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勝利の女神を呼び寄せた三笘の「守備」 ルーニーばりのスライディングタックルで勝ち越し点を阻む

森昌利

三笘(右)はゴールにこそ絡まなかったが、フラムを相手に攻守にわたって奮闘。ブライトンの4連勝に大きく貢献した 【Photo by Shaun Brooks - CameraSport via Getty Images】

 欧州カップ戦の出場権を目指すブライトンにとって、3月8日(現地時間、以下同)のフラム戦は是が非でも勝ちたい試合だった。そんな重要な一戦で、三笘薫は勝利につながる決定的な働きを見せた。それも攻撃面ではなく守備の局面で。1-1の後半28分、アレックス・イウォビのドリブル突破を止めたスライディングタックルは、かつてのウェイン・ルーニーを思い起こさせた。後半アディショナルタイムにPKで逆転したブライトンは、これで1部リーグでは44年ぶりとなる4連勝を飾った。

守備が明暗を分けたのは必然だった

「そうですね。(試合が)オープンになりやすいところで、監督からもプレスバックを求められますし。最終的に前の選手が戻ってくれば、後ろに何枚も並んでリスクは減るので。そういった面で、(このプレーでは)スライディングで取れましたけど、まず戻るところで、相手を前に置くのはずっと言われてるんで。そういうところはやらないといけないですし、それをやってるからこそ、次のチャンスが生まれてくる。失点しないのは間違いなく大事ですね」

「タイトな試合で多くのチャンスを作ったわけではないが、うちのほうが勝つという気持ちが強く表れていた。それは相手に1本しか枠内シュートを打たせなかったことでも分かる。しっかり守って、接戦をモノにした」

 最初のコメントは、筆者が試合後、三笘薫が後半に勝敗を直接左右するような決定的な守備を見せたシーンについて尋ねて、返ってきた答えだ。

 そして2つ目は、先月32歳になったブライトンの若き指揮官、ファビアン・ヒュルツェラー監督がBBCのインタビューで勝因を聞かれて返答したものだった。

 3月8日に行われたフラムとのホーム戦は、このエースと監督の証言が示すように“守備”が勝負の明暗を分けた。

 そうなったのは必然だったとも言える。両チームが守備に人数を割き、膠着(こうちゃく)した試合になる背景があったからだ。

 この試合を迎える時点で、リーグ戦3連勝中のブライトンは勝ち点43の8位。一方のフラムも今季好調で、2017年からイングランドで指導するポルトガル人のマルコ・シウバ監督ががっちりとチームを掌握。得失点差は+4ながら、接戦をモノにして11の勝ち星を積み上げて勝ち点を42まで伸ばし、9位につけていた。

 しかも勝ち点67の首位リバプール(消化した試合が1つ多い)、同54の2位アーセナルに続く3位以下はまさに団子状態になっていた。3位ノッティンガム・フォレストは勝ち点48、4位マンチェスター・シティが47、5位チェルシーが46、6位ニューカッスルが44、7位ボーンマスはブライトンと同勝ち点の43。つまり、8位ブライトンと9位フラムの対決は、ヨーロッパリーグは無論のこと、チャンピオンズリーグ(CL)も含めた来季の欧州戦参戦争いにとどまるために、両軍にとって非常に重要な一戦だった。

 リーグ戦のこういう試合は、展開によっては最終的にドロー狙いになることもあるが、両チームともに本当に勝ちたい。同時に、双方ともに敗戦を最悪の結果と受け止めるため、失点を嫌がり、守備的な試合になりやすい。ヒュルツェラー監督が言った通り、「タイトな(堅く引き締まった)試合」になる要素が十分に揃っていた。ゴールを奪うことが困難な試合になるのは必定だった。

どちらも完璧なフィニッシュだった

フラムに先制された6分後、ファン・ヘッケのドンピシャのヘッドで同点に。在籍3年目のオランダ人DFにとって、公式戦82試合目での初得点だった 【Photo by Steve Bardens/Getty Images】

 試合は予想通り、お互いにチャンスの芽をつぶし合い、少ない決定機をモノにしたほうに勝利の女神が微笑む流れになった。90分間のフィニッシュ数を見てもブライトンの9に対し、フラムは6。両軍ともに一桁にとどまった。それでも前半に1点ずつ取り合った。その2つのゴールはどちらも、相手の一瞬の隙をついた完璧なフィニッシュだった。

 まずは前半35分のフラムの先制点。結果的に、試合を通じてチーム唯一のオン・ターゲット(枠内)となったシュートは、右サイドを突破したナイジェリア代表FWアレックス・イウォビのクロスから生まれた。このクロスを胸トラップで足元に落とし、角度のない位置から左足で引っ掛けるようなボレーを放ったラウル・ヒメネスのフィニッシュは見事の一語。この形からシュートを打っても決まるほうが珍しい。そんな難度の高いフィニッシュだった。

 一方のブライトンのゴールも素晴らしかった。前半41分、左サイドからのフリーキックに、センターバックのヤン・ポール・ファン・ヘッケがファーサイドに飛び込んで完璧なヘディングシュートを合わせた。ボールが対角線上の左ゴールポストの内側に当たってゴールラインを割った。このゴールもヒメネスのものと同じく、GKが全く防ぎようのない完璧なフィニッシュだった。

 ブライトンの同点弾が決まった瞬間、先週のコラムで紹介した地元出身のニック・シュチェパニク記者が隣に座っていて、「ファン・ヘッケのブライトン初ゴールがこんな素晴らしいヘディングで決まるなんて!」と叫ぶように言った。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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