4位から大逆転優勝のNECレッドロケッツ エース古賀紗理那が大切にしてきたチームの力
しかも決勝はNECが2セットを先取してから東レアローズが2セットを奪い返してのフルセット。勢いで勝る東レの選手たちが、逆転勝ちに向け、気合を入れなおした厳しい表情でコートへ向かう中、NECのエース、古賀紗理那はコートに立つとふっと息を吐き、笑った。
偶然ではない。古賀は“あえて”笑った。勝負を楽しんでいたのはもちろんだが、緊張が高まる、勝負がかかった場面だからこそ笑う。
きっかけは、ファイナル進出をかけて「絶対に負けられない」と並々ならぬ気合を持って臨んだファイナル4初戦。レギュラーラウンド1位の東レに喫したストレート負けだった。レギュラーラウンドの順位が持ち越されるため、4位から勝ち上がるには言葉の通り「絶対に負けられない」と気合が入るのは当然だ。
だが、それが裏目に出た、と古賀が振り返る。
「普通にいつも通りやってきたことができればつながるボールも拾えなくて、無駄な力が入るから足も動かない。攻撃のリズムもどんどん崩れて、みんながストレスを抱えたままやっている状態でした。正直、これじゃ勝てない、と思ったし、試合をしながら勝てる気がしませんでした」
「ヘラヘラする」ことを選んだ大黒柱の真意
「『いい意味でヘラヘラしよう』って。初戦の反省として、チーム全体がワーっと熱くなりすぎて、それが硬さにつながっていたんです。だから自分たちのプレーに集中して、落ち着いて、いい意味でガーっと入り込みすぎないようにしよう、と。でも試合になるとつい熱くなってしまって、私も自分のクイックが1本決まった時に、思わず普段通りにガッツポーズで「ッシャー!」と吼えたら、サリナに『ブンさん、シャーじゃないでしょ』って試合中に言われました(笑)」
周囲だけでなく、自らに向けた言葉でもある。今季、NECでは攻守の中心になるだけでなく、精神面でも古賀の存在は絶対的な柱でもあった。
日本代表で主将を務めることも象徴するように、発言力もある。誰か1人に頼るのではなく、全員が同時に攻撃展開するバレーボールに意識高く取り組む。そのため自身にも周囲にも高いレベルを求めるがあまり、厳しい口調で要求することも少なくなかった。
チームを引き締めるために重要である反面、「怖い」と恐れられることもある。伝え方の難しさに古賀自身も何度も悩み、影響力の強さも理解していた。だからこそ、崖っぷちに追い込まれたファイナルではあえて、引き締めるのではなく「ヘラヘラする」ことを選んだ。古賀がその理由を明かす。
「私が吼えると私だけじゃなく、他の人も『やらなきゃ』とガーっと熱くなりすぎて力が入ってしまうんです。試合の出だしはその勢いも大事なんですけど、力が入りすぎると当たり前にできるプレーもできなくなる。(ファイナル4の)2戦目からは自分でも意識していたし、リザーブの(藤井)莉子に『こめかみに力が入っていたら教えて』と伝えたんです。莉子は普段からものすごく声を出してくれる選手なので、気づいたことやチームを盛り立てる声だけじゃなく、私に向けても『サリナさん、もっと笑顔!』と声をかけてくれて、すごく助けられました」