勝利の女神を呼び寄せた三笘の「守備」 ルーニーばりのスライディングタックルで勝ち越し点を阻む
守備が明暗を分けたのは必然だった
「タイトな試合で多くのチャンスを作ったわけではないが、うちのほうが勝つという気持ちが強く表れていた。それは相手に1本しか枠内シュートを打たせなかったことでも分かる。しっかり守って、接戦をモノにした」
最初のコメントは、筆者が試合後、三笘薫が後半に勝敗を直接左右するような決定的な守備を見せたシーンについて尋ねて、返ってきた答えだ。
そして2つ目は、先月32歳になったブライトンの若き指揮官、ファビアン・ヒュルツェラー監督がBBCのインタビューで勝因を聞かれて返答したものだった。
3月8日に行われたフラムとのホーム戦は、このエースと監督の証言が示すように“守備”が勝負の明暗を分けた。
そうなったのは必然だったとも言える。両チームが守備に人数を割き、膠着(こうちゃく)した試合になる背景があったからだ。
この試合を迎える時点で、リーグ戦3連勝中のブライトンは勝ち点43の8位。一方のフラムも今季好調で、2017年からイングランドで指導するポルトガル人のマルコ・シウバ監督ががっちりとチームを掌握。得失点差は+4ながら、接戦をモノにして11の勝ち星を積み上げて勝ち点を42まで伸ばし、9位につけていた。
しかも勝ち点67の首位リバプール(消化した試合が1つ多い)、同54の2位アーセナルに続く3位以下はまさに団子状態になっていた。3位ノッティンガム・フォレストは勝ち点48、4位マンチェスター・シティが47、5位チェルシーが46、6位ニューカッスルが44、7位ボーンマスはブライトンと同勝ち点の43。つまり、8位ブライトンと9位フラムの対決は、ヨーロッパリーグは無論のこと、チャンピオンズリーグ(CL)も含めた来季の欧州戦参戦争いにとどまるために、両軍にとって非常に重要な一戦だった。
リーグ戦のこういう試合は、展開によっては最終的にドロー狙いになることもあるが、両チームともに本当に勝ちたい。同時に、双方ともに敗戦を最悪の結果と受け止めるため、失点を嫌がり、守備的な試合になりやすい。ヒュルツェラー監督が言った通り、「タイトな(堅く引き締まった)試合」になる要素が十分に揃っていた。ゴールを奪うことが困難な試合になるのは必定だった。
どちらも完璧なフィニッシュだった
まずは前半35分のフラムの先制点。結果的に、試合を通じてチーム唯一のオン・ターゲット(枠内)となったシュートは、右サイドを突破したナイジェリア代表FWアレックス・イウォビのクロスから生まれた。このクロスを胸トラップで足元に落とし、角度のない位置から左足で引っ掛けるようなボレーを放ったラウル・ヒメネスのフィニッシュは見事の一語。この形からシュートを打っても決まるほうが珍しい。そんな難度の高いフィニッシュだった。
一方のブライトンのゴールも素晴らしかった。前半41分、左サイドからのフリーキックに、センターバックのヤン・ポール・ファン・ヘッケがファーサイドに飛び込んで完璧なヘディングシュートを合わせた。ボールが対角線上の左ゴールポストの内側に当たってゴールラインを割った。このゴールもヒメネスのものと同じく、GKが全く防ぎようのない完璧なフィニッシュだった。
ブライトンの同点弾が決まった瞬間、先週のコラムで紹介した地元出身のニック・シュチェパニク記者が隣に座っていて、「ファン・ヘッケのブライトン初ゴールがこんな素晴らしいヘディングで決まるなんて!」と叫ぶように言った。