全国優勝9度を誇る帝京高サッカー部の今 「異色の指揮官」が描く復権のロードマップ

松尾祐希

昨年度はインターハイで準優勝を果たすなど、近年は目覚ましい結果を残している 【松尾祐希】

 昨年7月、久しぶりに“帝京”の名が高校サッカー界に轟いた。夏の全国高校総体(インターハイ)で快進撃を見せ、決勝進出を果たしたからだ。前橋育英に0−1で敗れて19大会ぶりとなる夏の全国制覇は叶えられなかったが、“カナリア軍団”復活が目前であることを予感させた。

「少しずつまた動き始めた。僕が(監督を)ずっとやるとかではなく、山下(高明)コーチや松澤(朋幸)コーチなど、いろんな人たちが卒業生としてチームに関わっている。フルパワーで『オール帝京』の力を見せて、返り咲ける場所に返り咲きたい」

 インターハイ準優勝を果たした後、日比威監督は悔しさを噛み締めながらも確かな手応えを感じていた。

 惜しくも同年の高校サッカー選手権は東京予選のAブロック準決勝で國學院久我山に逆転負けを喫し、13年ぶりの選手権出場は逃した。だが、高円宮杯JFA U-18プリンスリーグ関東1部ではJクラブの育成組織や高体連の強豪校と互角以上の戦いを見せ、2位でフィニッシュ。2種年代最高峰の戦いである高円宮杯JFA U-18プレミアリーグの参入プレーオフでも、昇格にあと1勝と迫った。今季も3勝3分で首位と勝点1差の4位に付けており、FW横山夢樹とDF梅木怜(ともに3年)が来季からJ3・FC今治でプレーすることも決まっている。名将・古沼貞雄(現・矢板中央高サッカー部アドバイザー)の下で一時代を築いた名門校が低迷から抜け出し、新たなフェーズに入っているのは間違いない。

名門復活を託された選手権優勝を知る元主将

 1970年代から1990年代にかけ、帝京は高校サッカー界の盟主に君臨していた。古沼氏の下で勝負強さを発揮し、圧倒的な力を誇示。佐々木則夫氏(元なでしこジャパン監督)、礒貝洋光氏(元G大阪ほか)、中田浩二氏(元鹿島ほか)など、サッカー界に多くの人材を送り込んだ。しかし、2000年代に入ると、インターハイ33回、選手権34回の出場を誇る名門校は冬の時代を迎える。2004年度限りで古沼氏がチームを離れ、チームも全国舞台から姿を消した。現時点で最後の選手権出場は2009年度。思うようにチームの強化が図れず、苦労も絶えなかった。

 そこで再建を託されたのが、現在も指揮を執る日比氏だ。1991年度の選手権ではキャプテンとして四日市中央工業との両校優勝を経験。帝京最後の選手権制覇を知る男の手にチームの命運は委ねられた。

 日比監督は帝京高卒業後、順天堂大を経て、アビスパ福岡と水戸ホーリーホックでプレーした。引退後はマネジメント会社で大学時代の先輩である名波浩氏などのサポート業務に従事。高原直泰氏(現・沖縄SV)がボカ・ジュニアーズに移籍した際はマネージャーとして3ヶ月ほど現地に同行するなど、異色のキャリアを経て母校を率いる立場になった。

 日比氏が帝京に戻ってきたのは、今から9年前の2014年。荒谷守・前監督(現・帝京高校サッカー部アドバイザー)に招かれ、指導をスタートさせた。当初の立場は3年契約の外部コーチ。当時を振り返り、日比氏は言う。

「どうしても助けてほしいという声があったので迷いはなかった。でも、1年目が終わった時に来年から学校の先生として働いてほしいと言われたんです。前倒しになったけど、それもすんなり受け入れられた」

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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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