羽生、三原、友野らが生歌に合わせたプログラムを披露 『ファンタジー・オン・アイス』で感じた“ライブ”の価値

沢田聡子

名曲『if…』を演じ切る圧倒的な存在感 プロならではの滑りで魅了した羽生結弦

羽生結弦『if…』 ボーカルとラップ、伴奏をすべて表現した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 そして、大歓声の中大トリで登場した羽生結弦は、モノクロの衣装でDA PUMPの代表曲『if…』を演じた。暗闇の中で羽生がスピンを始めたのが見え、曲が始まるとスポットライトを浴びて全身が浮かび上がる。

 アマチュア時代から圧倒的だったスケーティング技術に加え、プロとなった羽生が新たに身につけたのは上半身の鋭角的な動きだろう。このプログラムではラップパートもシャープな所作でクールに表現しており、『阿修羅ちゃん』でみせたダンサブルな動きをさらに進化させた印象がある。このプログラムではあえて滑らずに止まって踊る部分を多くしているようにみえた羽生は、陸でもかなり踊り込んでいるのではないかと思われる。今後も羽生は、滑りと踊りの配分を緻密に計算しつつ新たなプログラムを創作していくのではないだろうか。

 いつも音楽を全身で受け止める演技をみせる羽生だが、特にこのナンバーでは、ISSAのボーカルとKIMIのラップ、そして伴奏もすべて動きで表現する離れ業をみせた。ライブである以上、音は毎回の演奏で微妙に違うことを考えると、羽生の演技は並外れたパフォーマンスだといえる。名曲に対して存在感を醸し出すだけにとどまらず、むしろ楽曲の新たな印象を作り上げるようなこのプログラムは、プロとして日々研鑽を積む羽生にしか滑れない圧巻の出来栄えだった。

 フィナーレでは、ISSAとKIMIが歌うDA PUMPの大ヒット曲『U.S.A.』に乗ってすべてのスケーターが登場。おなじみの振付を氷上で再現し、観客席も一体となって盛り上がった。

 生歌に合わせて滑るスケーター達に歓声が飛ぶ光景は、コロナ禍を経てようやく戻ってきた日常でもある。コラボレーションの妙を体感するライブならではの価値を、改めて感じさせてくれる『ファンタジー・オン・アイス』初日公演だった。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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