姫野和樹『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』

姫野和樹が明かす「絶対に日本代表しかやらない」キツいトレーニング 名将ジェイミーは何を狙っていたのか?

姫野和樹

【Photo by Koki Nagahama/Getty Images】

 「意識する」「受け入れる」「行動する」「率いる」「フォーカスする」「整える」――。
 ラグビー日本代表〝最強の男〟が初めて明かした〝最高の準備〟のためのシンプルな思考習慣。

 選手として、チームのキャプテンとして、これまでのラグビー人生の中で学んできた、考え方や意識作り、自分との向き合い方、「弱さ」の受け入れ方、目標設定術といった姫野流セルフコーチング・メソッドからリーダー論、組織マネジメント論までを余すところなく書き下ろし。ラグビーファンの間ではお馴染みの、姫野さんが7年間にわたって書き溜めているラグビーノート"姫野ノート"の一部も初公開&収録しています。

 ラガーマンやアスリートはもちろん、学生や新社会人、ビジネスマンまで、誰もが実践&応用できる「考える力の作り方」が満載の一冊。姫野和樹著『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』から、一部抜粋して公開します。

「今日一日を生き延びる」ことだけ考える

 みんなのために、チームのためにベストを尽くす――口にするのは簡単だが、実際に行動に移すのは簡単なことではない。
 簡単ではないからこそ、試合だけでなく練習中から、常時全力の献身的な考え方とプレーが求められる。チームのために、自分のすべてを捧げなければいけない。
 特に、日本代表ではそれが厳しく求められる。
 いや、求められ続ける。
 これまでにも日本代表のトレーニングの厳しさは、何度か話題になったことがあった。2015年のワールドカップで南アフリカ代表を破ったエディ・ジョーンズ前ヘッドコーチ時代の日本代表合宿も相当タフだったと聞く。練習開始時間は朝5時だったそうだ。
「あんなキツいことはなかった」
「あれほど追い込まれたのは人生で初めて」
「エディーが何度も鬼に見えた」
 ワールドカップ後、代表選手の誰もがそう口を揃えた。当時の日本代表の〝顔〟だった五郎丸歩さんも、日本代表のトレーニングの凄まじさをこう振り返っていた。
「〝もう一度、この4年間をやれ〟と言われても絶対にできない」
 南アフリカ代表戦のアップセットを含めて予選リーグで3勝をあげて世界中を驚かせたあの日本代表は、今の日本ラグビー界の大きな転換点になった。
 当時大学生だった僕を含めて、あの試合を見ていたすべての選手、子どもたちが「日本も世界と戦える」という意識を持つことができた。
 ほんのわずかの差で予選突破こそならなかったが、〝史上最強の敗者〟と世界中から称えられるほどの結果を残せたのも、そうした過酷なトレーニングが実を結んだからだ。
 だが、エディーとジェイミー両方の日本代表を経験している選手誰もが真顔で言うのは、
「ジェイミーの4年間のほうがキツかった」
「エディーもキツかったけれど、ジェイミーとはキツさの質が全然違う」
エディー・ジャパンを経験していない僕には比較できないが、たしかに初めて日本代表候補として過ごした2019年ワールドカップまでの4年間は、それまでの僕の人生の中でも間違いなく最もタフな4年間だった。

 いや、タフなんて生易しいものじゃない。
 めちゃくちゃにヤバかった。

 どれくらいの厳しさかを言葉で伝えるのはなかなか難しいけれど、人生で心身ともに一番追い込まれたことは間違いない。僕の母校・帝京大学ラグビー部の練習やトレーニングもかなりの厳しさ激しさで知られているけれど、それが「楽だったな」と思えてしまうくらい苛烈を極めた。

 そんな中で追い込まれていくと、人間は今日のことしか考えられなくなる。
 明日のことを考えられなくなる。

「明日は、このトレーニングがある」
「明日は、もっとこうやってみよう」
「明日が終わればオフだ」
 そんな先のことを頭に浮かべている余裕やエナジーが、一切なくなるのだ。ただただ「今日一日をどう生き延びるか」だけが頭の中を占めていく。
 それほどまで、ひたすらに体もメンタルも追い込まれ続ける練習は3部制だ。
 朝8時スタートの午前練は、ジムでのフィットネストレーニングとコンタクトプレーを行う。朝イチから〝ピンピン〟――1対1でオフェンスとディフェンスに分かれて、全力フルスピードで、ひたすらに真っすぐにコンタクトし合いタックルし合う。これみっちり1時間。ジムでのトレーニングと合わせて、2時間ほどで午前練は終わる。
 14時半からの午後練はチーム練習がメインだ。フォワード、バックス、そしてチーム全体でボールを使ってサインプレーや連動性を高める全体練習。全体練習の最後にフィットネストレーニングで息を上げて、17時に午後練は終了。
 午後練が終わると18時から夕食になるのだが、選手はみんな、ほとんど食べられない。
 食えないのだ。
 ここまでの練習で体だけでなく内臓まで疲れ切っているので、固形物を体が受け付けない。時間をかけてゆっくり味わえば食べられるのだが、19時から夜練がスタートするので、のんびり食べている時間もない。
 少しでもエナジーを蓄えるために、食べ物を胃に押し込んだら、夜練の1時間半はバチバチのフルコンタクトだ。僕たちフォワードは、敵味方に分かれて、ひたすらモールとラックを繰り返しボールを奪い合う〝モールゲーム〟をする。
 一日の全工程が終了するのは21時過ぎだ。

 クールダウンしてお風呂に入り、軽く夜食を食べ終えるともう力は残っていない。ベッドに倒れ込む。
 だが、今度は寝られない。
 すぐにでも寝たいのに、眠ることができない。
 夜練で激しい練習をした直後なので、体中の筋肉が熱を持ってしまっているからだ。なかなか寝付けないまま、目をつぶっているうちに気づくと空が明るくなっている。
 そしてまた、8時からの全力のぶつかり合いが待っている。

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