れ方、目標設定術といった姫野流セルフコーチング・メソッドからリーダー論、組織マネジメント論までを余すところなく書き下ろし。ラグビーファンの間ではお馴染みの、姫野さんが7年間にわたって書き溜めているラグビーノート"姫野ノート"の一部も初公開&収録しています。

 ラガーマンやアスリートはもちろん、学生や新社会人、ビジネスマンまで、誰もが実践&応用できる「考える力の作り方」が満載の一冊。姫野和樹著『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』から、一部抜粋して公開します。

選手寿命を削りながら過ごす日々の中で

 本当に、すべてのものを犠牲にしなければいけない日本代表としての活動は、色々な意味で心身を消耗する。僕自身、日の丸を背負い続けるということに対して、モチベーションが大きく下がったことがあった。2021年、ちょうどニュージーランドのプロチーム、ハイランダーズに加入していた頃だ。

 代表のトレーニングや合宿に行けば、選手寿命を削りながら地獄のようなキツい毎日を過ごさねばならない。オフどころか気を休める時間すらもなく、毎日誰かケガをしていなくなる。まるで〝野戦病院〟だ。考えるうちに、考え過ぎて、僕は日本代表活動に参加することの意味がわからなくなってしまったのだ。

「めっちゃ命削ってるよな……」

 ラグビーというスポーツは、選手でいられる時間が決して長くない。僕は2023年7月で29歳になった。世間一般的には「20代のまだまだ若手」に見えるかもしれないが、18歳、20 歳の選手が代表デビューしてバリバリに活躍しているラグビー界では、もう中堅……いや、ベテランの域に入り始めている。その限りある大切な時間を日本代表に費やしたからといって、莫大なお金を手にできるわけではないし、逆に大ケガを負ってしまう可能性もある。

「リスクに対してリターンが見合っていないなぁ……」
「次の代表は招集されても休もうかな……」

 そう考え込むくらいまで、メンタルが落ち込んでしまっていた。これだけ落ちたのは、社会人1年目にいきなりキャプテンを任された直後以来だ。

 その時、僕がふと「彼に一度話を聞いてみよう」と思ったのが、リーチだった。

 15歳でニュージーランドから日本の高校へ留学してきたリーチは、2008年、大学在学中の20歳の時に初めて日本代表に選出されて以来、15年間も日本代表を支え続けている。2021年まで長い間、日本代表のキャプテンも務めていた名実ともに日本代表の〝芯〟だ。

 その一方、ラグビーを離れれば家族がいて、夫であり父でもある。一年のうちのほとんど、家庭を離れる生活で、本当ならば家族と過ごせるはずの時間を、15年もの間、日本代表にほとんど無償で捧げ続けている。

リーチの“ひと言”から感じた大切なこと

 僕は、率直に自分の迷いをリーチに伝えた。そして尋ねた。

「オレ、もし家族を持っていたら代表に行かないと思うんです」
「なんでリーチは、そんなにも代表にモチベーションがあるんですか?」

 リーチは黙って僕の話に耳を傾けていた。
 普段から決して口数が多くはない彼は、その時も、たったひと言だけこう答えた。

「俺は日本を強くしたい」
「ただ、それだけ」

 リーチは日本で生まれ育ったわけではない。ニュージーランド人とフィジー人の両親の間に生まれ、中学生まではニュージーランドで育った人間だ。選手としても、故郷であるニュージーランドの代表、オールブラックスにも十分選出されるであろう超一流のレベルだ。ラグビー選手であれば、〝世界最強〟オールブラックスのジャージに憧れを抱かない人間はいないだろう。

 だが、それでもリーチは日本を選んでくれた。

 日本ラグビーを強くする道を選んでくれた。ニュージーランドで生まれ育ったリーチが、日本で生まれ育った僕よりも日本人だった。
 彼の言葉に僕は大げさではなく、震えた。日本を強くするという考えを貫き通す芯の強さが、無茶苦茶にカッコ良かった。
 同時に、自分のあまりの小ささにハッとなった。「俺、めっちゃ女々しいな」と恥ずかしくなった。男なら中途半端な〝途中下車〟はあり得ないじゃないか。

「俺もリーチのようになりたい」

 そう思うと、あれだけ悩んでいたことが嘘のように、モヤモヤしたものが消えていった。単純だと笑われてしまうかもしれないが。

 「考える」ことは、たしかに大事だ。生きていれば、年をとっていけば、自分が大事にしているものや価値観も少しずつ変わっていく。そうなれば、色々と新たに意識したり思い悩んだりすることも増えていくだろう。
 だが、その真ん中には芯が必要だ。リーチのような、いつどんな時でも変わらずブレることがない自分の〝生き方の根っこ〟がなければいけない。

 リーチは語らず、僕にそう教えてくれていた。

【写真提供:飛鳥新社】

「意識する」「受け入れる」「行動する」「率いる」「フォーカスする」「整える」――。
ラグビー日本代表〝最強の男〟が初めて明かした〝最高の準備〟のためのシンプルな思考習慣。

選手として、チームのキャプテンとして、これまでのラグビー人生の中で学んできた、考え方や意識作り、自分との向き合い方、「弱さ」の受け入れ方、目標設定術といった姫野流セルフコーチング・メソッドからリーダー論、組織マネジメント論までを余すところなく書き下ろし。ラグビーファンの間ではお馴染みの、姫野さんが7年間にわたって書き溜めているラグビーノート”姫野ノート”の一部も初公開&収録しています。

ラガーマンやアスリートはもちろん、学生や新社会人、ビジネスマンまで、誰もが実践&応用できる「考える力の作り方」が満載の一冊。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント