「投の明豊」で激化するエース争い 県勢初の3連覇へ、背番号1を勝ち取るのは?

加来慶祐

昨夏の甲子園では3試合すべてに登板し、10回2失点、6奪三振と好投した森山。ストレートのキレとフォークの落ちを取り戻し最後の夏へ 【写真は共同】

悩めるエース、屈辱のマウンド

 明豊と言えば「強打」の印象を抱く方が多いと思うが、実際はハイレベルな守りのチームである。選手たちは「九州一」とも言われる川崎絢平監督のノックで鍛えられ、内野手は球際の強さ、外野手は圧倒的な守備範囲を誇り、さらには内外野とも送球精度がすこぶる高い。また、どんな打球にも当たり負けしない体幹の強さも大きな武器と言っていい。

 そんな守りのチームの中心を成しているのは、言うまでもなく投手陣だ。とくに今年は140キロ超の右腕6人を擁するなど、例年以上の分厚さで「守りの明豊」を引っ張っている。

 筆頭格は、昨年の甲子園で3試合に登板した森山塁(3年)だ。甲子園では141キロのストレートとフォークを軸に10イニングを投げ2失点(自責2)、6奪三振と力投。何より下級生で聖地のマウンドを経験したことが大きかった。現在はチームの投手リーダーを務めている。

 しかし、現チームにとっては絶対的な存在であったはずの森山が苦しんでいる。5月に行なわれた夏の前哨戦、大分県選手権では準決勝で今春センバツ出場の大分商に敗れた。明豊の4点リードで迎えた8回、満を持してマウンドへ向かった森山だったが、ストレートが思うように走らず、得意のフォークも高く抜けるシーンが目立った。8回に1点を返され3点差とされた9回、森山はあとアウトひとつの状況から4点を失い、まさかの逆転を許してしまったのだ。試合はそのまま6-7で終了。屈辱的なマウンドを、森山自身が振り返った。

「1年秋の九州大会で、九州国際大付(福岡)に一方的にやられた試合(2回2/3で8失点)と同じぐらい、自分にとってはショックの大きな負けになりました。まだまだ自分の力不足です。フォークの抜けはリリースの問題。しっかり叩けていないので、夏に向けて修正していかないと」

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甲子園の悔しさをバネに台頭した中山が台頭

中山は昨夏の甲子園の悔しさを糧に大きく成長。森山からエースナンバーを勝ち取る可能性も出てきた 【写真は共同】

 この結果を受けて、川崎監督はチーム全員の前で厳しく言い放った。

「今のままなら、夏は中山が“1”を付けることになる。これが現実なんだから仕方ないよね。俺の中では森山が絶対に“1”を背負わなきゃいけないという考えはないから。ただ、まだまだ時間がある。悔しかったら、取り返してみせろ」

 自他ともに認める負けず嫌いのエース森山は、川崎監督を睨みつけるように話を聞いていたという。

 ここで名前が出てきた中山とは、昨夏の甲子園で森山とともにベンチ入りし、2回戦の一関学院(岩手)戦で先発した中山敬斗(3年)である。制球力の高さを活かしてツーシームやカットボールを左右両コーナーへと散らしながら、相手打者の芯を外す投球が持ち味。チーム一の安定感を誇り、力強さを増したストレートも常時137キロから140キロほどを叩く。最速は森山の143キロを上回る144キロだ。県選手権で敗れた大分商戦では先発し、7回を投げて2失点。打者の左右に関係なく、インコースを果敢に突く強気の投球が光った。

 その中山だが、昨年は森山とは対照的な甲子園となった。1試合に先発し1回2/3で被安打5、3失点(自責2)と思うような結果を残すことができないまま、静かに出番を終えている。

「めっちゃ悔しかったです。あの日以来“絶対にもう一度甲子園に行って、先発して完封したい”と思うようになりましたね。冬も人一倍頑張ってきたつもりだし、ランメニューも絶対に1位を獲ってやる、というつもりで取り組んできました」

 その成果が形となって表れはじめている昨今の中山を、森山が黙って見過ごすわけがない。5月末、両右腕は川崎監督から「今週は(登板を)飛ばしてもいいよ。6月最初の週末に合わせて作っていけばいいから」と提案されたが、真っ先に森山が「投げさせてください」と志願し、これを受けて中山が「自分も」と手を挙げた。

 とくに中山に対する森山のライバル意識は強烈である。

「中山は変化も多彩でコントロールも良いし試合が作れます。安定感は一番。……いや、安定感が強みですね」

 と「一番」というひと言を即座に撤回するほど、エース死守に対する思いは強い。

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著者プロフィール

1976年大分県竹田市生まれ。東京での出版社勤務で雑誌編集などを経験した後、フリーランスライターとして独立。2006年から故郷の大分県竹田市に在住し、九州・沖縄を主なフィールドに取材・執筆を続けているスポーツライター。高校野球やドラフト関連を中心とするアマチュア野球、プロ野球を主分野としており、甲子園大会やWBC日本代表や各年代の侍ジャパン、国体、インターハイなどの取材経験がある。2016年に自著「先駆ける者〜九州・沖縄の高校野球 次代を担う8人の指導者〜」(日刊スポーツ出版社)を出版した。

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