【月1連載】ブンデス日本人選手の密着記

なぜ伊藤洋輝は戦列復帰後すぐに重要戦力となれたのか? バイエルンで安定的に出番を得るために必要なのは――

林遼平

怪我で長期離脱を強いられた伊藤だが、2月上旬に戦列に戻るやブンデスリーガで首位を行く強豪バイエルンで、さっそく貴重な戦力となっている 【Photo by Daniel Kopatsch/Getty Images】

 堂安律、板倉滉、伊藤洋輝ら日本代表の主力クラスを筆頭に、2024-25シーズンも多くの日本人プレーヤーが在籍するドイツ・ブンデスリーガ。彼らの奮闘ぶりを、現地在住のライター・林遼平氏が伝える月1回の連載が、この「ブンデス日本人選手の密着記」だ。第7回の主人公は、今シーズンからドイツきっての名門バイエルンの一員となった伊藤洋輝。開幕前に中足骨を骨折し、長期離脱を強いられながら、復帰早々にヴァンサン・コンパニ監督の信頼を獲得できた要因はどこにあったのか。

納得のいく強豪バイエルンへの移籍

 困難なスタートを強いられていた。

 昨シーズン、セバスティアン・へーネス監督のもとポゼッションサッカーを志向したシュツットガルトで、リーグ全体を見渡してもトップクラスのパフォーマンスを見せていた伊藤洋輝が、昨夏の移籍市場でバイエルン・ミュンヘン行きを決断した。

 このニュースは日本では驚きをもって伝えられたようだが、普段からブンデスリーガを見ている人間にとっては納得のいく移籍であり、今シーズン、ドイツきっての強豪クラブでのさらなる飛躍が期待されていた。

 しかし、シーズン開幕を前にして、伊藤はアクシデントに見舞われる。まず、プレシーズンマッチで中足骨を骨折して長期離脱を強いられた。その後、少しずつ回復傾向にあったが、昨年11月頭には再手術したことが判明。年明けにランニングメニューを再開したが、コンパニ監督は戦線復帰を3月以降と示唆し、ピッチに立つまでには多少時間がかかると予想された。

 それでも、復帰は周囲の予想よりも早くに訪れる。全体練習に合流したと伝えられた2月4日(現地時間、以下同)以降、いつ取材に行こうかとタイミングを図っていたのだが、わずか1週間後に行われた12日のチャンピオンズリーグ(CL)のノックアウトフェーズ・プレーオフ第1レグ、敵地のセルティック戦でまさかのベンチ入り。78分にはいきなり出番を得て、バイエルンでの公式戦デビューを飾っていた。

デイビスの不在も関係していたとはいえ

ブンデスリーガ第23節のフランクフルト戦では、左サイドバックとして先発出場。こぼれ球を押し込んで初ゴールも記録し、4-0の勝利に貢献した 【Photo by Harry Langer/DeFodi Images via Getty Images】

 正直なところ驚きが大きかった。長期離脱を強いられ、復帰してから1週間ほどしか経っていない。プレシーズンマッチを経験しているとはいえ、シーズン開幕以来、日々改良を続けているバイエルンの中で、すぐにプレーできるとは考えにくかったからだ。

 もちろん、当時はアルフォンソ・デイビスが負傷中で、両サイドバックのプレーが安定しない試合が多かったことも関係していただろう。それでも、短い時間でコンパニ監督の信頼を勝ち取り、ピッチに立ったこと自体が称賛に値する。

 そのCLセルティック戦の3日後に行われたブンデスリーガ第22節、2位レバークーゼンとの天王山では、左サイドバックとして初スタメンを飾る。さらに翌週23日の3位フランクフルトとの上位対決も再び先発に起用され、セットプレーの流れから移籍後初ゴールも奪取。晴れやかな完全復活を印象付けた。

 決して簡単な道のりではなかっただろう。希望と野心を胸に名門クラブの扉を叩いたが、リーグ戦が始まる前に長期離脱。新天地でのスタートで躓いたことで、間違いなく大きな不安を抱えていたはずだ。

 ただ、一歩一歩前に進んできた。地道なリハビリに励み、苦しい時期を乗り越えたからこそ、重要な試合でスタメンを任される現在の立場がある。

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著者プロフィール

1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして各社スポーツ媒体などに寄稿している。2023年5月からドイツ生活を開始

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