4位から大逆転優勝のNECレッドロケッツ エース古賀紗理那が大切にしてきたチームの力

田中夕子

NECレッドロケッツが6年ぶり7度目の優勝。決勝は2時間23分に及ぶ激闘になった 【(c)V.LEAGUE】

 崖っぷちからつかんだ優勝。レギュラーラウンド4位からの下剋上を果たし、NECレッドロケッツが6年ぶり7度目の頂点に立った。

 しかも決勝はNECが2セットを先取してから東レアローズが2セットを奪い返してのフルセット。勢いで勝る東レの選手たちが、逆転勝ちに向け、気合を入れなおした厳しい表情でコートへ向かう中、NECのエース、古賀紗理那はコートに立つとふっと息を吐き、笑った。

 偶然ではない。古賀は“あえて”笑った。勝負を楽しんでいたのはもちろんだが、緊張が高まる、勝負がかかった場面だからこそ笑う。

 きっかけは、ファイナル進出をかけて「絶対に負けられない」と並々ならぬ気合を持って臨んだファイナル4初戦。レギュラーラウンド1位の東レに喫したストレート負けだった。レギュラーラウンドの順位が持ち越されるため、4位から勝ち上がるには言葉の通り「絶対に負けられない」と気合が入るのは当然だ。

 だが、それが裏目に出た、と古賀が振り返る。

「普通にいつも通りやってきたことができればつながるボールも拾えなくて、無駄な力が入るから足も動かない。攻撃のリズムもどんどん崩れて、みんながストレスを抱えたままやっている状態でした。正直、これじゃ勝てない、と思ったし、試合をしながら勝てる気がしませんでした」

「ヘラヘラする」ことを選んだ大黒柱の真意

熱くなりすぎて硬さが出た初戦の反省から、古賀はあえて笑顔を増やす提案をした 【(c)V.LEAGUE】

 負けたら終わり、しかも大事な初戦で喫した完敗。それも相手にねじ伏せられたのではなく自滅に近い展開だったこともあり、試合後の空気は最悪だった。とはいえ、翌日も試合は続く。久光スプリングスとの、まさに「負けたら終わり」の試合へ向けてどう切り替えるか。古賀の提案は、それまでと違うものだった、とミドルブロッカーの上野香織が明かす。

「『いい意味でヘラヘラしよう』って。初戦の反省として、チーム全体がワーっと熱くなりすぎて、それが硬さにつながっていたんです。だから自分たちのプレーに集中して、落ち着いて、いい意味でガーっと入り込みすぎないようにしよう、と。でも試合になるとつい熱くなってしまって、私も自分のクイックが1本決まった時に、思わず普段通りにガッツポーズで「ッシャー!」と吼えたら、サリナに『ブンさん、シャーじゃないでしょ』って試合中に言われました(笑)」

 周囲だけでなく、自らに向けた言葉でもある。今季、NECでは攻守の中心になるだけでなく、精神面でも古賀の存在は絶対的な柱でもあった。

 日本代表で主将を務めることも象徴するように、発言力もある。誰か1人に頼るのではなく、全員が同時に攻撃展開するバレーボールに意識高く取り組む。そのため自身にも周囲にも高いレベルを求めるがあまり、厳しい口調で要求することも少なくなかった。
 チームを引き締めるために重要である反面、「怖い」と恐れられることもある。伝え方の難しさに古賀自身も何度も悩み、影響力の強さも理解していた。だからこそ、崖っぷちに追い込まれたファイナルではあえて、引き締めるのではなく「ヘラヘラする」ことを選んだ。古賀がその理由を明かす。

「私が吼えると私だけじゃなく、他の人も『やらなきゃ』とガーっと熱くなりすぎて力が入ってしまうんです。試合の出だしはその勢いも大事なんですけど、力が入りすぎると当たり前にできるプレーもできなくなる。(ファイナル4の)2戦目からは自分でも意識していたし、リザーブの(藤井)莉子に『こめかみに力が入っていたら教えて』と伝えたんです。莉子は普段からものすごく声を出してくれる選手なので、気づいたことやチームを盛り立てる声だけじゃなく、私に向けても『サリナさん、もっと笑顔!』と声をかけてくれて、すごく助けられました」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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