「リーダー向きではない」と自認する富樫勇樹 B1最強・千葉Jを大一番で勝たせる異色のキャプテン像

大島和人

富樫勇樹はキャプテンとして千葉JをB1のクォーターファイナル進出に導いた 【(C)B.LEAGUE】

千葉Jが2勝1敗で四強へ

 2022-23シーズンのBリーグチャンピオンシップ(CS)は、15日にセミファイナル(準決勝)へ進む4チームがすべて出揃った。千葉ジェッツは53勝7敗の史上最高勝率で東地区制覇を決め、クォーターファイナル(準々決勝)は広島ドラゴンフライズを退けて勝ち上がりを決めている。しかし2戦先勝の初戦を落とすと、第2戦こそ98-69と快勝したものの、第3戦も96-91の接戦となる厳しいシリーズだった。

 15日の第3戦は両者にとって、負けたら終わりの大一番。千葉は41-30の11点リードで前半を終えたが、広島に食い下がられて最後まで突き放せなかった。

 千葉Jのジョン・パトリックヘッドコーチ(HC)は試合後にこう振り返っている。

「最後の4分くらいはナーバスになったというか、試合が“面白く”なってしまった。大事なときに(佐藤)卓磨がベンチから出てシュートを決めて、ヴィック・ローも第4クォーターに向こうがラン(連続得点)のときに3ポイントを入れた。(富樫)勇樹はまったく緊張していなくて、冷静にボールを運んでいた」

広島の流れを断ち切った富樫のプレー

 CSのような大一番は、どうしてもベンチメンバーの出場時間が減る。それでも千葉Jは佐藤卓磨のようなセカンドユニットが、要所でビッグプレーを決めていた。外国籍選手は3人とも攻守に万能&強力な「エース級」の実力者だが、そんな面々が戦術をきっちり遂行するのだから千葉Jはやはり強い。

 チームの中心は何と言ってもポイントガード(PG)の富樫勇樹だ。15日の広島戦も、勝負どころでその頼もしさが際立っていた。日本代表、2018-19シーズンのMVPで、一昨季のCSと4度の天皇杯で千葉を優勝に導いた立役者なのだから、今さらの話ではある。そういう意味で広島3連戦の富樫は“いつも通り”の活躍だった。

 千葉Jは58-59と1点差に追い上げられて第3クォーターの残り1分を迎えていた。富樫は残り45秒でベンチからコートに戻ると、すぐさま残り40秒に3ポイントシュートを決める。広島はフリースローで1点を返すが、富樫がスーパープレーで“3倍返し”を見せた。

 クロックが「残り0秒」に近づき、しかもゴール下に敵が揃う状況下で、彼は左ウイングから強引にドライブを仕掛けた。そしてブロックを避けるように腕を伸ばし、なおかつ上半身を後ろに傾ける捨て身のレイアップを沈める。胴体からコートに落ちる危険なシュートフォームで、勇敢に打ち切った。さらに相手のファウルで得たエンド1のフリースローも決め、千葉Jは65-59の6点リードで第3クォーターを締めた。

 第4クォーターに入ると、今度は10分間で6アシスト。千葉Jのボール運びを滞らせよう、あわよくば奪おうと強度を強めた広島のプレスに対して、落ち着いてボールを運び、捌いていた。流れが相手に傾きそうなタイミングに、それを食い止める。誰もが“テンパる”時間帯に、冷静さを失わない――。富樫はそんなプレーヤーだ。

「いわゆるキャプテンの仕事」はしていない

 ドライブ、パス、多彩なシュートといったスキルセットを、この29歳はハイレベルに兼ね備えている。167センチの小兵だが人並み外れてスピードに恵まれ、なおかつ意外なパワーの持ち主でもある。ただ本当のスゴさは周りの強みを引き出し、チームを勝たせる判断力とリーダーシップだ。

 パトリックHCは富樫をこう称賛する。

「彼はチームの顔だと思うし、リーダーシップもありますよね。もちろん得点を取る力はありますけど、他のメンバー、外国人選手がナーバスになったときは冷静にプレッシャーブレイクをして、大切なときにレイアップも打ってくれました」

 富樫は2020-21シーズンから千葉Jのキャプテンを任されて、今季まで3シーズン務めている。彼自身は就任直後から「自分はキャプテン向きではない」と繰り返しコメントしていた。15日の試合後も、やはりこう述べている。

「自分は“すごくリーダーシップがある”ほうではないと思います。一応キャプテンとして何シーズンかやらせてもらっていますけど、いわゆるキャプテンの仕事をしているわけではありません。コートの中で気づいたこと、自分が思ったことを発しているだけです」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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