「リーダー向きではない」と自認する富樫勇樹 B1最強・千葉Jを大一番で勝たせる異色のキャプテン像

大島和人

周りと違う温度感を持てるキャラクター

富樫は「プレーを楽しんでいる」気配が伝わってくる選手でもある 【(C)B.LEAGUE】

 モントロス・クリスチャン高校への留学経験を持ち、外国出身の選手と不自由なくやり取りができる語学力は富樫の強みだ。ただ闘将、熱血漢というタイプではないし、コート上の彼はいつも自然体だ。どちらかといえばシニカルで、SNSではユーモアのこもった“毒舌”もファンならよくご存じだろう。「程よく空気を読まない」「無表情で面白いことを言う」のが富樫の“らしさ”でもある。

 試合後に熱くなっている我々メディアに対しても、飲み込まれず、自分の考えを率直に語る。それも富樫の持ち味だ。彼は記者の誘導的な質問に対して「そうですね」の受け止めでなく、「いや」という否定から入るやり取りが多い。拒絶や喧嘩腰という頑なさはないが、相手と線を引く姿勢をよく感じる。

 バスケットボールという“流れ”が激しく動く競技では、富樫の圧を受けても揺るがない、周りと違う温度感を保てるマインドが生きるのだろう。勝負どころになれば、無理に言葉で引き上げなくても選手のモチベーションや試合のペースは上がる。逆に「上がり過ぎる」ことで問題も起こる。そんな修羅場でも平常心を保てる彼は、自然と勝負強いプレーヤーになっていく――。その真価が15日のクォーターファイナルでも見て取れた。

「レベルの高いゲームほど基本に戻る」

千葉JのパトリックHCは就任1年目でB1史上最高勝率を達成 【(C)B.LEAGUE】

 クォーターファイナルの勝因を尋ねられた富樫は、こう口にしていた。

「CSだからといって特別なことをやっているわけではありません。チームとしてレギュラシーズンの60試合でチーム作りをして、それをベースにCSも戦っています。初戦に負けたからといって2日目で特に大きく変えたわけでもなく、今までやってきたことを信じてやるだけでした」

 富樫というリーダーがいる限り、千葉Jが少なくとも自分たちから崩れることはない。チームが1戦目を落としても、富樫はレギュラシーズン60試合の積み上げへの自信を失っていなかった。

 日本語も堪能なアメリカ人指揮官も同じように述べていた。

「ビッグゲームは当然、両チームが全力でやるけれど、どちらがクールに良い判断をするかが大事。レベルの高いヨーロッパでも、レベルの高いゲームほど基本に戻ります。レベルの高い選手は一番の基本のところ、速いペース、フィジカルな展開でもしっかりやります」

セミファイナルの相手は宿敵・A東京

 20日(土)から始まるセミファイナルは、彼らのライバル・アルバルク東京が相手だ。A東京は千葉Jが2017-18シーズン、2018-19シーズンのファイナルで敗れている宿敵。今季は3勝1敗と勝ち越しているが、富樫の記憶には“悔しさ”が今も刻みつけられている。

「レギュラーシーズンはもしかしたら勝ち越しているデータがあるかもしれないですけど、正直それは関係ありません。(A東京は)力のある、経験のある選手がたくさんいる中で、実際こうやって勝ち上がってきています。ライバルというのはもちろんそうですし、ファイナルで2回敗れた記憶があるので、『今年こそ』という思いです」(富樫)

 クールな富樫だが、ライバルとの対戦について問う質問にはストレートで熱い答えを返していた。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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